『卑弥呼』第20話「イサオ王」

 『ビッグコミックオリジナル』2019年7月20日号掲載分の感想です。前回は、ヤノハが義母の教えを回想している場面で終了しました。巻頭カラーとなる今回は、鞠智彦(ククチヒコ)が暈(クマ)の国の以夫須岐(イフスキ)を訪れる場面から始まります。以夫須岐は、現在の鹿児島県指宿市と思われます。鞠智彦の配下の兵士たちは、倭人とは異なる顔つきの首が晒されているのを見て驚きます。従者のウガヤからこの首は何者なのか、尋ねられた鞠智彦は、はるか南方からの難民だ、どこも戦なのだ、と答えます。ウガヤから首が晒されている理由を問われた鞠智彦は、イサオ王は情け容赦のない人だからだ、と答えます。

 山社(ヤマト)では、ミマト将軍の息子でイクメの弟であるミマアキが、クラトという男性と抱き合っていました。クラトはミマアキが戦場から生還したことを喜び、ミマアキは、恋しかった、と言います。しかしクラトは、ミマアキの言葉を疑っていました。ミマアキは日見子(ヒミコ)・日見彦(ヒミヒコ)の世話役に生まれついた身なので、本当は女の方が好きなのに自分を相手にしている、戦場ではこっそり女と寝ているのではないか、というわけです。私を信じろ、と言うミマアキに対してクラトは、現在の心配は日見子(ヤノハ)様だ、と言います。ヤノハはなかなか見目麗しいので、ミマアキが心を奪われてしまうのではないか、というわけです。日見子(ヤノハ)様は確かに美しいが、それはあり得ない、とミマアキは言います。日見子様は美しさを通り越して神々しいか、とクラトに問われたミマアキは、恐ろしいお方からだ、と答えます。ミマアキはクラトに、山社の祈祷女(イノリメ)の長であるイスズと副長のウズメがどこかに向かう様子を見るよう促します。ミマアキは二人がどこに向かうのか知りませんでしたが、日見子(ヤノハ)の命令であることは知っていました。クラトは、ヤノハを偽物の日見子と考えていたはずのイスズとウズメがヤノハの命に従っていることに驚きます。イスズとウズメは日見子様にあっという間に魂を奪われ、もはや日見子様の言うがままだ、とミマアキに説明を受けたクラトは、日見子(ヤノハ)様は恐ろしいお方だ、と呟きます。日見子様は頭脳明晰にして言葉巧みで、ケシの実の幻覚作用を実に上手く使う、とミマアキはクラトに説明します。何から何まで計算ずくか、と呟くクラトに、日見子様は頭が違う、とミマアキは言います。我々山社の兵はどうするのか、とクラトに問われたミマアキは、日見子様にかける、と宣言します。兵士が慌ただしくでる様子を見たミマアキが、父も日見子様に加勢するだろう、と予想すると、ミマト将軍はタケルを裏切るのか、とクラトは驚きます。

 以夫須岐では、鞠智彦がイサオ王と対面していました。イサオ王は50代くらいのようです。イサオ王にとって現在の悩みは、南方より多くの野蛮人が流れ着くのに、暈からは後漢に行けないことでした。イサオ王の居室には、1年前に後漢に派遣された使者の頭蓋骨が置かれています。使者は、亶州まではたどり着けたものの、夷州(台湾でしょうか)に着く前に海の藻屑と消えたようだ、とイサオ王は鞠智彦に説明します。会稽郡は鞠智彦たちが思っている以上に遠いようです。倭の統一のためには後漢への朝貢が必須なので、那を攻め落として韓(カラ)への航路を確保するしかない、とイサオ王は鞠智彦に説明します。鞠智彦は、那との戦のことでイサオ王に相談します。イサオ王は、自分の息子のタケルは足手まといか、と鞠智彦に尋ねます。鞠智彦の力でタケルを日見彦に仕立て上げたまではよかったものの、タケルは自分を真の生き神と勘違いしたようだな、荷が重かったか、とイサオ王は鞠智彦に確認します。鞠智彦は明確に返答しませんでしたが、イサオ王は、鞠智彦が自分の評価を肯定した、と判断したようです。イサオ王に新たな日見子(ヤノハ)について尋ねられた鞠智彦は、本物かは分からないものの、豪胆で頭が切れる、と答えます。新たな日見子を操れるか、とイサオ王に問われた鞠智彦は、分かりません、と答えます。イサオ王は、もし新たな日見子を操れるようなら、生かす道もある、と鞠智彦に言います。

