ネアンデルタール人の絶滅に関する議論
ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の絶滅には高い関心が寄せられてきており、とても的確にまとめるだけの準備は整っていませんが、とりあえず、当ブログの関連記事一覧をまとめ、自分の現時点での見解を短く述べていきます。ネアンデルタール人の絶滅要因を大別すると、気候変動を中心とした環境説と、現生人類(Homo sapiens)との競合説になると思います。もちろん、多くの本・論文は複合的要因を指摘しているとは思います。環境説は、ネアンデルタール人も気候変動に応じて拡大・撤退・縮小を繰り返していたことから(関連記事)、単独では成立しないというか、究極的な要因にはならないと思います。
もちろん、現生人類との接触がなく、気候変動などにより絶滅した地域的なネアンデルタール人集団も存在するでしょうが、種(分類群)としてネアンデルタール人が絶滅したのは、現生人類が拡散してある程度の期間の共存の後だったことから、やはり現生人類との競合が究極的な要因だったと考えるのがだとうでしょう。ただ、ネアンデルタール人の絶滅とはいっても、より正確には、ネアンデルタール人の形態的・遺伝的特徴を一括して有する集団は現在では存在しない、と言うべきかもしれません。ネアンデルタール人はユーラシア中緯度地帯において長期にわたって、強力な競合種(分類群)が存在しないなか、寒冷化で打撃を受けても温暖化により回復してきたものの、現生人類が拡散してくると、現生人類との競合のため寒冷化による打撃から回復できなかったのだと思います。また、気候変動とはさほど関係なく、現生人類との競合により絶滅したネアンデルタール人の地域的集団もあったでしょう。
現生人類との競合説を大別すると、潜在的能力説と後天的社会説になると思います。もっとも、これも単純に二分できるわけではありませんが。潜在的能力説では、ネアンデルタール人にはできなかった何かを現生人類ができた、と想定されます。それは、高度な言語・意思伝達能力や象徴的思考能力や高度な計画性などの認知能力です。それが技術や社会規模や行動に影響し、劣っている(効率的ではない)ネアンデルタール人は優れた(効率的な)現生人類との競合で敗北する運命にあった、と想定されます。もっとも最近では、両者の大きな違いの重要な考古学的根拠とされた洞窟壁画を、ネアンデルタール人が描いていた可能性も指摘されており(関連記事)、潜在的能力説の一部?で言われているほど、両者の潜在的能力の違いは大きくなかったかもしれません。また、両者の狩猟効率の違いの根拠とされてきた負傷率に関しても、ネアンデルタール人の絶滅からさほど年代の経過していない2万年前頃までで比較すると、頭蓋では大差がない、とも指摘されています(関連記事)。
後天的社会説では、温暖な地域に起源があるため、ネアンデルタール人社会よりも人口密度が高く交流の盛んだった現生人類社会の方が、技術・集団規模・狩猟採集などの行動での効率などで優位に立ち、ネアンデルタール人は絶滅に追い込まれた、と想定されます。これと関連して、現生人類社会からネアンデルタール人社会への感染症もネアンデルタール人絶滅の一因と推測されています(関連記事)。ただ、更新世は完新世と比較してずっと人口密度が低いわけで、現生人類からの感染症がネアンデルタール人社会に大打撃を与えたかというと、疑問は残ります。また、ネアンデルタール人の絶滅要因として近親交配による遺伝的多様性の喪失説も提示されていますが(関連記事)、ネアンデルタール人社会で近親交配が一般的だったとは考えにくく(関連記事)、気候変動や現生人類との競合による衰退の結果としての近親交配の流行でしょうから、近親交配がネアンデルタール人絶滅の究極的な要因とは言えないと思います。
ネアンデルタール人の絶滅に関してはこのように諸説ありますが、おそらくほとんどのネアンデルタール人の地域的集団の絶滅要因は複合的で、それぞれ異なった組み合わせだったと思います。また、ネアンデルタール人という種(分類群)の絶滅要因は、究極的には現生人類との競合と言えるでしょうが、さらに具体的な要因となると、まだじゅうぶんには解明できていないと思います。以下、ネアンデルタール人の絶滅に関する当ブログの記事です。重要な本や論文を取り上げた記事には●をつけています。
ネアンデルタール人はジブラルタルで24000年前まで生存?
