シナ・チベット語族の系統関係と起源

 シナ・チベット語族の系統関係と起源に関する研究(Sagart et al., 2019)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。中国語・チベット語・ビルマ語を含むシナ・チベット語族はインド・ヨーロッパ語族とともに世界の2大言語族で、話者は前者が約32億人、後者が約14億人です。しかし、シナ・チベット語族の起源と拡散はアジア東部およびその周辺地域(アジア南東部や南部の一部)の先史時代・歴史時代の解明に重要であるにも関わらず、インド・ヨーロッパ語族と比較して研究は遅れています。

 本論文は、シナ・チベット語族の50言語から語彙を収集し、データベースを構築することにより、シナ・チベット語族の各言語間の系統関係と起源を推定しました。この中には、過去の言語のデータも含まれています。中国語の記録は紀元前1400年前頃、チベット語は紀元後764年、ネワール語(ネパール・バサ語)は紀元後1114年、ビルマ語は紀元後1113年までさかのぼります。また本論文は、農耕と牧畜に関する考古学的データも収集して組み合わせることにより、シナ・チベット語族の起源地も推測しました。

 本論文は、シナ・チベット語族が大きく、中国語系統と、ビルマ語やチベット語などを含むそれ以外の系統に二分されることを指摘します。ただ、アジア南東部および南部の一部の言語は、中国語系統により近縁です。また本論文は、シナ・チベット語族の起源は7200年前頃で、その担い手は中国北部の新石器時代農耕民集団である、後期磁山(Cishan)文化および早期仰韶(Yangshao)文化ではないか、と推測しています。ここから、農耕民集団の拡大に伴い、シナ・チベット語族も拡散し、分岐していったのではないか、というわけです。

 先月(2019年4月)、言語学・遺伝学・考古学・人類学の研究成果を統合し、109の言語における949の語彙の系統分析により、シナ・チベット語族の起源を検証した研究が公表されました(関連記事)。その研究でも、シナ・チベット語族の起源は中国北部の黄河流域にあり、5900年前頃に(7800~4200年前頃)拡散・多様化が始まった、と推測されており、本論文とおおむね整合的だと思います。現時点では、シナ・チベット語族の起源は黄河流域の新石器時代農耕民集団にあり、アジア東部およびその周辺地域に拡大していった、との見解が最有力と言えそうです。


参考文献:
Sagart L. et al.(2019): Dated language phylogenies shed light on the ancestry of Sino-Tibetan. PNAS, 116, 21, 10317–10322.
https://doi.org/10.1073/pnas.1817972116

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