雑記帳

アクセスカウンタ

zoom RSS 青銅器時代のヨーロッパにおける人間の移動

<<   作成日時 : 2015/06/12 00:00   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 6 / コメント 0

 新石器時代〜青銅器時代のヨーロッパにおける人間の移動に関する、『ネイチャー』に掲載された二つの研究が報道されました。『ネイチャー』には解説記事(Callaway., 2015)も掲載されています。5000〜3000年前頃のユーラシアの青銅器時代には、精巧な武器や馬に牽引させる戦車が拡散し、埋葬習慣の変化が広範に確認されるなど、大きな文化的変容が生じた、とされています。この大きな文化的変容が、おもに文化のみの拡散によるのか、それとも人間集団の移動に伴うものだったのか、ということをめぐって議論が続いてきました。この問題は、インド-ヨーロッパ語族の拡散とも関係して論じられてきました。

 5000〜1300年前頃のユーラシアの住民101人のゲノムを解析した研究(Allentoft et al., 2015)では、青銅器時代のヨーロッパにおける大きな文化的変容は人間集団の移動に伴うものであり、インド-ヨーロッパ語族が青銅器時代にヨーロッパに拡散したとする仮説が支持される、との見解が提示されています。5000年前頃には、ヨーロッパ中央・北部のゲノムは中東からの初期農耕民やそれ以前のヨーロッパの狩猟採集民のゲノムに似ていました。しかし、ヨーロッパ中央・北部集団のゲノムは4000年前頃までには、カスピ海〜黒海の北側の草原地帯に存在したヤムナヤ(Yamnaya)文化集団のゲノムにもっと類似していました。

 この研究は、薄い肌の色は青銅器時代のヨーロッパにおいてすでに高頻度で存在したものの、乳糖耐性はそうではなかったことも明らかにしています。以前には、ヨーロッパの初期農耕民において畜乳はカロリー摂取の重要な手段であり、新石器時代から乳糖耐性には正の淘汰が働いていたのではないか、と考えられていたのですが、乳糖耐性に関しては、正の淘汰が働いたのは青銅器時代以降のことではないか、と指摘されています。この乳糖耐性は、ヤムナヤ文化集団によりヨーロッパにもたらされた、と推測されています。

 もう一方の研究(Haak et al., 2015)では、8000〜3000年前の69人のヨーロッパ人の全ゲノムデータが作成され、解析・比較されました。その結果、やはり青銅器時代における東方草原地帯(現在の国境線ではウクライナを中心とします)からヨーロッパへの大規模な人間集団の移動が示唆されました。ヨーロッパにおいて新石器時代の始まりとなる8000〜7000年前頃に、遺伝的にはヨーロッパの先住狩猟採集民とは異なり、初期農耕民と密接に関連した集団がドイツ・ハンガリー・スペインに現れました。一方でその頃のロシアには、24000年前頃のシベリア人と高い遺伝的類似性を有する狩猟採集民集団が存在していました。

 6000〜5000年前までには、ヨーロッパの大半の農耕民はその祖先集団よりも多くの狩猟採集民集団のDNAを有していました。一方でこの時期の東方草原地帯の牧畜民であるヤムナヤ集団は、ヨーロッパ東部の狩猟採集民だけではなく、中東の農耕民集団のDNAも継承していました。ドイツの後期新石器時代縄目文土器(the Late Neolithic Corded Ware)文化集団はそのゲノムのうち75%をヤムナヤ集団から継承しており、4500年前までには、ヨーロッパ東方の草原地帯からヨーロッパ西方へと大規模な人間の移動があったことが窺えます。

 この東方草原地帯由来のDNAは、遅くとも3000年前までには中央ヨーロッパ人の全標本に存在し、現在のヨーロッパ人には広く確認されます。この研究は、ヨーロッパのインド-ヨーロッパ語族の少なくともいくつかは、東方の草原地帯に起源があるだろう、と指摘しています。また、中央ロシアのアルタイ山脈近くの4900〜4500年前頃の集団にもヤムナヤ集団の遺伝的痕跡が確認され、インド-ヨーロッパ語族のアジアへの拡散との関連が想定されます。最近では、青銅器時代のヨーロッパにおいて男性人口の拡大があったのではないか、との見解も提示されており(関連記事)、青銅器時代のヨーロッパにおける文化変容は、大規模な人間の移動に伴っていた可能性が高そうです。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(Allentoft et al., 2015の引用と、Haak et al., 2015の引用)です。


集団遺伝学:青銅器時代のユーラシアの集団ゲノミクス

集団遺伝学:青銅器時代のユーラシアの集団変化

 青銅器時代は大きな文化的変化の時代であったが、その要因は知識の伝達と大規模な人の移動のどちらにあったのだろうか。今回、ユーラシア各地の古代人101人の標本から低カバー率のゲノム塩基配列を得て解析した研究で、この時代に起こった大規模な集団の移動や入れ替わりが明らかになった。得られた解析結果は、青銅器時代のヨーロッパ人では、淡色の皮膚はすでに普通になっていたが乳糖耐性はあまり広まっていなかったことを示しており、乳糖耐性に対する正の選択が働き始めたのは従来考えられていたよりも新しい年代だったことが示唆された。この研究で得られた知見は、インド・ヨーロッパ語族が前期青銅器時代に広がったとする別の報告(Letter p.207)とも一致する。