https://sicambre.at.webry.info/200609/article_15.html
ネアンデルタール人の歯の手入れ、ネアンデルタール人の絶滅と気候との関係
https://sicambre.at.webry.info/200709/article_15.html
ネアンデルタール人の絶滅と衣服の関係
https://sicambre.at.webry.info/200801/article_5.html
ネアンデルタール人は食人習慣のために絶滅?
https://sicambre.at.webry.info/200803/article_11.html
「ネアンデルタール人その絶滅の謎」『ナショナルジオグラフィック(日本版)』10月号
https://sicambre.at.webry.info/200810/article_15.html
●ネアンデルタール人の絶滅要因
https://sicambre.at.webry.info/200901/article_13.html
ヨーロッパにおけるネアンデルタール人から現生人類への移行と人口増加
https://sicambre.at.webry.info/201107/article_30.html
NHKスペシャル『ヒューマン なぜ人間になれたのか 第2集 グレートジャーニーの果てに』
https://sicambre.at.webry.info/201201/article_31.html
ネアンデルタール人なぜ絶滅
https://sicambre.at.webry.info/201208/article_3.html
中部~上部旧石器移行期のヨーロッパにおける火山噴火の影響
https://sicambre.at.webry.info/201208/article_23.html
2つのエンディングストーリー
https://sicambre.at.webry.info/201307/article_25.html
●『そして最後にヒトが残った ネアンデルタール人と私たちの50万年史』
https://sicambre.at.webry.info/201312/article_1.html
ネアンデルタール人は小動物の狩猟に本格的に移行できずに絶滅?
https://sicambre.at.webry.info/201401/article_19.html
●ネアンデルタール人の絶滅要因の考古学的検証
https://sicambre.at.webry.info/201405/article_26.html
『ナショナルジオグラフィック』1996年1月号「ネアンデルタール人の謎」
https://sicambre.at.webry.info/201405/article_30.html
●ネアンデルタール人絶滅の新たな推定年代
https://sicambre.at.webry.info/201408/article_24.html
イベリア半島南東部の終末期ネアンデルタール人
https://sicambre.at.webry.info/201501/article_21.html
イベリア半島のネアンデルタール人の早期絶滅説
https://sicambre.at.webry.info/201502/article_28.html
佐野勝宏・大森貴之「ヨーロッパにおける旧人・新人の交替劇プロセス」
https://sicambre.at.webry.info/201504/article_26.html
松本直子「新人・旧人の認知能力をさぐる考古学」
https://sicambre.at.webry.info/201505/article_28.html
Pat Shipman『ヒトとイヌがネアンデルタール人を絶滅させた』
https://sicambre.at.webry.info/201512/article_13.html
●ネアンデルタール人の絶滅の理論的検証
https://sicambre.at.webry.info/201602/article_18.html
現生人類からネアンデルタール人への伝染病の感染
https://sicambre.at.webry.info/201604/article_13.html
気候変動によるネアンデルタール人の絶滅
https://sicambre.at.webry.info/201605/article_13.html
●ネアンデルタール人像の見直し
https://sicambre.at.webry.info/201606/article_19.html
赤澤威、西秋良宏「ネアンデルタール人との交替劇の深層」
https://sicambre.at.webry.info/201607/article_6.html
●ドイツにおけるネアンデルタール人の人口変動
https://sicambre.at.webry.info/201607/article_23.html
現生人類においてネアンデルタール人由来の遺伝子が除去された理由
https://sicambre.at.webry.info/201611/article_10.html
●現生人類の優位性に起因しないかもしれないネアンデルタール人の絶滅
https://sicambre.at.webry.info/201711/article_2.html
イベリア半島で他地域よりも遅くまで生存していたネアンデルタール人
https://sicambre.at.webry.info/201711/article_21.html
現生人類とネアンデルタール人の脳構造の違いに起因する認知能力の差(追記有)
https://sicambre.at.webry.info/201804/article_41.html