 山社では、那軍との戦いで前線にいたはずの暈軍の兵士千人が山社に押し寄せる、との情報を聞いたミマト将軍が困惑していました。配下から、ミマト将軍が新たな日見子を擁立した、との噂が暈で流れており、日見彦たるタケル王の命により、山社に軍が派遣されるのだろう、と聞いたミマト将軍は、自分が謀反を起こしたというのか、といきり立ちます。暈の国境の警護を怠るとは愚かだ、と吐き捨てるように言うミマト将軍にたいして、現在那軍と対峙しているのはオシクマ将軍率いる僅かな兵のみで、もう一人のテヅチ将軍はタケル王と行動を共にしている、と報告します。ミマト将軍は、那のトメ将軍を侮ったな、これで暈軍の敗戦は濃厚と呟きます。父親であるミマト将軍に、イスズとウズメの動向を尋ねられたイクメは、ヤノハが本物の日見子であることをヒルメに伝えるために、二人とも夜中に、暈にある「日の巫女」集団の学舎である種智院(シュチイン)に向かった、と伝えます。するとミマト将軍は不敵な笑みを浮かべ、日見子殿は勝ったようだな、今すぐ会いたい、と娘のイクメに伝えます。

 その頃、タケル王が率いる軍は、険しい山中を進んでいました。行軍が止まった理由をタケル王から問われたテヅチ将軍は、夜通しの行軍で兵が疲れている、と答えます。すると、輿に乗っているタケル王は、自分はまったく疲れていないと言い、テヅチ将軍は困惑します。四大将軍の一人と言われるテヅチ将軍がこれほど弱気とは、那軍に手こずる理由がよく分かった、とタケル王は嘆息します。しかしテヅチ将軍は引き下がらず、百戦錬磨のミマト将軍が率いる難攻不落の山社を攻めるので、兵の英気を養うためにも時間が必要だ、とタケル王に進言します。するとタケル王は、戦にはならない、千人の兵で山社を囲むだけだ、ミマト将軍は呆気なく降参し、偽の日見子(ヤノハ)を差し出すだろう、と言います。テヅチ将軍が、とても信じられないといった様子で、そうでしょうか、と躊躇いつつ言うと、自分がそう言うのだからそうなる、とタケル王は自信満々に言います。タケル王はテヅチ将軍に、戦にはならないので小休止は不要、すぐに兵を進めよ、と命じます。タケル王は、父のイサオ王に見限られているように、日見彦として崇められるうちに自分を本当に神と認識し、万能感に囚われてしまったのでしょうか。

 山社の楼観では、ミマト将軍が日見子たるヤノハと対面し、タケル王が日見子殿の身柄を渡すよう攻めて来るそうです、と伝えます。つまり謀反人の汚名を着せられたわけですね、とヤノハに問われたミマト将軍は、そのようだ、と答え、覚悟を決めた表情で、タケル王が自分を信じないなら、もはや忠義には及ばない、とヤノハに言います。戦の準備を始めようとしたミマト将軍は、戦の結果をどう予測するのか、ヤノハに尋ねます。ヤノハは自信満々に、戦は起きない、自分が起きないといったら起きないのだ、と答えます。その起きない戦の勝敗はどうなるのか、とミマト将軍に問われたヤノハは、ミマト将軍の大勝利だ、と答えます。ミマト将軍は楼観から配下のオオヒコを呼び、戦の準備を命じます。ミマト将軍が、敵は日見子様に謀反を起こした逆賊のタケル王と力強く宣言し、ヤノハが不敵な笑みを浮かべているところで、今回は終了です。


