地域的な偏りのある人類進化研究

 人類進化研究に地域的な偏りがあることは否定できません。手薄な地域よりも密度の濃い地域を挙げていった方が早そうで、アフリカ東部および南部、ヨーロッパ、アジア南西部、アメリカ大陸、オーストラリア、アジア東部では日本列島といったところでしょうか。こうした地域的格差が生じた理由は複合的ですが、最大の要因は(アメリカ合衆国やオーストラリアなども)ヨーロッパ系研究者にとっての関心と研究条件でしょうか。近代的な学問はヨーロッパから始まったので、ヨーロッパ系研究者が関心を抱いた地域・時代と、ヨーロッパ系研究者にとって研究をしやすい条件の地域が優先されたことは否定できないでしょう。

 ヨーロッパ系研究者にとって最も関心が高い地域はやはりヨーロッパでしょうし、近代はヨーロッパから始まり、社会資本整備と大学の普及および研究環境の構築が最も早く進んだことも、ヨーロッパにおける人類進化研究を促進しました。アフリカは、ダーウィンが人類の起源地としてアフリカを示唆していたにも関わらず、偏見から人類進化研究ではあまり注目されていませんでしたが、東部および南部は人類の起源と関わりそうな遺骸が次々と発見されたことから、研究者が集中することになり、研究が促進されました。アフリカ南部に関しては、南アフリカ共和国の経済力の高さも研究の進展の要因になったと思います。

 アジア南西部は、聖書との関連でヨーロッパの起源として注目されたことから考古学的研究が進み、人類進化研究が促進されました。ただ、アジア南西部では政治的対立が続き、治安状態も悪いことから、21世紀以降では他地域と比較して研究の進展が遅くなっているかもしれません。アメリカ大陸は、アメリカ合衆国が世界最大の経済規模の国となり、研究環境が進展したことにより、人類進化研究が大きく進みました。他地域よりも人類拡散の歴史がずっと浅いことにより、研究密度が向上していると言えるかもしれません。オーストラリアも、アメリカ大陸よりは人類拡散の歴史が古そうですが、比較的歴史は浅く、何よりもヨーロッパ系の主導により早期に進展した近代化が、人類進化研究を促進したと言えそうです。日本列島は、非ヨーロッパ地域の中では近代化が早期に進展し、狭い国土で開発が進んだことから、人類進化研究でも大きな進展が見られました。ただ、日本列島はおおむね酸性土壌で、南西諸島を除いて更新世の人類遺骸がほとんど発見されていないことは、他地域と比較して人類進化研究の大きな制約となっています。

 その他の地域では人類進化研究が比較的遅れているわけですが、経済発展に伴い、社会資本と研究環境が整備されていき、開発の進展に伴う発掘機会の増加により、そうした地域でも人類進化研究は急速に進んでいく、と期待されます。とくにアジア東部の大半を占める中国は、すでに世界第2位の経済規模の国となり、人類進化研究も近年では大きく進展しており(関連記事)、今後のさらなる進展が期待されます。中国の場合、近代に列強の侵略を受けたものの、決定的に植民地化されたわけではなく、1949年に共産党政権が成立してからは、1970年代後半まで閉鎖的だったことが、研究水準と経済力の高いヨーロッパ系研究者を遠ざけることになり、人類進化研究が遅れることになりました。しかし、中国の研究水準は世界第2位の経済力に裏づけられては今や世界でもかなり高いと言えるでしょうから、近年の研究の進展も当然だとは思います。ただ、中国の人類進化研究に関しては、ナショナリズム的性格を危惧する見解もあることが懸念されます(関連記事)。

 アジア南部および南東部といったその他の地域も、経済発展に伴う研究の進展が期待されます。どちらも、現生人類(Homo sapiens)のアジア東部やオセアニアへの拡散の解明という観点からも大いに注目されます。また、現生人類ではない人類も、アジア東部への拡散にはアジア南部および南東部を経由した可能性が高いでしょうから、その意味でも注目されます。中国北部では212万年前頃までさかのぼる石器が発見されているのですが(関連記事)、これは現時点では、地域的にも年代的にもほぼ完全に孤立した事例となっています。パキスタンでは180万年前頃とされる石器も報告されていますが、確定的ではないので(関連記事)、今後、アジア南部および南東部で、その空白を埋める発見があるのではないか、と期待されます。