現代人のmtDNAハプログループの多様性

 ミトコンドリアDNA(mtDNA)ハプログループについて、以前ネット上で、(サハラ砂漠以南の)アフリカにはハプログループLしか存在しないので、東南アジアよりも遺伝的多様性が低い、と主張する人を見かけました。もちろん誤解なのですが、他に主張している人を見たことがないので、人類進化に関する誤解のまとめ(関連記事)では取り上げませんでした。たとえばミャンマー人のmtDNAハプログループはA・B・C・D・F・Uなど多様で、DはD4a、BはB5aなど、さらに細分化されています(Li et al., 2015)。確かに、サハラ砂漠以南のアフリカのmtDNAハプログループはほとんどLですから、アフリカよりも東南アジアの方が遺伝的多様性は高い、と考える人がいても不思議ではないかもしれません。

 しかし、これは字面だけを見ての誤解です。非アフリカ系現代人では基本的に、mtDNAハプログループのうち、L3系統から派生したMおよびN系統のみが見られます。一方、アフリカ系現代人においては、L3系統のみならず、L0・L1など多様な系統が見られます。mtDNAハプログループにおいて、まずL0系統とその他の系統が、次にL1系統とL2~6系統が、といったように分岐していきました。以下に詳細な系統樹を掲載します(Behar et al.,2008)。
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 アフリカの多様なL系統の一つにすぎないL3系統もまた分岐していきますが、非アフリカ系現代人ではそのうちの二つにすぎないM・Nのみが存在します。東南アジアも同様です(ユーラシア西部では基本的にN系統のみが存在します)。このM・NからA・B・C・D・F・Uなど多様な系統が分岐していきます。つまり、M・Nおよびその派生系統は、単独でL系統と比較できるような分類水準ではありません。M・NはL3a・L3fなどと比較すべき分類水準であり、そもそもL3m・L3nと表記すべきです。さらに言えば、M・Nの派生系統のAやDなどは、L3md・L3naと表記すべきです。このような表記であれば、mtDNAハプログループM・N およびその派生系統が、L3系統の下位区分にすぎないことがよく分かるでしょう。アフリカにはL3だけではなく、それと対等な分類水準の系統が複数存在するのにたいして、非アフリカ系にはL3系統の下位区分の一部しか存在しないので、mtDNAにおいて、非アフリカ系よりもアフリカ系の方が遺伝的多様性はずっと高いわけです。

 このように、mtDNAハプログループの分類が直感的には分かりにくくなっているため、誤解する人がいるのでしょう。こうなった理由は、現代人のmtDNAハプログループの分類がまずアメリカ大陸先住民集団で始まり、アメリカ大陸先住民集団によく見られるハプログループにA・B・C・Dと命名していったからです。黎明期のことだけに、仕方のないところがあるとは思います。今になって命名をやり直すとかえって混乱するでしょうから、このままにしておくしかなさそうです。このような誤解は少ないとは思いますが、以前より気になっていたので、取り上げました。なお、mtDNAハプログループL3系統の起源がユーラシアにある、との見解も提示されていますが(関連記事)、L3系統の起源がアフリカであれユーラシアであれ、mtDNAにおいて、アフリカ系現代人の方が非アフリカ系現代人よりもずっと遺伝的多様性は高い、という結論はまったく揺らぎません。


参考文献:
Behar DM. et al.(2008): The Dawn of Human Matrilineal Diversity. The American Journal of Human Genetics, 82, 5, 1130-1140.
https://doi.org/10.1016/j.ajhg.2008.04.002
関連記事

Li YC. et al.(2015): Ancient inland human dispersals from Myanmar into interior East Asia since the Late Pleistocene. Scientific Reports, 5, 9473.
https://doi.org/10.1038/srep09473

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