集団遺伝学:ステップからの大移動がヨーロッパでのインド・ヨーロッパ語族の成因の1つとなった

集団遺伝学:ヨーロッパの言語を変えたステップからの大きな一歩

 今回D Reichたちは、8000〜3000年前に生存していたヨーロッパ人69人の全ゲノムデータを作成した。その解析から、8000〜7000年ほど前に現在のドイツ、ハンガリーおよびスペインに当たる地域で、先住の狩猟採集民とは異なる初期農耕民の血縁集団が出現したことが明らかになった。同時代のロシアには、2万4000年前のシベリア人との類似性が高い独特な狩猟採集民集団が生活していた。6000〜5000年前までに、ロシアを除くヨーロッパの広い地域で狩猟採集民系統が再び現れた。西ヨーロッパ集団と東ヨーロッパ集団は約4500年前に接触し、現代のヨーロッパ人にステップ系統の痕跡が残された。これらの解析から、新石器時代の人口動態に関する新たな手掛かりに加えて、ヨーロッパのインド・ヨーロッパ語族の少なくとも一部がステップ起源だとする説の裏付けが得られる。この研究で得られた知見は、青銅器時代の古代人101人のゲノムについて調べた別の研究結果(Article p.167)とも一致する。



参考文献:
Allentoft ME. et al.(2015): Population genomics of Bronze Age Eurasia. Nature, 522, 7555, 167–172.
http://dx.doi.org/10.1038/nature14507

Callaway E.(2015): DNA data explosion lights up the Bronze Age. Nature, 522, 7555, 140–141.
http://dx.doi.org/10.1038/522140a

Haak W. et al.(2015): Massive migration from the steppe was a source for Indo-European languages in Europe. Nature, 522, 7555, 207–211.
http://dx.doi.org/10.1038/nature14317

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(6件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
紀元前12000〜紀元前500年頃のヨーロッパにおける人間と文化の拡散
 これは2月23日分の記事として掲載しておきます。紀元前12000〜紀元前500年頃のヨーロッパにおける人間と文化の拡散に関する二つの研究が報道(報道1および報道2および報道3)されました。これらの研究はオンライン版での先行公開となります。一方の研究(Olalde et al., 2018)は、鐘状ビーカー複合(Bell Beaker Complex)の拡散が地域により異なる様相だったことを明らかにしています。鐘状ビーカー複合は、定型化した鐘状ポット・銅製短剣・矢尻・石製のリストガード・独... ...続きを見る
雑記帳
2018/02/22 18:25
新石器時代〜青銅器時代のイベリア半島の人類史
 これは3月19日分の記事として掲載しておきます。新石器時代〜青銅器時代のイベリア半島の人類のゲノム解析結果を報告した研究(Valdiosera et al., 2018)が報道されました。完新世の先史時代ヨーロッパにおいては、大きな移住の波が二つありました。一つは西アジア起源の農耕民集団で、アナトリア半島を経由してヨーロッパに拡散し、ヨーロッパに初めて農耕をもたらしました。大まかな傾向としては、更新世からのヨーロッパ在来の狩猟採集民集団は東方からの初期農耕民集団にゆっくりと同化されていっ... ...続きを見る
雑記帳
2018/03/15 10:49
新石器時代〜青銅器時代のヨーロッパにおける大規模な移住の性差
 これは4月4日分の記事として掲載しておきます。取り上げるのが遅れてしまいましたが、新石器時代〜青銅器時代のヨーロッパにおける人類の大規模な移住の性差に関する研究(Goldberg et al., 2018)が報道されました。人類史においてはたびたび大規模な移住が見られますが、性別の偏りが伴っている場合もあります。たとえば、ヨーロッパ勢力がアメリカ大陸へと侵出していったさいには、さまざまな証拠から、単身男性に偏っていたと考えられています(関連記事)。 ...続きを見る
雑記帳
2018/04/01 12:03
インド・ヨーロッパ語族の拡散の見直し
 おもに5500〜3500年前頃となる、内陸アジアとアナトリア半島の74人の古代ゲノムの解析結果と比較を報告した研究(Damgaard et al., 2018)が報道されました。『サイエンス』のサイトには解説記事が掲載されています。この研究はオンライン版での先行公開となります。インド・ヨーロッパ語族の拡散については複数の仮説が提示されていますが、有力なのは、ポントス-カスピ海草原(中央ユーラシア西北部から東ヨーロッパ南部までの草原地帯)の遊牧民集団の拡散にともない、インド・ヨーロッパ語族... ...続きを見る
雑記帳
2018/05/11 18:39
青銅器時代〜鉄器時代のユーラシア西部草原地帯の遊牧民集団の変遷
 青銅器時代〜鉄器時代のユーラシア西部草原地帯の遊牧民集団の変遷に関する研究(Krzewi&#324;ska et al., 2018)が報道されました。本論文は、おもにポントス-カスピ海草原(中央ユーラシア西北部から東ヨーロッパ南部までの草原地帯)の青銅器時代〜鉄器時代の人類集団のゲノムを解析し、ユーラシアの古代および現代の人類集団の既知のゲノムと比較しました。本論文の結論は、鉄器時代のユーラシア西部遊牧民集団の主要な起源はポントス-カスピ海草原東部にある、というものです。 ...続きを見る
雑記帳
2018/10/07 13:46
文化伝播によるユーラシア東方草原地帯の牧畜の始まり
 ユーラシア東方草原地帯における牧畜の起源に関する研究(Jeong et al., 2018)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。銅石器時代〜青銅器時代移行期に、ポントス-カスピ海草原(中央ユーラシア西北部から東ヨーロッパ南部までの草原地帯)からの遊牧民の移住により、ヨーロッパと中央アジアでは人類集団に大きな遺伝的変容が見られました(関連記事)。しかし、銅石器時代〜青銅器時代において、ユーラシア西方草原地帯における大変化と比較して、ユーラシア東方草原地帯について... ...続きを見る
雑記帳
2018/11/07 18:38

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
青銅器時代のヨーロッパにおける人間の移動 雑記帳/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる