肉食と食料の加工によるホモ属の進化(追記有)

 肉食および食料の加工とホモ属の進化の関係についての研究(Zink, and Lieberman., 2016)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。ホモ属の起源に関しては、まだ不明なところが多分にあるものの、それ以前の人類や同時代の他系統の人類と比較して、歯が小さくなり、咀嚼筋が減少して噛む力が弱まり、消化器官が小さくなった一方で、脳と身体は大きくなった、ということは広く認められています。咀嚼や消化の能力は低下した一方で、要求されるエネルギーは増えたわけです。

 この逆説的な組み合わせに関しては、肉食と食料の処理により可能になった、との見解が提示されていますが、調理は50万年前まで一般的ではなく、肉食と食料処理の効果はまだ詳しく明らかになっていません。この研究は、肉食と食料処理の技術が人類にどのような影響を及ぼしたのか、実験により検証しています。まず、肉食が食性の1/3を構成していたならば、咀嚼回数は肉食のない場合と比較して約13%減少する、と推定されています。また、石器の使用により、肉を薄く切ったり、球根を砕いたりすることで、要求される咀嚼能力はさらに大きく減少する、と推定されています。

 咀嚼や消化の能力の低下と、脳および身体の増大による要求されるエネルギーの増加というホモ属の進化における逆説的な組み合わせは、肉食と石器使用による食料処理とで可能になった、というわけです。ホモ属がその初期から石器を使い、肉を食べていたのは間違いありません。その意味で、ホモ属の進化に関して、肉食と石器使用による食料処理を重視するこの研究の見解は基本的に妥当だと思います。

 ただ、人類はホモ属の出現以前より柔軟というか機会主義的なところがあり、肉食もさほど珍しい行為ではなかったように思われます(関連記事)。また、石器の使用もホモ属の出現前にさかのぼる可能性が高いと思われます(関連記事)。ホモ属は、石器の使用と肉食をさらに発展させていき、それが、咀嚼や消化の能力の低下と、脳および身体の増大をもたらしたというか、そうした形質が選択される要因(背景)となったのでしょう。


参考文献:
Zink KD, and Lieberman DE.(2016): Impact of meat and Lower Palaeolithic food processing techniques on chewing in humans. Nature, 531, 7595, 500–503.
http://dx.doi.org/10.1038/nature16990


追記(2016年3月24日)
 本論文が『ネイチャー』本誌に掲載されたので、以下に『ネイチャー』の日本語サイトから引用します。



人類学:肉食と前期旧石器時代の食物加工技術がヒトの咀嚼能力に与えた影響

人類学:旧石器時代の食物加工

 およそ200万年前のホモ・エレクトス(Homo erectus)の出現は、それまでのどのヒト族よりも格段に小さい歯をもたらした。こうした歯の小型化は、大型動物の活動維持に必要な量の食物を処理する能力が低下することを意味する。加熱調理の発達が歯の小型化を可能にしたと言われることが多いが、加熱調理が広く見られるようになったのは約50万年前になってからである。では、加熱調理が広まるはるか前、ホモ・エレクトスが出現するまでの過程で何が起こったのだろうか。K ZinkとD Liebermanは今回、肉食や食物の簡単な加工技術が、咀嚼の労力や口内でのかみ砕きの効率に及ぼす影響について調べた。その結果、生でも非常に咀嚼しやすい肉を食餌に取り込んだことと、消化しにくいがデンプンを豊富に含み貯蔵可能な植物性素材を石器を使ってたたきつぶしたことが、咀嚼能力の違いを生んだ可能性があると示唆された。

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