Marlene Zuk『私たちは今でも進化しているのか?』

 マーリーン=ズック(Marlene Zuk)著、渡会圭子訳、垂水雄二解説で、文藝春秋社より2015年1月に刊行されました。原書の刊行は2013年です。本書を貫く基調の一つは、人間も含めて生物は進化史のある時点で完璧に環境に適応したことはないのであり、進化の過程で獲得した特徴には完璧からは程遠く妥協的なところも多分にあった、というものです。ある環境(条件)に有利な特徴が、別の環境では不利に働くということは珍しくなく、トレードオフ(交換条件)は進化においてありふれている、とも指摘されています。

 次は、進化は短期間でも起き得るのであり、人間の進化は今も続いている、というものです。進化には、安定的に長期にわたって継承される特徴もあれば、短期間のうちに定着する新たな特徴もある、というわけです。もう一つはこれとも関連しますが、進化には終点があり、それは現代人が体現している、という一般には根強いだろう信念への批判です。本書はこうした見解を前提として、近年話題になっている「パレオダイエット」などの「パレオファンタジー(石器時代への幻想)」を批判しています。

 人間に限らず生物は進化し続けているのであり、現代人のある特徴が、過去のある時点の環境に完璧に適応したものだったわけでもないのだから、「パレオダイエット」などの「パレオファンタジー」は的外れなものだろう、というわけです。本書の見解は基本的に妥当なものだろう、と思います。もちろん、本書も指摘するように、現代人、とくに都市部の住民が陥りやすい運動不足や栄養過多(とくに糖質)が、健康に悪影響を及ぼしていることは間違いないでしょうが。

 本書で取り上げられている見解には興味深いものが多いのですが、やはり著者の専門ということもあってか、ハワイ諸島のコオロギの進化の話にはとくに惹かれました。カウアイ島で、鳴かないコオロギ(オス)が長く見積もってもわずか5年・20世代程度の間に出現して全体の9割を占めるようになったことは、大いに注目されます。繁殖のうえで必須とも言えた鳴くための(遺伝子に裏づけられた)形態が、新たな環境に存在した寄生バエの存在という選択圧のために、あっという間に形態が進化した、というわけです。この進化は、どの遺伝子変異に原因があるのか、DNA解析でも確認されました。

 人間の短期間の進化の例としては、乳糖(ラクトース)耐性が挙げられています。これは、古くともここ数万年以内に複数の地域で独自に起きた変異と考えられています。この変異を定着させた要因は、畜乳の利用を伴う牧畜の開始だったようです。このように、「文化」も選択圧となり得ます。また本書は、チベット人における高地適応も人間の短期間の進化の例として挙げています。なお、原書刊行後に公表された研究によると、チベット人に高地適応をもたらす遺伝子の中に、デニソワ人(種区分未定)から継承したと推測されるものもあるそうです(関連記事)。


参考文献:
Zuk M.著(2015)、渡会圭子訳、垂水雄二解説『私たちは今でも進化しているのか?』(文藝春秋社、原書の刊行は2013年)

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