頭蓋の比較によるアフリカの中期更新世後期人類の多様性と現生人類の起源

 頭蓋の比較によるアフリカの中期更新世後期(35万~13万年前頃)人類の多様性と現生人類(Homo sapiens)の起源に関する研究(Mounier, and Lahr., 2019B)が報道されました。中期更新世後期のアフリカの人類化石記録の不足のため、現生人類の進化に関しては未解決の問題が多く残っています。アフリカ北部では、モロッコのジェベルイルード(Jebel Irhoud)遺跡の現生人類的な遺骸が315000年前頃と推定されており、現生人類の起源がさかのぼる、と大きな話題になりました(関連記事)。アフリカ東部では、北部よりも多くの中期更新世後期の人類遺骸が発見されています。たとえばエチオピアでは、20万年前頃のオモ1号(Omo I)やオモ2号、16万年前頃のヘルト(Herto)の完全な成人頭蓋(BOU-VP16/1)と青年頭蓋冠(BOU-VP16/5)です。ケニアでは、30万~27万年前頃のグオモデ(Guomde)の頭蓋冠(KNM-ER 3884)や、30万~20万年前頃のエリースプリングス(Eliye Springs)のほぼ完全な頭蓋(KNM-ES 11693)です。タンザニアでは、ラエトリ(Laetoli)で30万~20万年前頃の頭蓋(LH18)です。アフリカ南部では、南アフリカ共和国のフロリスバッド(Florisbad)遺跡で259000年前頃の部分的な頭蓋です。

 これら現生人類との類似性が指摘される化石群にたいして、南アフリカ共和国では現生人類と大きく異なる形態のホモ・ナレディ(Homo naledi)が発見されており、推定年代は335000~236000年前頃です(関連記事)。本論文は、ナレディを除外した場合でも、アフリカの中期更新世後期の人類遺骸の形態はひじょうに多様だと指摘します。ナレディを除く現生人類との類似性が指摘される化石群のうち、オモ1号とヘルト遺骸は異論の余地のない最古級の現生人類と一般的に分類されています。その他の化石群は、派生的特徴と祖先的特徴の混在から、「古代型サピエンス」と呼ばれています。

 本論文は、化石および現代の現生人類集団の頭蓋を、他のホモ属化石と比較しました。対象になったのは、最初期ホモ属であるアフリカのハビリス(Homo habilis)、アフリカの初期ホモ属であるエルガスター(Homo ergaster)、アフリカ外では最古級(177万年前頃)のホモ属となるジョージア(グルジア)のドマニシ(Dmanisi)のジョルジクス(Homo georgicus)、おもにユーラシア西部に分布したネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)です。ネアンデルタール人は、早期と後期の近東およびヨーロッパ南部およびヨーロッパ西部に区分されています。なお、エルガスターをエレクトス(Homo erectus)に含める区分は珍しくありませんし(むしろ一般的と言えるかもしれません)、ジョルジクスという種区分はまだ定着していないように思います。

 これらのホモ属頭蓋の分析・比較から、初期ホモ属は現生人類およびネアンデルタール人と大きく異なることが示されます。前期ホモ属と後期ホモ属の違いとともに、現生人類とネアンデルタール人が後期ホモ属の始まりもしくは前期ホモ属の終わりの頃まで、共通系統だったことを示しているのでしょう。ネアンデルタール人と現生人類も明確に区分されますが、早期現生人類と早期ネアンデルタール人は比較的近縁で、現代人と後期ネアンデルタール人はそれよりも遠い関係になっています。現生人類とネアンデルタール人系統で、それぞれ特殊化が進んだことを反映しているのでしょう。現生人類系統では、イスラエルのスフール(Skhul)とカフゼー(Qafzeh)に代表される早期現生人類が、現代人系統と大きく異なる分類群を形成します。現代人系統では、やや異なる2系統樹が示されましたが、アフリカ系統の多様性が高く、非アフリカ系統はアフリカ系統の一部から派生する、という点では一致しています。これらは、DNA解析による地域集団の系統樹とおおむね整合的です。

 本論文はこれら2系統樹から、現生人類の仮想最終共通祖先の頭蓋(vLCA)を提示しています。vLCA1も2も形態はほぼ同じで、球状であることや比較的高い額や弱い眉上隆起と顔面突出など、現生人類に特有とされるほとんどの形態学的特徴を有しています。しかし、下顎がやや突き出していることなど、祖先的特徴も示します。本論文はこのvLCA1および2を、ネアンデルタール人および現生人類、さらにはエチオピアのオモ2号・ケニアの11693・タンザニアのLH18・南アフリカ共和国のフロリスバッド・モロッコのイルード1号というアフリカの中期更新世後期の「古代型サピエンス」と比較しました。これら中期更新世後期のアフリカの「古代型サピエンス」では、フロリスバッドがvLCA1および2との類似性を最も強く示し、オモ2号はネアンデルタール人と現生人類の中間、イルード1号は分析によってはネアンデルタール人との類似性も現生人類との類似性も示します。

 アフリカの中期更新世後期のホモ属頭蓋は、195000年前頃のオモ1号と16万年前頃のヘルト人(BOU-VP16/1)の前までは、祖先的特徴と現代的特徴の混在を示し、完全に現代的ではありません。本論文は、現生人類の出現は急速で、断続平衡説的だったかもしれない可能性を提示しているものの、中期更新世の化石記録において長期の安定の証拠はない、と指摘します。さらに本論文は、現時点での証拠では気候変動による顕著な環境変化が想定され、中期更新世後期アフリカの人類化石記録における多様性の高さは顕著な環境変化と一致する、と指摘します。

