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zoom RSS ローマ帝国における近親婚

<<   作成日時 : 2018/10/26 18:37   >>

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 不勉強なため、まだまったくと言ってよいほど疑問が解消されていないのですが、興味深い事例なので、備忘録として記事にしておきます。近親交配(近親婚)について当ブログでは、クロアチアのネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の高品質なゲノム配列を取り上げたさいに言及しました(関連記事)。おそらく人類系統にも、近親交配を避けるような認知メカニズムが生得的に備わっている可能性は高く、人類社会において定常的な近親婚がほとんど見られないのは、根本的にはその認知メカニズムに起因すると思われます。

 しかし、それはさほど強い抑制ではなく、人類の配偶行動は状況により柔軟に変わると思われます。じっさい、ほぼ全ての現代人(Homo sapiens)の社会で近親婚は禁忌とされているでしょうが、その範囲は各社会によりさまざまで、いとこ婚を禁止する社会もあれば、それよりも近縁関係にある叔父(伯父)と姪もしくは叔母(伯母)と甥の婚姻を認める社会も存在します。それでも、親子間やきょうだい間での定常的な近親婚はまず見られません。

 とはいっても例外もあり、まず想定されるのは、宗教的もしくは社会身分的理由に起因する閉鎖性です。たとえば、古代エジプトや古代日本の王族(やそれに近い支配層)で、これは高貴性と財産の保持を目的としていたと思われます。次に想定されるのは、人口密度が希薄で、交通手段の未発達やそれとも関連する1世代での活動範囲の狭さなどにより、他集団との接触機会がきょくたんに少ないような場合です。

 たとえば、現生人類の事例ではありませんが、南西シベリアのアルタイ地域のネアンデルタール人は、両親が半きょうだい(片方の親のみを同じくするきょうだい)のような近親関係にあり、しかも近い祖先の間では近親婚が一般的だったのではないか、と推測されています(関連記事)。『ヒトはどのように進化してきたか』第5版(関連記事)では近親婚についても解説されていますが(P657〜665)、近親婚は適応度を大きく低下させます。そのため、近親婚の繰り返しがネアンデルタール人絶滅の要因だったのではないか、との見解も提示されています(関連記事)。しかし、クロアチアのネアンデルタール人の高品質なゲノム配列では、近親婚の痕跡は確認されませんでした。おそらくネアンデルタール人社会においても、孤立状況に陥らなければ、少なくともきょうだい間のような近親婚は避けられる傾向にあったのではないか、と思われます。

 このように、人類系統においても近親婚は避けられる傾向にあり、それはおそらく生得的な認知メカニズムに由来するものの、さほど強い抑制ではなく、とくに現生人類系統においては、王族における極度の近親婚のように、時として柔軟な配偶行動も見られます。しかし、それはあくまでも例外的で、現生人類社会において、きょうだい間のような極度の近親婚が定常的に見られることはまずありません。

 前置きが長くなってしまったというか、ほとんど前置きになってしまいましたが、ここからが本題です。しかし、『ヒトはどのように進化してきたか』第5版では、きょうだい間の定常的な結婚の事例も報告されています(P661)。それはローマ帝国支配下のエジプトで、紀元後20〜258年の間の市民・財産登録のデータによると、残された172の調査報告書から113組の結婚が推定されていますが、そのうち全きょうだい(両親が同じ)間が12例、半きょうだい間が8例確認されています。婚前協定書と結婚式への招待状が残っているので、これらきょうだい間の結婚は法的にも社会的にも承認されているようです。

 しかし、椎名規子「ローマ法における婚姻制度と子の法的地位の関係」によると、ローマ法では近親婚が禁止されていました。ローマ法では、初期にはきょうだい間の2親等までが、その後は伯父(叔父)と姪などの3親等までが、さらに後には、いとこ間のような4親等までが、婚姻禁止とされました。しかしその後、4親等でもきょうだいの孫は例外的に婚姻可とされたそうです。では、エジプトのきょうだい間の婚姻事例をどう解釈すべきなのか、という疑問が生じるわけですが、私の見識ではさっぱり分かりませんでした。市民・財産登録されているということはローマ市民でしょうから、ローマ法の適用対象外というわけでもないように思うのですが、私はローマ史・ローマ法の門外漢ですから、専門家にとっては的外れな疑問かもしれません。まあ、この問題の優先順位は高くないので、いつか新たな知見が得られれば、その時にまた当ブログにて記事を掲載するつもりです。


参考文献:
椎名規子(2018)「ローマ法における婚姻制度と子の法的地位の関係 欧米における婚外子差別のルーツを求めて」『拓殖大学論集 政治・経済・法律研究』第20巻第2号P47-81

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