ヨーロッパ南部の初期現生人類の環境変動への適応
https://sicambre.at.webry.info/201804/article_21.html
NHKスペシャル『人類誕生』第2集「最強ライバルとの出会い そして別れ」
https://sicambre.at.webry.info/201805/article_25.html
『コズミック フロント☆NEXT』「ネアンデルタール人はなぜ絶滅したのか?」
https://sicambre.at.webry.info/201806/article_44.html
ネアンデルタール人の絶滅における気候変動の影響
https://sicambre.at.webry.info/201808/article_48.html
ネアンデルタール人と現生人類の頭蓋外傷受傷率(追記有)
https://sicambre.at.webry.info/201811/article_25.html
イベリア半島南部における4万年以上前のオーリナシアン
https://sicambre.at.webry.info/201901/article_42.html
近親交配によるイベリア半島北部のネアンデルタール人の形態と絶滅
https://sicambre.at.webry.info/201902/article_17.html
ネアンデルタール人の絶滅における気候変化の役割
https://sicambre.at.webry.info/202007/article_33.html
もちろん、現生人類との接触がなく、気候変動などにより絶滅した地域的なネアンデルタール人集団も存在するでしょうが、種(分類群)としてネアンデルタール人が絶滅したのは、現生人類が拡散してある程度の期間の共存の後だったことから、やはり現生人類との競合が究極的な要因だったと考えるのがだとうでしょう。ただ、ネアンデルタール人の絶滅とはいっても、より正確には、ネアンデルタール人の形態的・遺伝的特徴を一括して有する集団は現在では存在しない、と言うべきかもしれません。ネアンデルタール人はユーラシア中緯度地帯において長期にわたって、強力な競合種(分類群)が存在しないなか、寒冷化で打撃を受けても温暖化により回復してきたものの、現生人類が拡散してくると、現生人類との競合のため寒冷化による打撃から回復できなかったのだと思います。また、気候変動とはさほど関係なく、現生人類との競合により絶滅したネアンデルタール人の地域的集団もあったでしょう。
現生人類との競合説を大別すると、潜在的能力説と後天的社会説になると思います。もっとも、これも単純に二分できるわけではありませんが。潜在的能力説では、ネアンデルタール人にはできなかった何かを現生人類ができた、と想定されます。それは、高度な言語・意思伝達能力や象徴的思考能力や高度な計画性などの認知能力です。それが技術や社会規模や行動に影響し、劣っている(効率的ではない)ネアンデルタール人は優れた(効率的な)現生人類との競合で敗北する運命にあった、と想定されます。もっとも最近では、両者の大きな違いの重要な考古学的根拠とされた洞窟壁画を、ネアンデルタール人が描いていた可能性も指摘されており(関連記事)、潜在的能力説の一部?で言われているほど、両者の潜在的能力の違いは大きくなかったかもしれません。また、両者の狩猟効率の違いの根拠とされてきた負傷率に関しても、ネアンデルタール人の絶滅からさほど年代の経過していない2万年前頃までで比較すると、頭蓋では大差がない、とも指摘されています(関連記事)。
後天的社会説では、温暖な地域に起源があるため、ネアンデルタール人社会よりも人口密度が高く交流の盛んだった現生人類社会の方が、技術・集団規模・狩猟採集などの行動での効率などで優位に立ち、ネアンデルタール人は絶滅に追い込まれた、と想定されます。これと関連して、現生人類社会からネアンデルタール人社会への感染症もネアンデルタール人絶滅の一因と推測されています(関連記事)。ただ、更新世は完新世と比較してずっと人口密度が低いわけで、現生人類からの感染症がネアンデルタール人社会に大打撃を与えたかというと、疑問は残ります。また、ネアンデルタール人の絶滅要因として近親交配による遺伝的多様性の喪失説も提示されていますが(関連記事)、ネアンデルタール人社会で近親交配が一般的だったとは考えにくく(関連記事)、気候変動や現生人類との競合による衰退の結果としての近親交配の流行でしょうから、近親交配がネアンデルタール人絶滅の究極的な要因とは言えないと思います。
ネアンデルタール人の絶滅に関してはこのように諸説ありますが、おそらくほとんどのネアンデルタール人の地域的集団の絶滅要因は複合的で、それぞれ異なった組み合わせだったと思います。また、ネアンデルタール人という種(分類群)の絶滅要因は、究極的には現生人類との競合と言えるでしょうが、さらに具体的な要因となると、まだじゅうぶんには解明できていないと思います。以下、ネアンデルタール人の絶滅に関する当ブログの記事です。重要な本や論文を取り上げた記事には●をつけています。
ネアンデルタール人はジブラルタルで24000年前まで生存?
https://sicambre.at.webry.info/200609/article_15.html
ネアンデルタール人の歯の手入れ、ネアンデルタール人の絶滅と気候との関係
https://sicambre.at.webry.info/200709/article_15.html
ネアンデルタール人の絶滅と衣服の関係
https://sicambre.at.webry.info/200801/article_5.html
ネアンデルタール人は食人習慣のために絶滅?
