アフリカからイベリア半島への先史時代の遺伝子流動

 アフリカからイベリア半島への先史時代の遺伝子流動に関する研究(González-Fortes et al., 2019)が公表されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。本論文の年代は基本的に、放射性炭素年代測定法による較正年代で、以下のアフリカとは、明記しない限りサハラ砂漠以南のアフリカを指します。現代ヨーロッパ人のゲノム解析ではアフリカ系集団の遺伝的影響がわずかに確認されており、その割合は南西から北東に向かうにつれて減少します。つまり、ヨーロッパでもイベリア半島において、アフリカ系集団の遺伝的影響が最も高い、というわけです。

 これが先史時代の移住の結果なのか、それとも歴史時代のことなのか、不明です。現代人のゲノム規模解析からは、ヨーロッパにアフリカから移住があったのはイスラム教拡散の頃のことだと推定されています。しかし、現代人のミトコンドリアDNA(mtDNA)とY染色体DNAの分析では、もっと前の10000~8000年前頃の交雑が示唆されています。強力な証拠の一つは、基本的にはアフリカでのみ見られるmtDNAハプログループLのヨーロッパ特有の亜系統が存在することで、これはヨーロッパにおける早期の到達とその後の地域的な進化を示唆しています。

 地理的に近接したイベリア半島とアフリカ北西部の間では、古代DNA研究により、遺伝子流動があった、と明らかになりつつあります。アフリカ北西部(モロッコ)では、15000年前頃の集団にサハラ砂漠以南のアフリカからの(関連記事)、5000年前頃となる後期新石器時代の集団には、それまで見られなかったヨーロッパ、おそらくはイベリア半島からの(関連記事)遺伝的影響が見られます。しかし、先史時代におけるアフリカからイベリア半島への遺伝子流動はこれまで確認されていませんでした。

 本論文は、、中期新石器時代~銅器時代~青銅器時代のイベリア半島の人類のうち、4人の核ゲノムを(網羅率は0.39~4.78倍)、またこの4人も含めて17人のmtDNAを解析しました。核ゲノムが解析された4人は、スペイン南部のルセーナ(Lucena)にある「天使の小さな洞穴(Covacha del A´ngel)」遺跡の標本「COV20126」と「天使の穴(Sima del A´ ngel)」遺跡の標本「LU339」、ポルトガル北部の「食事の広場(Lorga de Dine)」遺跡の標本「LD1174」と「LD270」です。年代は、COV20126が3637±60年前、LU339が4889±68年前、LD1174が4467±61年前、LD270が4386±128年前です。

 mtDNAハプログループは、1人を除いてヨーロッパで以前に確認されたものでした。しかし、COV20126は、サハラ砂漠以南のアフリカ、とくに西部と西部・中央部に現代では典型的に見られるL2a1でした。非アフリカ地域では基本的にmtDNAハプログループL3から派生したM・Nしか見られませんが、L2系統とL3系統の分岐年代は73000年前頃と本論文では推定されています。L2a1は、これまで先史時代の非アフリカ地域においては確認されていませんでした。

 COV20126は、mtDNAでは明確なアフリカ起源を示しましたが、核DNAではアフリカ系の影響は見られませんでした。しかし、イベリア半島の他の標本、とくに地中海沿岸地域と高原地域では、中期新石器時代~銅器時代にかけての複数個体には見られます。また、ポルトガルよりもスペインの方が、またより新しい時代の方が、より高いアフリカ系との類似性を示します。考古学的にも、イベリア半島南部とアフリカ北部との間で、新石器時代の類似性が指摘されています。本論文は核とミトコンドリアの両方で、先史時代におけるアフリカからヨーロッパへの遺伝子流動の直接的証拠を初めて報告したことになります。

 本論文はこれらの知見を根拠に、アフリカからイベリア半島南部への少なくとも1回の遺伝子流動事象があった、と解釈しています。この遺伝子流動については、大西洋北西端には到達していないか、その影響が小さかった、と本論文は考えています。この遺伝子流動がいつ起きたのか、正確な年代は不明で、より正確な検証には中石器時代のイベリア半島南部のゲノム解析が必要です。COV20126の核ゲノムにアフリカ系要素が見られなかったことについては、その年代がやや新しいので、ヨーロッパ系との混合が進んでアフリカ系要素が希釈されたことと、網羅率が0.39倍と低いことも影響しているかもしれません。古代DNA研究の進展は、とくにヨーロッパにおいて目覚ましく、とても追いついていけいてない状況なのですが、少しでも多くの論文や本を読んでいこう、と考えています。


参考文献:
González-Fortes G.. et al.(2019): A western route of prehistoric human migration from Africa into the Iberian Peninsula. Proceedings of the Royal Society B, 286, 1895, 20182288.
https://doi.org/10.1098/rspb.2018.2288

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