現代日本人のY染色体DNAハプログループDの起源

 現代日本人のY染色体DNAハプログループ(YHg)では、Dが30~40%と高い割合を占めています。YHg-Dは現代では珍しいハプログループで、おもにアジア東部の一部地域とアンダマン諸島で見られます。アンダマン諸島ではYHg-Dは高頻度で見られ、アジア東部では日本列島とチベットを除くときわめて低頻度でしか存在しません。そのため、YHg-Dを現代日本人の独自性の根拠とする言説をネットでよく見かけます。とくに、「縄文人」においてYHg-Dが確認されてからは、長期にわたる日本の独自性が強調される傾向にあるように思います。「縄文人」の父系は現代日本人においてもその多くが継続している、というわけです。

 確かに、現代日本人で高頻度なのはYHg-D1b(ちなみに、チベットで高頻度なのはYHg-D1aです)で、これは「縄文人」でも確認されていますから、そうした言説に一定以上の根拠があることは否定できません。ただ、現時点で確認されている「縄文人」およびゲノム解析で「縄文人」の変異内に収まる東北地方の弥生時代の男性は全員YHg-Dに分類されるものの、より詳細に分類できる個体は全員、YHg-D1b2aです(関連記事)。一方、現代日本人で多いのはYHg-D1b1です。YHg-D1bは、D1b1 とD1b2に分岐し、D1b2からD1b2aが派生します。つまり現時点では、現代日本人のYHgにおいて多数派のD1b1は「縄文人」では確認されていないので、弥生時代以降にアジア東部から到来した可能性も一定以上想定しておかねばならないだろう、と私は考えています。

 この問題は十数年前より考えていましたが、少なからぬ人も考えているであろうように、YHg-Dがかつてアジア東部に一定以上の頻度で広範に存在していた可能性は低くないように思います(関連記事)。もちろん、「縄文人」の核DNA解析数はまだ少なく、東日本に遍在しているため、今後西日本の「縄文人」の解析が進めば、YHg-D1b1がかなりの頻度で発見されるかもしれません。ただ、現代日本人のゲノムに占める「縄文人」由来の領域はせいぜい20%程度にしかならないと予想されており(関連記事)、父系の30~40%が「縄文系」だと多いかな、とも思います。もちろん、あり得ない数値ではありませんし、仮に現代日本人のYHg-D1b1のうち一定以上の割合が弥生時代以降の「渡来系」だとしても、現代日本人の父系の一定以上の割合は「縄文系」だと思いますが。

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