https://sicambre.at.webry.info/200803/article_11.html
「ネアンデルタール人その絶滅の謎」『ナショナルジオグラフィック(日本版)』10月号
https://sicambre.at.webry.info/200810/article_15.html
●ネアンデルタール人の絶滅要因
https://sicambre.at.webry.info/200901/article_13.html
ヨーロッパにおけるネアンデルタール人から現生人類への移行と人口増加
https://sicambre.at.webry.info/201107/article_30.html
NHKスペシャル『ヒューマン なぜ人間になれたのか 第2集 グレートジャーニーの果てに』
https://sicambre.at.webry.info/201201/article_31.html
ネアンデルタール人なぜ絶滅
https://sicambre.at.webry.info/201208/article_3.html
中部~上部旧石器移行期のヨーロッパにおける火山噴火の影響
https://sicambre.at.webry.info/201208/article_23.html
2つのエンディングストーリー
https://sicambre.at.webry.info/201307/article_25.html
●『そして最後にヒトが残った ネアンデルタール人と私たちの50万年史』
https://sicambre.at.webry.info/201312/article_1.html
ネアンデルタール人は小動物の狩猟に本格的に移行できずに絶滅?
https://sicambre.at.webry.info/201401/article_19.html
●ネアンデルタール人の絶滅要因の考古学的検証
https://sicambre.at.webry.info/201405/article_26.html
『ナショナルジオグラフィック』1996年1月号「ネアンデルタール人の謎」
https://sicambre.at.webry.info/201405/article_30.html
●ネアンデルタール人絶滅の新たな推定年代
https://sicambre.at.webry.info/201408/article_24.html
イベリア半島南東部の終末期ネアンデルタール人
https://sicambre.at.webry.info/201501/article_21.html
イベリア半島のネアンデルタール人の早期絶滅説
https://sicambre.at.webry.info/201502/article_28.html
佐野勝宏・大森貴之「ヨーロッパにおける旧人・新人の交替劇プロセス」
https://sicambre.at.webry.info/201504/article_26.html
松本直子「新人・旧人の認知能力をさぐる考古学」
https://sicambre.at.webry.info/201505/article_28.html
Pat Shipman『ヒトとイヌがネアンデルタール人を絶滅させた』
https://sicambre.at.webry.info/201512/article_13.html
●ネアンデルタール人の絶滅の理論的検証
https://sicambre.at.webry.info/201602/article_18.html
現生人類からネアンデルタール人への伝染病の感染
https://sicambre.at.webry.info/201604/article_13.html
気候変動によるネアンデルタール人の絶滅
https://sicambre.at.webry.info/201605/article_13.html
●ネアンデルタール人像の見直し
https://sicambre.at.webry.info/201606/article_19.html
赤澤威、西秋良宏「ネアンデルタール人との交替劇の深層」
https://sicambre.at.webry.info/201607/article_6.html
●ドイツにおけるネアンデルタール人の人口変動
https://sicambre.at.webry.info/201607/article_23.html
現生人類においてネアンデルタール人由来の遺伝子が除去された理由
https://sicambre.at.webry.info/201611/article_10.html
●現生人類の優位性に起因しないかもしれないネアンデルタール人の絶滅
https://sicambre.at.webry.info/201711/article_2.html
イベリア半島で他地域よりも遅くまで生存していたネアンデルタール人
https://sicambre.at.webry.info/201711/article_21.html
現生人類とネアンデルタール人の脳構造の違いに起因する認知能力の差(追記有)
https://sicambre.at.webry.info/201804/article_41.html
ヨーロッパ南部の初期現生人類の環境変動への適応
https://sicambre.at.webry.info/201804/article_21.html
NHKスペシャル『人類誕生』第2集「最強ライバルとの出会い そして別れ」
https://sicambre.at.webry.info/201805/article_25.html
『コズミック フロント☆NEXT』「ネアンデルタール人はなぜ絶滅したのか?」
https://sicambre.at.webry.info/201806/article_44.html
ネアンデルタール人の絶滅における気候変動の影響
https://sicambre.at.webry.info/201808/article_48.html
ネアンデルタール人と現生人類の頭蓋外傷受傷率(追記有)
https://sicambre.at.webry.info/201811/article_25.html
イベリア半島南部における4万年以上前のオーリナシアン
https://sicambre.at.webry.info/201901/article_42.html
近親交配によるイベリア半島北部のネアンデルタール人の形態と絶滅
https://sicambre.at.webry.info/201902/article_17.html
ネアンデルタール人の絶滅における気候変化の役割
https://sicambre.at.webry.info/202007/article_33.html
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