 今回も、日見子と宣言したヤノハをめぐる人々の思惑が描かれました。ミマト将軍は恩人の鞠智彦を裏切るわけにはいかないと言って、ヤノハを日見子として擁立することにずっと消極的でした。しかし、娘のイクメに懇願され、逃亡を見逃す、というところまで妥協していたのですが、ヤノハが流した噂により追い詰められ、ヤノハを日見子として擁立し、決起する決断を下しました。ヤノハは、配下のヌカデを那軍のトメ将軍と接触させ、暈軍が手薄な隙に、那軍が大河(筑後川と思われます)を渡って暈軍を攻撃するよう、工作しています。暈軍が山社に到達する直前か直後に、那軍が暈軍を攻撃したとの報告が入り、暈軍は退却する、とヤノハは計画しているのでしょう。ここまでは、ヤノハの計画通り進んでいるように思います。

 しかし、今回初登場となったイサオ王はいかにも大物といった感じですし、それは鞠智彦も同様なので、ヤノハの計画通りに事態が進むわけではなさそうです。イサオ王は息子のタケル王が日見彦の器に相応しくないと考えており、ヤノハを操れるようなら、新たな日見子として認めることも想定しているようです。ただ、鞠智彦もそうですが、イサオ王は暈による倭国統一を考えているようですから、各国の独立と王の存在を認めようとしているヤノハとは、提携できそうにありません。もちろん、どちらかが妥協・従属する展開も考えられますが、ヤノハとイサオ王の人物造形からも、『三国志』からも、日見子(卑弥呼)たるヤノハと暈国(狗奴国)は対立を続けることになりそうです。

 今回初登場となるクラトは、ミマアキと恋愛関係にあります。単に、日見子・日見彦に仕える男は女との性交が禁止されている、ということを説明するだけのキャラかもしれませんが、モブ顔ではないので、あるいは今後重要な役割を担うかもしれません。同じく初登場で、ややモブ顔ながら注目されるのは、ミマト将軍の配下のオオヒコです。この名前は、四道将軍の一人である大彦命(孝元天皇の息子)を連想させます。百年振りに出現した真の日見子でありながら、ヤノハに殺されたモモソの名は倭迹迹日百襲姫命(孝霊天皇の娘)に由来するでしょうから、本作の人物は、『日本書紀』の天皇では第8代孝元天皇から第9代開化天皇の世代に相当しそうです。また、ミマアキという名前は、『日本書紀』の御間城入彦五十瓊殖天皇、つまり第10代崇神天皇を想起させますから、いずれは、現在の主要人物が現在の奈良県、具体的には纏向遺跡一帯に移り、ヤマト王権を樹立するのではないか、と予想しています。まあ、私の予想的中立は低いので、もっとひねってくる可能性が高いかな、とも思いますが。現在の舞台は九州ですが、今回もイサオ王が後漢に言及したように、やがては日本列島に留まらず、アジア東部にまで拡大する壮大な話になりそうなので、今後の展開をたいへん楽しみにしています。

人間の活動が盛んな地域で雄だけの群れを形成するアジアゾウ

 アジアゾウの群れ形成に関する研究(Srinivasaiah et al., 2019)が公表されました。アジアゾウは絶滅が強く危惧されています。この研究は、耕作地で採餌するアジアゾウでは、青年期の雄だけの大規模な群れが複数年にわたって共同生活を続ける傾向にある、と明らかにし、この行動が危機に瀕した生息地で生き残るためのリスク管理戦略であるかもしれない、という見解を提示しています。また、この研究は、人間の活動が活発な地域に生息するアジアゾウの行動進化の解明は、人間とアジアゾウの衝突を減らし、絶滅危惧種のさらなる減少を防ぐために役立つかもしれない、と指摘しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【保全】人間の活動が盛んな地域で雄だけの群れを形成するアジアゾウ

