米田穣「放射性炭素が書きかえる移動の歴史 ネアンデルタール人と現生人類の交替劇」

 印東道子編『人類の移動誌』初版第2刷(関連記事)所収の論文です。本論文は、放射性炭素年代測定法の原理と、その後の発展および問題の顕在化とその改善について概観しており、放射性炭素年代測定法についての理解の手がかりとしてたいへん有益だと思います。本論文で指摘されているように、放射性炭素年代測定法の歴史で転機となったのは加速器質量分析法(AMS法)の開発で、これにより応用範囲が大きく広がりました。

 放射性炭素年代測定法で近年になって大きく取り上げられた問題として、このブログでも取り上げたことがあります(関連記事)が、本論文でも試料汚染が挙げられています。この問題は、試料汚染によりじっさいよりも年代が新しく出ることから、限外濾過を用いて汚染を受けにくいコラーゲンを精製して、年代を測定する方法が用いられるようになりました。その結果として得られた新たな年代では、ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)の年代がじゅうらいよりも繰り上がる傾向にあり、一時期推定されていたよりも、ネアンデルタール人と現生人類(ホモ=サピエンス)のヨーロッパでの共存期間は短かったのでないかとの意見が有力になりつつある、と本論文では解説されています。

 こうした新たな年代測定により、ウルツィアンやシャテルペロニアンといった、中部旧石器時代~上部旧石器時代移行期のネアンデルタール人の所産と考えられてきた文化についても、ウルツィアンはそもそも現生人類の所産であり、シャテルペロニアンにおいても装飾品のような「現代的」遺物は上層からの嵌入で現生人類の所産だった、との可能性が指摘されていることを、本論文は紹介しています。しかし、シャテルペロニアンについては、上下の地層の間で攪乱はなかった、との反論も紹介されています。こうした問題も含めて、ネアンデルタール人と現生人類の「交替劇」については、ようやく研究の道具が整ったのが現状だ、と本論文では指摘されています。


参考文献:
米田穣(2014A)「放射性炭素が書きかえる移動の歴史 ネアンデルタール人と現生人類の交替劇」印東道子編『人類の移動誌』初版第2刷(臨川書店)第5章「移動を検証する多様な技術」第3節P295-307

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