山田康弘『つくられた縄文時代 日本文化の原像を探る』

 これは12月28日分の記事として掲載しておきます。新潮選書の一冊として、新潮社から2015年11月に刊行されました。本書は縄文時代の研究史であり、縄文時代像の変遷の背景として、各時代の思潮があったことを強調しているのが特徴です。本書は、そもそも縄文時代という時代区分が定着したのは第二次世界大戦後である、とまず指摘します。戦前には、縄文時代は弥生時代とともに石器時代として一括して区分されることが多かったようです。

 戦後になって、採集狩猟と農耕という主要な生業の違いや土器の変化などにより、縄文時代と弥生時代が区分されるようになりました。両者の区分は表裏一体のものだった、と本書は指摘します。本書は、敗戦国たる日本が独立し、唯物史観が大きな影響力を有する知的状況において、戦後日本の新たな「国史」たるべく、発展段階的な歴史観を構成・編纂するうえで必要とされた時代区分として、縄文時代と弥生時代とが定着していったのではないか、との見通しを提示しています。

 このように「一国史」的枠組みを前提とした縄文時代の評価は、時代により変遷してきました。平等で貧しいという1980年代までの縄文時代像から、1990年代以降は、採集狩猟に重きを置きながらも豊かな社会であり、平等ではなく階層が見られたのではないか、という縄文時代像へと変わっていきました。本書は、縄文時代階層社会論への批判は根強くあり、階層社会論の背景としてバブル崩壊後の長期不況と格差の拡大があるのではないか、と指摘しています。

 一方、縄文時代像は「一国史」的枠組みを前提としつつも、「外部」との「交流」があったことも強調されるようになります。本書はこの背景について詳しく論じているわけではないのですが、1980年代以降にとくに盛んになった、「一国史」およびその背景となった近代史学への反省が背景としてあるように思われます。たとえば、朝鮮半島と縄文時代の北部九州との交流が強調されたこともありました。しかし本書は、両者の交流が一部で想定されたよりも少なかったことと、その理由として言語の違いがあったかもしれないことを指摘しています。

 朝鮮半島と縄文時代の北部九州との交流がさほど盛んではなかったことからも窺えるのですが、本書は、現在縄文文化と把握されている文化は、考古学的には日本列島の範囲内で把握することができそうだ、と指摘しています。しかし一方で本書は、縄文文化とは食糧獲得経済と土器や弓矢の使用と高い定着性といった特徴により大きく一括りできるだけで、時期・地域による違いが大きいとして、縄文時代の諸文化をより広く東アジアという地域的枠組みのなかで位置づけることも可能である、とも指摘しています。

 縄文時代において東日本と西日本とで大きな違いが見られることは、わりとよく知られていると思います。これまでに調査された遺跡数から、縄文時代の人口は東日本で多く西日本で少なかった、と推測されています。本書は山陰地方の縄文時代の遺跡を詳しく取り上げており、縄文文化とは多様であることを改めて確認しました。縄文文化をどのように把握するのかという問題は、日本列島や縄文時代に限定せず、東アジアや旧石器時代・弥生時代などを対象として、時空的に広範に比較・検証しなければいけないのでしょう。


参考文献:
山田康弘(2015)『つくられた縄文時代 日本文化の原像を探る』(新潮社)

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