 絶滅が強く危惧されるアジアゾウについて、人間活動によって分断された陸域では、青年期の個体が雄だけの群れを形成していることが観察されたことを報告する論文が、今週掲載される。こうした雄ゾウの群れ形成は、人間と接触するリスクの高い地域において繁殖適応度を向上させるための適応行動だと論文の著者は推測している。

 Srinivasaiahたちは、耕作地で採餌する大規模な雄だけの群れが複数年にわたって共同生活を続ける傾向があることを明らかにし、この行動が危機に瀕した生息地で生き残るためのリスク管理戦略であるかもしれないという考えを示している。また、Srinivasaiahたちは、人間の活動が活発な地域に生息するゾウの行動の進化を解明することは、人間とゾウの衝突を減らし、絶滅危惧種のさらなる減少を防ぐために役立つかもしれないと考えている。



参考文献:
Srinivasaiah N et al.(2019): All-Male Groups in Asian Elephants: A Novel, Adaptive Social Strategy in Increasingly Anthropogenic Landscapes of Southern India. Scientific Reports, 9, 8678.
https://doi.org/10.1038/s41598-019-45130-1

「外来」鳥類の新しい生息地での定着

 「外来」鳥類の新しい生息地での定着に関する研究(Redding et al., 2019)が公表されました。人間の活動により世界の姿が変わりつつある中で、外来種の個体群は増加の一途をたどり、その速度はますます高まっていて、外来種が在来種との競争に勝利して、在来種の絶滅につながることもあるなど、外来種の問題が深刻化しています。しかし、新たな場所で存続可能な個体群の確立に成功する外来生物と、それに失敗する外来生物がいる理由は、まだ明らかになっていません。

 この研究は、708種の鳥類が関係する4346件の移入事例から得られたデータを調べ、移入種の定着に役立つ最も重要な決定因子が環境要因であることを見いだしました。この環境要因には、それぞれの地域の気候や他の外来種の存在が含まれます。新しい生息地の気候条件にすでに前適応していた場合や、他の外来種がすでに定着していた場合には、外来種の定着能性が高く、一腹卵数や創始者の集団サイズなど他の要因はそれほど重要ではありませんでした。

 この知見は、現在の人為的な環境変化の軌跡が、将来の外来種の侵入を促進する可能性のきわめて高いことを示唆しています。国際貿易が拡大し、より多くの生物種が世界中を移動するにつれて、外来種が定着する機会が増えると考えられます。この研究は、外来種の移入による悪影響を防止または軽減するための管理プログラムの強化の必要性を強調しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


【生態学】「外来」鳥類が新しい生息地での定着に成功する秘訣

 「外来種」の鳥類は、新しい生息地の環境条件が元の生息地の環境条件に似ていると、新しい生息地で生き残る可能性が非常に高くなることを明らかにした論文が、今週掲載される。今回の研究は、一部の外来種の繁栄を支援する条件についての重要な見識をもたらすものであり、将来の外来種の移入を阻止しようとする場合にも役立つと考えられる。

 人間の活動によって世界の姿が変わりつつある中で、外来種の問題が深刻化しており、外来種が在来種との競争に勝利して、在来種の絶滅につながることもある。しかし、繁栄する外来種と低迷する外来種が生じる理由は明らかになっていない。

 今回、Tim Blackburnたちの研究グループは、700種以上の鳥類が関係する4000件以上の移入事例から得られたデータを調べて、移入種の定着に役立つ最も重要な決定因子が環境要因であることを見いだした。この環境要因には、それぞれの地域の気候や他の外来種の存在が含まれる。新しい生息地の気候条件にすでに前適応していた場合や、他の外来種がすでに定着していた場合には、外来種が定着する可能性が高かった。他の要因、例えば、一腹卵数や創始者の集団サイズは、それほど重要でなかった。

