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zoom RSS 6万年以上前とされたイベリア半島の洞窟壁画の年代の見直し

<<   作成日時 : 2018/09/22 10:47   >>

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 6万年以上前とされたイベリア半島の洞窟壁画の年代を検証した研究(Slimak et al., 2018)が公表されました。今年(2018年)2月に、イベリア半島の洞窟壁画の年代が6万年以上前までさかのぼると公表され、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の所産である可能性が高いということで、大きな話題を呼びました(関連記事)。もっとも、これが現生人類(Homo sapiens)の所産である可能性も一部で指摘されていましたし(関連記事)、そもそも年代に疑問が呈されていることも当ブログで取り上げました(関連記事)。

 本論文は、6万年以上前とされたイベリア半島の洞窟壁画の年代を具体的に検証しています。対象となったのは、スペイン北部となるカンタブリア(Cantabria)州のラパシエガ(La Pasiega)洞窟、ポルトガルとの国境に近くスペイン西部となるエストレマドゥーラ(Extremadura)州のマルトラビエソ(Maltravieso)洞窟、スペイン南部となるアンダルシア(Andalucía)州のアルダレス(Ardales)洞窟の壁画です。これらの壁画のなかには6万年以上前までさかのぼるものもあり、そうだとすると、5万年以上前のヨーロッパにおいて現生人類の存在は確認されていませんから、ネアンデルタール人の所産である可能性が高くなります。もしそうならば、確認されたネアンデルタール人の洞窟壁画の事例としては初となります。

 じゅうらい、これらのイベリア半島の事例に次いで古い洞窟壁画は、40800年前頃以前と推定されているスペイン北部のカンタブリア州にあるエルカスティーヨ(El Castillo)洞窟で発見されたもので、こちらもネアンデルタール人の所産である可能性が指摘されていました(関連記事)。しかし本論文は、この時期のカンタブリア州一帯は考古学的にはオーリナシアン(Aurignacian)期なので、現生人類の所産である可能性が高そうだと指摘していくます。

 本論文は、6万年以上前とされたイベリア半島の洞窟壁画の年代測定に用いられた、炭酸塩標本に基づくウラン-トリウム法自体は評価の高い技術であるものの、標本の扱いと年代の解釈は再検証されねばならず、6万年以上前という古い年代に関して、不正確という証拠があるというよりは、肯定的証拠がない、と指摘しています。本論文はまず、ウラン-トリウム法に基づいて炭酸塩の信頼できる年代を得るには、「閉鎖系」であることが重要と指摘します。たとえば、再結晶があると、じっさいの年代より古くなる可能性が高くなります。次に共通の問題として、測定されたトリウム230のすべてが、形成された炭酸塩以降のウラン234の崩壊に由来するわけではない、ということが指摘されています。このいわゆる「非放射性」トリウム230は、形成時に組み込まれ、補正されなければ、標本の年代値はじっさいより古く出ます。「非放射性」トリウム230の主要な供給源は、炭酸塩形成中の原料となる水に含まれている砕屑物およびトリウム230です。

 こうした点を考慮して、6万年以上前とされたイベリア半島の洞窟壁画の年代が再検証されました。元論文の年代で信頼性の高いものは、アルダレス洞窟の47000年前頃以降の年代です。ラパシエ洞窟とマルトラビエソ洞窟の壁画の元論文の年代の信頼性は低いのですが、それらのみが上部旧石器時代の洞窟壁画などの芸術的表現と比較できるようなものです。一方、アルダレス洞窟の壁画は単純に赤い堆積物で覆われた二次生成物で、「芸術的」表現とは言えないようなものです。アルダレス洞窟の壁面の赤い堆積物が人為的起源であることを証明するには、これら赤い堆積物の詳細な分析が必要となる、と本論文は指摘しています。

 47000年前には、イベリア半島、さらにはもっと広範にヨーロッパにおいても、現生人類の確実な存在は証明されていません。この時期のヨーロッパにおいては、ヨーロッパ中央部のボフニチアン(Bohunician)とフランス地中海沿岸のネロニアン(Neronian)という二つの「移行期インダストリー」のみが、早期の現生人類と関連しているかもしれませんが、人類遺骸が共伴していないので、確定的ではありません。いずれにしても、イベリア半島南部に現生人類が拡散してきたのは早くとも4万年前頃以降でしょうから(関連記事)、アルダレス洞窟の赤い堆積物が人為的なものだとしたら、「壁画」とは言えないかもしれないとしても、ネアンデルタール人が何らかの理由で壁面に顔料を付着させた証拠となるでしょう。

 ネアンデルタール人も洞窟壁画を描いていた、との見解は大きな話題を呼び、私も注目して興奮したものですが、やはりこれまでの有力説を否定するだけに、厳しく検証されるのは仕方のないところですし、またそれは必要でもあります。今後は、「芸術」と評価できるようなイベリア半島の洞窟壁画のうちいくつかが確実に6万年以上前で、ネアンデルタール人の所産である可能性が高い、と明らかになることを期待していますし、その可能性はきょくたんに低くはないと思います。


参考文献:
Slimak L. et al.(2018A): Comment on “U-Th dating of carbonate crusts reveals Neandertal origin of Iberian cave art”. Science, 361, 6408, eaau1371.
https://doi.org/10.1126/science.aau1371

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