松本佐保『バチカン近現代史 ローマ教皇たちの「近代」との格闘』再版

 中公新書の一冊として、中央公論新社から2013年7月に刊行されました。初版の刊行は2013年6月です。バチカンについては、学術系の一般書よりも娯楽作品で接することの方がずっと多く、また近現代のバチカンについては、さまざまな雑誌・書籍などで断片的に知っているだけであり、まとまった本を読んだことがなかったので、本書を読んでみました。

 本書は、バチカンが近代化にどう取り組んできたのか、概観しています。本書はその起点をウェストファリア条約に置いていますが、バチカンが本格的に近代化と向き合った契機はフランス革命だとして、基本的にはフランス革命以降のバチカンの動向を対象としています。なお、ひじょうに簡潔ながらも、バチカンの成立過程からフランス革命にいたるまでの動向も解説されています。

 フランス革命はバチカンにとって大いなる脅威となり、これ以降、近代化とどう向き合うのかということが、バチカンにとって存亡のかかった重要な課題となりました。ただ、著者の専攻が国際関係史のためなのか、文化・思想面よりも近代国民国家との政治的緊張関係という視点の方がずっと強くなっており、バチカンと近現代の主要諸国家との外交関係の分析が中心となっていたのは、やや残念でした。

 ロシア革命以降、とくに第二次世界大戦後は、バチカンと共産主義との対峙が強調されています。しかしこれも、共産主義の標榜する無神論との根源的な対立との説明は提示されているものの、カトリックと共産主義とのイデオロギー対決というよりは、国際関係史的というか、バチカンとソ連をはじめとする社会主義諸国との緊張関係の方がはるかに強調されているように思います。

 近代がバチカンに及ぼした影響は、文化・思想面で大きなものがあったはずですが、近代の理性主義にバチカンがどう対応したのか、という側面がかなり弱いように思えたのは残念でした(近代国民国家も理性主義の産物とは言えますが)。進化論についても、とくに触れられていません。これはバチカンにとってもかなりの衝撃だったろう、と思うのですが。また、性的指向といった近年になってさらに重視されるようになった、バチカンを揺るがしているだろう問題についてほとんど触れられていなかったのも残念でした。

 第二次世界大戦時のローマ教皇だったピウス12世のナチスにたいする姿勢などバチカンが批判されそうなところは、ロシア革命以降については共産主義との対決という大義名分で正当化するようなところが見られたのは気になりました。確かに、ヨーロッパで社会主義諸国の体制が崩壊したことについては、本書が強調するようにバチカンの貢献も大きかったとは思いますが。

 また、近年バチカンにたいして大きな批判の集まった教会内での子供への性的虐待についても、ごくわずかに触れられているだけです。正直なところ、本書はバチカンにたいしてかなり甘いのではないか、と疑問に思ってしまったのですが、これは小さい頃からのアンチキリスト教である私の偏見なのかもしれません。しかし、色々と不満もありますが、近現代のバチカンについて大まかに把握するには適した一冊だと思いますし、読み物としてはなかなか面白くなっていると思います。

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