 国際貿易が拡大し、より多くの生物種が世界中を移動するにつれて、外来種が定着する機会が増えると考えられる。Blackburnたちは、外来種の移入による悪影響を防止または軽減するための管理プログラムの強化が必要なことを強調している。


生態学:場所レベルの過程が全球において外来鳥類個体群の確立を促進する

生態学:鳥類の侵入に対する環境的制約

 外来種の個体群は増加の一途をたどり、その速度はますます高まっている。しかし、新たな場所で存続可能な個体群の確立に成功する外来生物と、それに失敗する外来生物がいる理由は、いまだ明らかにされていない。今回T Blackburnたちは、708種の鳥類による4346件の導入事象についての全球的なデータを調べ、導入の成功を左右する決定要因を評価した。その結果、外来個体群の確立の成功においては環境が最も重要な決定要因となることが明らかになった。つまり、環境条件が当該種の本来の生息域によく似ている場所で確立の成功率が最も高かったのである。同じく重要なのは他の外来種の存在で、すでに他の外来種集団が存在する場所では、新たな導入種の個体群確立の成功が促進されることが分かった。この知見は、現在の人為的な環境変化の軌跡が将来の外来種の侵入を促進する可能性が極めて高いことを示唆している。ホシムクドリ(Sturnus vulgaris)はヨーロッパ原産だが、現在では南アフリカ、ニュージーランド、北米など、世界各地に外来種として分布している。特に北米への導入は、この鳥がシェークスピアの作品に登場することが理由であった。



参考文献:
Redding DW. et al.(2019): Location-level processes drive the establishment of alien bird populations worldwide. Nature, 571, 7763, 103–106.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1292-2

昆虫の卵の独特な進化

 昆虫の卵の独特な進化に関する研究(Church et al., 2019)が公表されました。この研究は、昆虫の卵が、サイズに関するさまざまな進化理論を検証するための強力な系であることを明らかにしました。昆虫の卵は多様ですが、量的形質を用いれば、近縁関係にない系統間の比較も可能となります。この研究では、既発表の論文における昆虫の卵に関する記述(10449件)のデータベースがまとめられました。この昆虫のリストには526科6706種が含まれ、現在記述されている六脚目(昆虫とそれ以外の生物)が全て含まれています。最も大きな卵の体積は、最も小さな卵の10の8乗倍で、最も大きいのがブルーベリー大のセンチコガネ科の昆虫(Bolboleaus hiaticollis)の卵(豆粒サイズ)で、最も小さいものは小さ過ぎて人間の目には見えません。

 この研究は、発生期間、体のサイズまたは卵殻の推定「コスト」との進化的トレードオフ関係に関する先行仮説を検証し、昆虫の卵のサイズと形状を比較したところ、これらの仮説が当てはまらない、と明らかになりました。卵のサイズと形状は、単純に体サイズや発生速度と関係しているわけではなく、また単純なアロメトリー(相対成長)関係で表されるいかなるスケーリング則にも従っていない、というわけです。この研究は、発生期間が卵のサイズと無関係なことを明らかにし、その一方で、細胞の数や分布などの発生の他の特徴は、卵のサイズに応じて予測可能な法則で拡大縮小する可能性がある、との見解を提示しています。

 さらに、この研究は、水生環境での孵化への移行が、より小さな卵の進化と関連しており、托卵による孵化への移行がより小さく、より非対称的な卵の進化と関連していることを示す証拠も示しました。これらの知見は、最も見事な仮説でも膨大なデータという圧倒的な力の前では崩壊し得ることを示す華麗な一例で、複雑な生物システムが単純なアロメトリースケーリング則に従い得る、という考え方に異を唱えるものです。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


