中期~後期更新世のアラビア半島における動物相の変化および人類の拡散との関係

 中期~後期更新世のアラビア半島における動物相の変化に関する研究(Stewart et al., 2019)が公表されました。鮮新世~更新世における移動・絶滅などの動物相の変化は、人類の拡散との関連で注目されてきました。しかし、高い関心が寄せられてきたのはアフリカ東部および北部とアジア南西部のレヴァントで、これらの近隣地域であるアラビア半島に関しては、おもに更新世の脊椎動物記録の不足のため、議論から除外される傾向にありました。

 アラビア半島内陸部は現在ではおおむね砂漠ですが、過去の湿潤な時期には草原が広がり、30万年以上前には人類も存在していました(関連記事)。そこで本論文は、蓄積されてきたアラビア半島の動物相記録を、近隣のアフリカ北部および東部、レヴァントも含むアジア南西部、アジア中央部南方、アジア南部の動物相記録と比較し、これらの地域の動物相の変化を検証し、人類の拡散との関連を論じています。検証対象とされた動物は、ウシ・カバ・サイ・ハイエナ・イノシシ・キリン・ラクダ・ゾウなどの哺乳類です。

 動物相記録からは、アフリカとユーラシアの間の動物の移動が、前期更新世となる120万~78万年前頃にはほとんどなかった、と示唆されます。ただ例外もあり、アフリカ起源の大型ヒヒ(Theropithecus oswaldi)が160万~100万年前頃にレヴァントとイタリアで確認されています。ユーラシアでは大型ハイエナ(Pachycrocuta brevirostris)が100万~90万年前頃に絶滅しており、アフリカ起源のブチハイエナ(Crocuta crocuta)の増加による競合が原因かもしれません。

 中期更新世は78万年前頃に始まります。これ以降、顕著な乾燥や草原拡大といったように気候変動が激化していきます。中期~後期更新世におけるアフリカとユーラシアの動物相の最も顕著な変化は、60万~40万年前頃に起きました。この時期にサハラ砂漠地域の乾燥化が進展したにも関わらず、アラビア半島には、ウシ科のアラビアオリックス(Oryx leucoryx)の祖先種のような在来系統だけではなく、ウシ科のエランド(Taurotragus oryx)やハーテビースト(Alcelaphus buselaphus)といったアフリカ起源の動物が出現し、動物が移動できるようなユーラシアとアフリカの間の経路は継続していたようです。

 その地理的位置から、アラビア半島にはユーラシアの他地域やアフリカ起源の動物が流入しました。中期~後期更新世にかけてのアラビア半島におけるアフリカ起源の動物の代表は、巨大な角を有するウシ科のペロロビス(Pelorovis)属です。アラビア半島内部への動物相の拡散は、ウシ科のオリックス(Oryx)属のような乾燥適応種を除けば、湿潤な時期と考えられます。したがって、その頃のアラビア半島はアフリカ東部の草原と類似した環境だったので、人類のアラビア半島への拡散は、顕著な行動学的および/または技術的革新を必要としなかっただろう、と本論文は推測しています。

 また本論文は、アラビア半島の気候が乾燥化していった時に、動物相が後退もしくは絶滅した可能性を提示しています。これは人類も同様だったのでしょう。後退に関して本論文は、より環境条件のよい高地が待避所となり、気候が回復した時に再度拡散したかもしれない、と推測しています。また本論文は、こうした気候変動が種分化をもたらした可能性を指摘しています。ただ本論文は、アラビア半島における化石記録がまだ不足している、と注意を喚起しています。中期~後期更新世のアラビア半島における動物相の変化の研究には、まだ進展の余地が多くある、と言えそうです。


参考文献:
Stewart M. et al.(2019): Middle and Late Pleistocene mammal fossils of Arabia and surrounding regions: Implications for biogeography and hominin dispersals. Quaternary International, 515, 12–29.
https://doi.org/10.1016/j.quaint.2017.11.052

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