イベリア半島南部における中部旧石器時代~上部旧石器時代の移行年代の見直し

 取り上げるのが遅れましたが、イベリア半島南部における中部旧石器時代~上部旧石器時代の移行年代の見直しについての研究(Wood et al., 2013)が報道されました。イベリア半島において、ムステリアン(ムスティエ文化)の担い手はネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)のみだった、と考えられています。これまで、イベリア半島におけるネアンデルタール人化石やムステリアンは、エブロ渓谷の南では遅いもので36000年前(較正年代)に見られる一方、エブロ渓谷の北では、現生人類(ホモ=サピエンス)が担い手と考えられるプロトオーリナシアンが出現する42000年前(較正年代)には消える、と考えられてきました。

 この研究では、中部旧石器時代~上部旧石器時代移行期のエブロ渓谷の南側の年代の2/3が、放射性炭素年代測定方法によるものであることが問題視されています。放射性炭素年代測定方法では、汚染物質の影響が考えられるからです。より正確な放射性炭素年代測定のためには、試料となる汚染された動物の骨からコラーゲンを精製する限外濾過を用いる必要があります。この研究では、イベリア半島南部の中部旧石器時代および早期上部旧石器時代の11遺跡から試料が集められましたが、正確な年代測定にじゅうぶんなコラーゲンが得られたのはジャラマ6(Jarama VI)およびザファラヤ(Zafarraya)の2遺跡だけでした。

 新たな放射性炭素年代測定の結果は、じゅうらいの推定年代よりも少なくとも10000年古くなり、ジャラマ6のムステリアンおよびザファラヤのネアンデルタール人化石は、放射性炭素年代測定法の限界に近いか超える年代だと分かりました。この研究では、42000年前以降の遺跡は、ネアンデルタール人と判断できるような石器群(たとえばムステリアン)や化石がなければ、その担い手としてネアンデルタール人のみを想定するべきではない、と提言しています。

 以上、ざっとこの研究について見てきました。この10年ほど、ヨーロッパの旧石器時代の年代の大々的な見直しが続いています。じゅうらいの放射性炭素年代測定法では、汚染物質の影響を排除できず、実際よりも新しい年代が出てしまう、というわけです。したがって、年代の見直しは主に後期中部旧石器時代以降となります。これにより、ネアンデルタール人の存在年代も繰り上がり、ネアンデルタール人と現生人類との共存期間は、一昔前の推定よりも短くなる傾向にあります。ネアンデルタール人の存在年代は、ネアンデルタール人の絶滅理由を探るうえで基礎的なデータとなりますので、今後さらに進展していくだろう研究を何とか追いかけていきたいものです。


参考文献:
Wood RE. et al.(2013): Radiocarbon dating casts doubt on the late chronology of the Middle to Upper Palaeolithic transition in southern Iberia. PNAS, 110, 8, 2781-2786.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1207656110

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