【進化発生生物学】昆虫の卵の独特な進化

 昆虫の卵のサイズと形状は、産卵の仕方と産卵場所の影響を受けているが、昆虫の体のサイズや発生速度には影響されないとする研究論文が、今週掲載される。

 今回、Cassandra Extavour、Samuel Churchたちの研究グループは、昆虫の卵が、サイズに関するさまざまな進化理論を検証するための強力な系であることを明らかにした。昆虫の卵は多様だが、量的形質を用いれば、近縁関係にない系統間の比較も可能となる。今回の研究では、既発表の論文における昆虫の卵に関する記述(1万件以上)のデータベースがまとめられた。この昆虫のリストには6700種以上、526科が含まれ、現在記述されている六脚目(昆虫とそれ以外の生物)が全て含まれている。最も大きな卵の体積は、最も小さな卵の10の8乗倍で、最も大きいのがブルーベリー大のBolboleaus hiaticollis(センチコガネ科の昆虫)の卵で、最も小さいものは小さ過ぎて人間の目には見えない。

 この研究グループは、発生期間、体のサイズまたは卵殻の推定「コスト」との進化的トレードオフ関係に関する先行仮説を検証した。昆虫の卵のサイズと形状を比較したところ、これらの仮説が当てはまらないことが判明した。この研究グループは、発生期間が卵のサイズと無関係なことを明らかにし、その一方で、細胞の数や分布などの発生の他の特徴は、卵のサイズに応じて予測可能な法則で拡大縮小する可能性があると考えている。さらに、この研究グループは、水生環境での孵化への移行が、より小さな卵の進化と関連しており、托卵による孵化への移行がより小さく、より非対称的な卵の進化と関連していることを示す証拠も発表した。


進化発生生物学:昆虫の卵のサイズと形状は発生速度ではなく生態によって進化する

進化発生生物学:アロメトリーではなく産卵生態と関連付けられた昆虫の卵のサイズ

 C Extavourたちは今回、文献の情報から昆虫の卵のサイズと形状に関するデータベースを作成し、生物のスケーリングについて広く行き渡っている考え方の検証を行った。その結果、卵のサイズと形状は、単純に体サイズや発生速度と関係しているわけではないことが明らかになった。卵のサイズと形状はまた、単純なアロメトリー(相対成長)関係で表されるいかなるスケーリング則にも従っていない。系統発生について適切に調整すると、卵のサイズと形状はいずれの場合も産卵の状況に支配されることが分かった。今回のデータベースは、出版された科学文献から収集した卵の形態に関する1万449件に及ぶ描写からなり、526科、6706種を網羅するとともに、これまでに記載されている全ての現生昆虫および非昆虫六脚類を含んでいる。これらの卵は、ムネアカセンチコガネの一種Bolboleaus hiaticollisの豆粒サイズの大きなものから、捕食寄生バチPlatygaster vernalisの塵サイズの微小なものまで、体積に8桁もの幅がある。今回の結果は、最も見事な仮説でも膨大なデータという圧倒的な力の前では崩壊し得ることを示す華麗な一例であり、複雑な生物システムが単純なアロメトリースケーリング則に従い得る、という考え方に異を唱えるものである。



参考文献:
Church SH. et al.(2019): Insect egg size and shape evolve with ecology but not developmental rate. Nature, 571, 7763, 58–62.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1302-4

線虫の神経系内の接続の全容

 線虫の神経系内の接続の全容に関する研究(Cook et al., 2019)が公表されました。神経系の構成要素がどのように接続されているか知ることは、神経系が機能する仕組みの理解に不可欠です。線虫は神経科学研究の重要なモデル生物で、過去の研究では、線虫の雄のいろいろな部分に関するコネクトームと雌雄同体の神経系に関する記述がありました。この研究は、一連の電子顕微鏡写真を用いて、線虫の一種(Caenorhabditis elegans)の両方の性(雄と雌雄同体)の完全な配線図を示し、この分野の研究を前進させました。次にこの研究は、これらの配線図を以前に発表された顕微鏡写真と組み合わせ、雌雄同体の神経系における接続の再構成を含む、線虫全体のコネクトームを生成しました。

