ジブラルタルの末期ネアンデルタール人の足跡

 ジブラルタルの末期ネアンデルタール人の足跡に関する研究(Muñiz et al., 2019)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。本論文は、ジブラルタルの沿岸にある砂丘斜面の後期更新世の動物の痕跡を報告しています。第4層や第5層では、アカシカ・アイベックス(野生ヤギ)・オーロックス(家畜ウシの原種である野生ウシ)・ヒョウ・ゾウの足跡が発見されており、これらは後期更新世にジブラルタルで発見された化石と対応しています。何よりも注目されるのは、人類の足跡も発見されていることです。第5層の年代は、光刺激ルミネッセンス法(OSL)により28450±3010年前と推定されており、海洋酸素同位体ステージ(MIS)2の初期となります。

 足跡を残したこの人類の推定身長は106.4~126.2cmでは、現生人類(Homo sapiens)もしくはネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の可能性が高そうですが、両者の足跡の違いについてはほとんど分かっていません。これまで唯一確認されているネアンデルタール人の足跡は、ルーマニアのヴァートップ洞窟(Vârtop Cave)のもので、年代は62000年前頃と推定されています。ただ、形態的にネアンデルタール人と確証されたわけではなく、年代と地理からネアンデルタール人のものと推定されているにすぎません。本論文は、ネアンデルタール人および現生人類の形態学的情報と照合し、ジブラルタルの砂丘に足跡を残した人類が現生人類である可能性を否定できないものの、ネアンデルタール人である可能性が高い、と指摘しています。

 もし本論文の見解が妥当だとすると、たいへん重要な発見となります。ネアンデルタール人の絶滅に関しては最近まとめましたが(関連記事)、ネアンデルタール人はヨーロッパでおおむね4万年前頃までに絶滅したと推測されています(関連記事)。しかし、イベリア半島南部では4万年前頃以降もネアンデルタール人が存在していた、との見解も提示されています(関連記事)。とくにジブラルタルでは、3万年前頃以降にネアンデルタール人が存在していた可能性も指摘されています(関連記事)。

 ジブラルタルの事例も含めて、イベリア半島における4万年前頃以降のネアンデルタール人の存在の可能性を否定する傾向は根強く(関連記事)、最近も、現生人類はイベリア半島南部に4万年以上前に拡散しており、4万年前頃までにイベリア半島のネアンデルタール人が絶滅していた可能性を示唆する見解も提示されています(関連記事)。本論文の見解が妥当だとすると、ネアンデルタール人が現生人類とイベリア半島南部において1万年以上共存していた可能性も想定されるわけで、その意味で本論文は大いに注目されます。今後は、年代およびネアンデルタール人の足跡との推定が妥当なのか、検証が進むことを期待しています。


参考文献:
Muñiz F. et al.(2019): Following the last Neanderthals: Mammal tracks in Late Pleistocene coastal dunes of Gibraltar (S Iberian Peninsula). Quaternary Science Reviews, 217, 297–309.
https://doi.org/10.1016/j.quascirev.2019.01.013

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