歯から示されるアフリカヌスの食性と食料不足への対応

 アウストラロピテクス・アフリカヌス(Australopithecus africanus)の歯を分析した研究(Joannes-Boyau et al., 2019)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。アフリカヌスは303万~261万年前頃から230万~210万年前頃の間にアフリカ南部に存在した人類種です。アフリカヌスは果実・葉・草・根などを食べており、その食性が多様なことから、草原や森林など広範な生態系で活動していた、と考えられています。しかし、アフリカヌスの季節ごとの食性変動や授乳行動についてはよく分かっていません。これらが詳細に明らかになっているのは現生人類(Homo sapiens)とネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)だけで、ネアンデルタール人については、授乳期間が2年半だったことや、成長不順が明らかになっています(関連記事)。

 本論文は、南アフリカ共和国のスタークフォンテン(Sterkfontein)洞窟で発見されたアフリカヌス化石2点の歯を分析しました。歯の成長線や元素分析からは、授乳期間や栄養状態を推定できます。授乳の指標となるのはバリウムの濃度です。本論文は、アフリカヌスの乳児が生後1年弱ほどおもに母乳で育てられたことを明らかにしました。このパターンは現代人と類似しており、現生大型類人猿とは大きく異なります。また本論文は、アフリカヌスの歯の元素比が周期的なパターンを示すことも明らかにしました。こうしたパターンは9歳までの野生オランウータンでも観察されており、季節的な食性変化を反映している、と解釈されてきました。本論文は、アフリカヌスも周期的な食料不足を経験し、その時期には幼児は母乳に依存していたのではないか、と推測しています。

 アフリカヌスの存在した300万~200万年前頃は、アフリカにおいて気候変動により環境が大きく変容した時期でした。上述のように、アフリカヌスは広範な生態系で活動していた、と考えられています。アフリカヌスは定期的に食料不足に陥り、それへの適応として、広範な生態系で活動し、食料不足に対応したのではないか、と考えられます。また本論文は、アフリカヌスの母親が育児にさいして、食料不足の時期には授乳で対応し、それが長期にわたったことから、母子の間のつながりとともに、授乳期間の長期化による潜在的な出産回数の減少を指摘します。これが、200万年前頃にはアフリカ南部でアウストラロピテクス属が絶滅した一因になったのではないか、というわけです。

 本論文は、アフリカヌスにおいても母子の間に長期的な絆が存在した可能性を示します。また本論文は、アフリカヌスが周期的に食料不足を経験しただろう、とも示します。アフリカヌスの食性が多様であることを考えると、アフリカヌスは食料不足にたいしてかなり柔軟に対応していた、と推測されます。アフリカヌスは現代人の祖先ではなさそうですが、すでに現生人類とアフリカヌスの最終共通祖先の段階で、一定以上の柔軟性が備わっていたのでしょう。アフリカヌスの絶滅要因と授乳期間の延長(幼児が1歳になってからも、食料不足の時期に母親が授乳すること)とを結びつけるのは、なかなか興味深い見解だと思います。ただ、これはある程度他の人類にも当てはまりそうなので、絶滅要因としてはさほど強くないかもしれません。


参考文献:
Joannes-Boyau R. et al.(2019): Elemental signatures of Australopithecus africanus teeth reveal seasonal dietary stress. Nature, 572, 7767, 112–115.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1370-5