 この研究の方法は、以前の研究で報告されたよりも多くの接続を同定でき、接続の物理的な大きさに基づいて、それぞれの接続の位置とその強度の間接的な尺度を示した。また、この研究は、接続の最大30%までが両性間に著しい強度差があると推測し、明らかになったコネクトームは、複数の個体の顕微鏡写真から構築されているため、コネクトームというコンセプトの作成と把握すべき点も指摘しています。この研究で得られた知見については、脳の機能が脳の構造からどのようにして生じたのか、理解しようとする試みが大きく一歩前進したことを示している、と指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


【神経科学】線虫の神経系内の接続の全容が明らかになった

 線虫の一種Caenorhabditis elegansの成虫の両方の性(雄と雌雄同体)の神経系における接続の全容を示すマップが今週発表される。この新知見は、これまでに発表された線虫の神経マップ(コネクトーム)の中で最も完全なものであり、雌雄の神経系を比較することができる。このマップは、線虫の行動を担う神経回路の解読に役立つかもしれない。

 線虫は、神経科学研究の重要なモデル生物である。過去の研究論文には、線虫の雄のいろいろな部分に関するコネクトームと雌雄同体の神経系に関する記述があった。

 今回、Scott Emmonsたちの研究グループは、一連の電子顕微鏡写真を用いて線虫の雄の頭部の回路をマッピングすることにより、この分野の研究を前進させた。次にEmmonsたちは、これらのマップを以前に発表された顕微鏡写真と組み合わせて、雌雄同体の神経系における接続の再構成を含む線虫全体のコネクトームを生成した。Emmonsたちの方法は、以前の研究で報告されたよりも多くの接続を同定でき、Emmonsたちは、接続の物理的な大きさに基づいて、それぞれの接続の位置とその強度の間接的な尺度を示した。また、Emmonsたちは、接続の最大30%までが両性間に著しい強度差があると考えられるとし、今回の研究におけるコネクトームは、複数の個体の顕微鏡写真から構築されているため、コネクトームというコンセプトの作成ととらえるべき点も指摘している。

 同時掲載のDouglas Portman のNews & Views論文では、今回の研究で得られた知見は「脳の機能が脳の構造からどのようにして生じたのかを理解しようとする試みが大きく一歩前進したこと」を示していると述べられている。


神経科学:Caenorhabditis elegansの両方の性の個体全体のコネクトーム

Cover Story:ワームワイドウェブ:両方の性の C. elegansの神経系の完全なマッピング

 神経系の構成要素がどのように接続されているか知ることは、神経系が機能する仕組みの理解に不可欠である。今回S Emmonsたちは、線虫の一種であるCaenorhabditis elegansの両方の性(雄と雌雄同体)の完全な配線図を示している。この神経地図、つまりコネクトームは、影響力の大きかった1986年の文献を更新するもので、新たな電子顕微鏡画像と以前出版された電子顕微鏡画像から作られ、感覚入力から末端器官への出力まで線虫の全ての接続を含んでいる。この地図によって、各シナプスの位置を決定して、それぞれの接続の強さの間接的測定を、構成シナプスの物理的なサイズに基づいて割り当てられるようになった。また、この地図によって雄と雌雄同体を直接比較することができるようになり、著者たちは雄と雌雄同体の間で接続の約30%が大きく異なっている可能性があると見積っている。これら2つのコネクトームは、線虫の行動に関与する神経回路の特定に役立つはずである。



参考文献:
Cook SJ. et al.(2019): Whole-animal connectomes of both Caenorhabditis elegans sexes. Nature, 571, 7763, 63–71.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1352-7