アメリカ大陸先住民の遺伝的起源

 まだ日付は変わっていないのですが、11月22日分の記事として掲載しておきます。アメリカ大陸先住民の遺伝的起源についての研究(Raghavan et al., 2014)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。『ネイチャー』のサイトにも関連記事が掲載されています。この研究では、南中央シベリアのマリタ遺跡で発見された少年(MA-1)のDNAが解析されています。“MA-1”の年代は24000年前頃で、現在はサンクトペテルスブルクのエルミタージュ美術館で保管されています。

 まず“MA-1”のミトコンドリアDNAが解析され、“MA-1”はハプログループUに属する、という結果が得られました。ハプログループUは現在おもにヨーロッパで見られ、上部旧石器時代および中石器時代においても、ヨーロッパの採集狩猟民に高頻度で見られます。この結果を受けて、この論文の共著者であるウィラースレフ博士は試料汚染の可能性を考え、研究計画を1年間延期したそうです。

 しかし、“MA-1”の核DNAの解析でも同様の結果が得られました。“MA-1”のY染色体の系統は、現代西ユーラシア人の系統の基底部に位置し、またほとんどのアメリカ大陸先住民の系統の根源の近くに位置します。また、“MA-1”の常染色体上には、現代西ユーラシア人の基底部に位置し、現代のアメリカ大陸先住民に遺伝的に近縁であるものの、東アジア人には類似していない領域が確認されました。

 こうした“MA-1”のDNA解析は、現代西ユーラシア人と関連する集団が、24000年前頃にじゅうらい想定されていたよりも北東に拡散していた、ということを示唆しています。アメリカ大陸先住民の祖先集団の遺伝子プールの14~38%は西ユーラシア起源の集団に由来し、アメリカ大陸先住民の祖先集団は、東アジア人の祖先集団と分岐した後に、シベリアのどこかで西ユーラシア起源の集団と遭遇して融合し、アメリカ大陸へと進出したのではないか、とこの研究では推測されています。

 また、南中央シベリアのアフォントヴァゴラ遺跡で発見された人骨(Afontova Gora-2)のDNAも解析され、“MA-1”と似た常染色体上の遺伝的特徴が明らかになりました。“Afontova Gora-2”の年代は17000年前頃なので、南中央シベリアには最終最大氷期の間も人類が居住し続けたのではないか、とこの研究では推測されています。

 アメリカ大陸先住民の祖先集団は、東アジア人の祖先集団から分岐した集団と、西ユーラシア起源の集団との融合により誕生した、とするこの研究結果により、アメリカ大陸先住民に関する二つの謎にたいする説明が可能となります。一つは、アメリカ大陸先住民は東アジア人と近縁とされているのに、アメリカ大陸の最初期の人類集団の頭蓋は、東アジア人のそれと似ていない、という疑問です。

 もう一つは、アメリカ大陸先住民のミトコンドリアに、西ユーラシアで見られて東アジアでは見られないハプログループXが見られる、という謎です。アメリカ大陸先住民に見られるハプログループXを、ヨーロッパの上部旧石器時代のソリュートレアンの担い手がアメリカ大陸へと移住してきたためだ、と想定する仮説も、この研究で不要になった、とされています。ただ、アメリカ大陸への人類の拡散が1回だったのか複数だったのかという問題については、まだ解決したとは言えない、と指摘する研究者もいます。

 以上、この研究についてざっと見てきました。ひじょうに興味深く、重要な研究だと思います。シベリアで発見された更新世の人骨は少ないようですが、寒冷な気候なので、発見されたらDNA解析に成功する可能性は低くないでしょう。もちろん、年代がきょくたんに古ければ無理でしょうが、シベリアであれば、5万年前以降ならば有望だと思います。また、78万~56万年前頃のウマのゲノム解読が成功していますので(関連記事)、シベリアであれば、数十万年前の人骨でもDNA解析に成功する可能性が多少はあるのではないか、と期待したくなります。


参考文献:
Raghavan M. et al.(2014): Upper Palaeolithic Siberian genome reveals dual ancestry of Native Americans. Nature, 505, 7481, 87–91.
http://dx.doi.org/10.1038/nature12736

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