アジア東部系と共通するラテンアメリカ系の明るい肌の色の遺伝的基盤

 ラテンアメリカ系人類集団の色素沈着の遺伝的盤に関する研究(Adhikari et al., 2019)が報道されました。『サイエンス』のサイトには解説記事が掲載されています。色素沈着に関しては、動物モデルで何百もの遺伝子が同定されています。ヒトに関しても、皮膚・目・髪の色に関する数十の遺伝子が特定されていますが、その多くはヨーロッパ系集団のものです。高緯度になるにつれてヒトの皮膚の色素沈着は減少する傾向にあり、これは紫外線からの保護と紫外線によるビタミンD生産と関連しています(関連記事)。紫外線の強い低緯度地帯では、皮膚癌の危険性を下げることになるため、紫外線をより遮断できる濃い色の肌が定着するような選択圧が生じるのにたいして、高緯度地帯では皮膚癌の危険性を高めるほど紫外線が強くないため、ビタミンD生産を妨げないよう、紫外線を吸収しやすい薄い肌の色の定着を促進する選択圧が生じます。また、肌の色とも関連する色素沈着関連遺伝子については、皮膚癌やビタミンD生産と関連する選択圧だけではなく、性選択の可能性も指摘されています。

 ただ、16世紀以降に地球規模で大規模な人口移動があったので、現在では、緯度と肌の色との関係はかなり複雑になっています。たとえば、ラテンアメリカのほとんどの都市では、住民の肌の色の明るさは多様です。これは、ラテンアメリカ系集団が、アメリカ大陸先住民・ヨーロッパ系・アフリカ系の混合により成立したためと考えられてきました。より明るい肌の人々はヨーロッパ系を祖先に有し、より濃い肌の色の人々はアメリカ大陸先住民系もしくはアフリカ系を祖先に有する、というわけです。本論文は、ラテンアメリカ5ヶ国(ブラジル・コロンビア・チリ・メキシコ・ペルー)の計6357人を対象に、肌・髪・目の色素沈着の遺伝的基盤を検証しました。

 本論文は、皮膚の反射率を測定し、肌の色素沈着の水準を推定しました。この手法は、サハラ砂漠以南のアフリカ人の肌の色の多様性を検証した研究でも用いられています(関連記事)。本論文は、このように肌・髪・目の色素沈着に関する情報を収集したうえで、ゲノム規模解析により、色素沈着と関連する遺伝子を推定しました。その結果、肌や目の色と関連する遺伝子座が特定されましたが、それらのうち、肌の色と関連する1遺伝子座(10q26)と目の色と関連する3遺伝子座(1q32・20q13・22q12)は新たに特定されたものです。

 肌の色と関連する遺伝子MFSD12の多様体の中には、肌の色を濃くするものもおもにサハラ砂漠以南のアフリカ系集団で確認されており、一部のインド人・メラネシア人・オーストラリア人にも見られます(関連記事)。本論文は、おもにアフリカ系で見られるMFSD12遺伝子の多様体とは異なる、肌の色を明るくする多様体をラテンアメリカ系集団で見つけました。この多様体はアジア東部系とアメリカ大陸先住民系のみに高頻度で見られ、アジア東部系とヨーロッパ系との分岐の後にユーラシア高緯度地帯で強い選択を受けていた、と推測されています。アメリカ大陸先住民系はアジア東部系と密接に関連しているというか、アジア東部系とヨーロッパ系の分岐の後も共通祖先を有していました。アジア東部系とアメリカ大陸先住民系は、36000±15000年前頃に分岐し、25000±1100年前頃まで遺伝子流動があった、と推測されています(関連記事)。

 本論文は、ユーラシアの東西において、肌の色を明るくするような遺伝的多様体が定着する選択圧がそれぞれ生じた、と指摘します。ヨーロッパ系とアジア東部系では、肌の色の明るさと関連する遺伝的基盤の中には独立して進化したものがあり、その中にはアジア東部系とアメリカ大陸先住民系とで共有されているものもある、というわけです。肌の色の濃さに関しては、時として収斂進化もあった、というわけです。ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)も、色素沈着を妨げるような遺伝的多様体を有しており、その中には現生人類(Homo sapiens)には見られないものもある、と指摘されています(関連記事)。肌の色の濃さなど色素沈着と関連する遺伝的多様体に関しては、収斂進化が起きやすい、と言えるかもしれません。

 これまで、ラテンアメリカ系の肌の色の明るさは、ヨーロッパ系との関連で考えられる傾向にありました。しかし、ヨーロッパ系がアメリカ大陸に侵出してくるずっと前から、アメリカ大陸先住民系は、アジア東部系と共通する肌の色を明るくするような遺伝的多様体を有していた、と考えられます。上記の解説記事では、ヨーロッパ中心主義によりラテンアメリカ系の肌の色の明るさの遺伝的基盤のいくつかが見落とされていたのではないか、と指摘されています。また目の色に関しても、上記報道ではヨーロッパ中心主義が指摘されています。これまで、目の色に関しては青色と茶色の区別に焦点が当てられていました。しかし本論文は、目の色は広範な連続体だと示し、茶色から黒色への微妙な変化を指摘します。現代世界の知的基盤の多くが近代ヨーロッパ発祥であるため、仕方のないところはありますが、ヨーロッパ中心主義を克服する試みはヨーロッパやアメリカ合衆国で持続しているとはいえ、まだ不充分であることも否定できないのでしょう。


参考文献:
Adhikari K. et al.(2019): A GWAS in Latin Americans highlights the convergent evolution of lighter skin pigmentation in Eurasia. Nature Communications, 10, 358.
https://doi.org/10.1038/s41467-018-08147-0

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