現生人類ユーラシア起源説

 現生人類(Homo sapiens)アフリカ単一起源説は現在では通説として広く認められているでしょうが、最近、アフリカ起源説が覆されている、といった認識も一部?で見られるようになりました(関連記事)。その根拠とされているのが、「今、ホモ・サピエンスのアフリカ起源説など人類史の常識が次々と覆されている」という記事です。その記事が依拠しているのは、『交雑する人類 古代DNAが解き明かす新サピエンス史』です(関連記事)。しかし、すでに昨年(2018年)10月の時点で当ブログにて取り上げましたが(関連記事)、その記事は同書を誤読しています。同書が主張しているのは、「超旧人類」・現生人類・ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)・デニソワ人(Denisovan)の共通祖先集団はアフリカからユーラシアへと最初に拡散したホモ属であるエレクトス(Homo erectus)で、その一部がアフリカに戻って現生人類系統へと進化した可能性です。これを現生人類ユーラシア起源説と解釈するのには無理があると思います。

 同書はその根拠として、アフリカでのみこれらの系統がずっと進化したと仮定すると、アフリカからユーラシアへの大規模な移住が4回(180万年以上前の最初の出アフリカ、超旧人類の出アフリカ、ネアンデルタール人とデニソワ人の共通祖先の出アフリカ、現生人類の出アフリカ)必要なのにたいして、ユーラシアで進化したと仮定すると、大規模な移住は3回(180万年以上前の最初の出アフリカ、その系統の一部のアフリカへの「帰還」、アフリカで進化した現生人類のユーラシアへの拡散)で、より節約的であることを挙げています。直接的な証拠としては、スペインで発見され96万~80万年前頃と推定されているホモ属化石のアンテセッサー(Homo antecessor)に、現生人類とネアンデルタール人双方の特徴が見られる、ということが挙げられています。

 しかし、現代人と古代人のDNA解析で推定できる人類系統が、現時点では「超旧人類」・現生人類・ネアンデルタール人・デニソワ人というだけではないか、とも思います。つまり、現時点での現代人と古代人のDNA解析では検出できない複数の人類系統が存在し、そうした系統も含めると出アフリカは珍しくなかったのではないか、というわけです。更新世における人類(ホモ属)の出アフリカが珍しくなかったとすると、アフリカとユーラシアの間の想定移住回数の少ない仮説の方が妥当とは限らないだろう、と私は考えています。

 その状況証拠となるのが、ジャワ島のエレクトスは北京のエレクトスよりも前期更新世のアフリカおよびグルジアのホモ属化石の方と類似している、との見解です(関連記事)。これは、アフリカ起源のエレクトスが東方へ進出し、アジア東方において南北に別れ、南東部(ジャワ島)系統と北東部(北京)系統に進化していった、とする有力説と整合的ではありません。さらに、現生人類到達前のアジア東部においても、異なる系統のホモ属の共存の可能性が指摘されています(関連記事)。これらは、アフリカからユーラシアへのホモ属の拡散が少なくなかったことを示唆しているのではないか、と思います。なお、アフリカの初期エレクトスを別種エルガスター(Homo ergaster)と分類する見解もあります。

 アンテセッサーに現生人類とネアンデルタール人双方の特徴が見られることも、現生人類とネアンデルタール人の共通祖先系統と近縁な系統がヨーロッパにまで拡散していた事例として解釈でき、前期更新世でもホモ属の出アフリカが少なからずあったことを反映しているのではないか、と私は考えています。ただ、アフリカにおける90万~60万年前頃の人類化石記録の乏しさという問題は残っています。そのため、エレクトスもしくはエルガスターから、ネアンデルタール人と現生人類の最終共通祖先と想定される派生的なホモ属への進化が実証されているとはとても言えません。近年、アフリカ東部の85万年前頃のホモ属頭蓋に関して、初期ホモ属からハイデルベルク人(Homo heidelbergensis)のような派生的なホモ属への進化を示している、との見解も提示されています(関連記事)。今後アフリカで、現生人類とネアンデルタール人の最終共通祖先と考えられるような特徴の100万~80万年前頃のホモ属化石が発見される可能性はかなり高いだろう、と私は考えています。まあ現時点では、考えているというよりも、期待していると言うべきかもしれませんが。

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