 本論文はアフリカの中期更新世後期の「古代型サピエンス」頭蓋を、大きく3区分しています。一つは、東部のLH18に代表される、現生人類化石ともvLCAとも類似性の低い集団です。次に、北部のイルード1号で、現生人類とネアンデルタール人の中間的形態を示します。第三は、南部のフロリスバッドや東部の11693およびオモ2号です。この第三集団は現生人類との近縁性が示され、上述のようにフロリスバッドはとくに強い類似性を示します。フロリスバッド遺骸の時代には、現生人類とは大きく異なる形態のナレディが存在しており、中期更新世後期におけるホモ属内の形態の複雑さを強調します。本論文は、中期更新世後期のアフリカのホモ属の中には、ナレディのように現生人類の形成には関与していなかった系統もあるだろう、と推測します。つまり、そうした系統は気候変動の中で絶滅した、というわけです。現生人類は形態的に確立した後に、中期更新世後期のうちにレヴァント(関連記事)やアジア東部(関連記事)まで拡散した可能性がある、と本論文は指摘します。

 現生人類の起源地について、アフリカでも東部・南部・北部が提示されていますが、複雑なパターンも指摘されています。本論文は、中期更新世後期アフリカのホモ属化石では、南部のフロリスバッドと東部の11693およびオモ2号が、vLCAおよび早期現生人類とのより強い類似性を示す、と指摘します。一方、イルード1号のようにネアンデルタール人との類似性も示す北部集団は、ネアンデルタール人に種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)と近縁な「前期型」から現生人類とより近縁な「後期型」のミトコンドリアDNA(mtDNA)をもたらした(関連記事)かもしれない、と本論文は推測します。現生人類の起源はおもにアフリカ南部集団で、東部集団も関わっていただろう、というわけです。

 本論文は、中期更新世後期における現生人類の出現過程は複雑だと強調します。35万~20万年前頃となる前半段階には、異なる表現型の現生人類的な集団が各地域で形成されていったかもしれない、と本論文は推測します。続く後半段階に、集団の交雑と合同にいたるような集団の断片化と差異的拡大の期間が続いた結果、現代的な集団(解剖学的現代人)が20万~10万年前頃に出現し、それはヘルトやスフールやカフゼーの個体に代表される、との見通しを本論文は提示しています。これは、現生人類の派生的な形態学的特徴がアフリカ各地で異なる年代・場所・集団に出現し、比較的孤立していた複数集団間の交雑も含まれる複雑な移住・交流により現生人類が形成された、との「アフリカ多地域進化説」と共通するところもあると思います(関連記事)。

 しかし本論文は、中期更新世後期のアフリカの地域的ホモ属集団すべてが等しく、あるいは少しでも、現生人類系統に遺伝的に寄与した可能性は低く、地域的絶滅と創始者効果が、解剖学的現代人の出現をかなりのところ形成しただろう、と指摘します。中期更新世後期のアフリカの「古代型サピエンス」とされてきた集団でも、北部は現生人類の確立にほとんど寄与せず、南部とおそらくは東部が主体になっただろう、というわけです。本論文はvLCAの形態について、20万~10万年前頃という現生人類成立の最終段階に近いと推測しています。さらに本論文は、現生人類のより古い化石が今後発見される可能性を指摘しています。

 あくまでも頭蓋データに基づいていますが、本論文の見解は遺伝学の研究成果とも整合的で、興味深いと思います。私は近年、現生人類の起源について上述の「アフリカ多地域進化説」を支持していますが、中期更新世後期のアフリカのホモ属のうち、現生人類に近いと思われる集団の一部が、絶滅して現生人類の確立に寄与しなかったり、寄与してもわずかだったりすることは充分想定されると思います。また、頭蓋の類似性から、ネアンデルタール人の「後期型」の起源が中期更新世後期のアフリカ北部の「古代型サピエンス」集団にあるかもしれない、との見解も注目されます。ただ、現時点ではやはり中期更新世後期のアフリカのホモ属化石の少なさは否定できず、今後の発見の増加により、さらに正確な現生人類進化史像が描かれるのではないか、と期待しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【進化】現生人類の最終共通祖先のバーチャルな頭蓋骨

 全ての現生人類の最も近い共通祖先の頭蓋骨の仮想モデルを紹介する論文が掲載される。この研究成果は、ホモ・サピエンスの複雑な進化に関する手掛かりになると考えられる。

 今回、Aurelien MounierとMarta Mirazon Lahrは、現生人類集団(21集団)と化石人類集団(5集団)の頭蓋骨263点を調べ、系統発生的モデル化によって、全ての現生人類の最も近い共通祖先の頭蓋骨を仮説的仮想モデルとして再現した。次にMounierとLahrは、このバーチャルな頭蓋骨と中期更新世後期(約35万~13万年前)のアフリカのヒト族化石5点を比較して、このヒト族の集団が、ホモ・サピエンスの起源にどのような役割を果たしたのかを評価した。

 MounierとLahrは、これらのヒト族の系統がホモ・サピエンスの起源に等しく寄与したわけではなかったとする考えを示している。今回の研究結果は、ホモ・サピエンスがアフリカ南部の起源集団の合体、場合によってはそれに加えてアフリカ東部の起源集団との合体から生じた可能性があるという学説を裏付けている。また、MounierとLahrは、今回の研究で検討された化石の1つであるIrhoud 1がネアンデルタール人に形態が近いため、ホモ・サピエンスの起源がアフリカ北部である可能性は低いと主張している。



参考文献:
Mounier A, and Lahr MM.(2019B): Deciphering African late middle Pleistocene hominin diversity and the origin of our species. Nature Communications, 10, 3406.
https://doi.org/10.1038/s41467-019-11213-w

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