DNAメチル化地図から推測されるデニソワ人の形態(追記有)

 DNAメチル化地図から種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)の形態を推測した研究(Gokhman et al., 2019)が報道されました。種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)は、DNA解析結果から、現生人類(Homo sapiens)よりもネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の方と近縁で、現代人ではおもにメラネシア系とオーストラリア先住民に遺伝的影響を残していると明らかになっていますが、その形態はほとんど知られていません(関連記事)。南シベリアのアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)で発見されたデニソワ人の1個体(デニソワ3)からは高品質なゲノム配列が得られており(関連記事)、解剖学的特徴に関するじゅうぶんな情報が含まれている可能性がありますが、どの遺伝子がどの特徴にどのように関わっているのか、まだ詳しくは解明されていません。

 直接的な方法は、タンパク質配列を変える置換の結果の調査です。しかし、デニソワ人およびネアンデルタール人と現生人類との非同義置換は少なく、大半は非コード領域の変化もしくは非同義置換です。非コード領域の変化の多くはおそらく(ほぼ)中立的ですが、遺伝子活性を変えるものもあり、形態に影響を及ぼすと考えられます。しかし、こうした多様体を正確に特定することはひじょうに困難です。こうした問題を回避する方法は、さまざまな特徴に関連していると知られている一塩基多型の複合効果を予測することです。皮膚や髪や目の色素沈着のような特徴の予測精度はヨーロッパ人では80%を超えていますが、顔面の形態も含む特徴の大半では、ゲノム規模関連研究(GWAS)に基づく予測の精度は低い水準です。さらに、ヨーロッパ人に基づくGWASを他集団に適用しても精度は低いと明らかになっており、おそらくこれは、GWASが最近生じた多様体による人口集団内の多様性を反映しているからです。

 理想的には、デニソワ人の形態をさらに理解するには、非コード配列変化よりも容易に解釈できる遺伝子発現を直接的に測定しなければなりませんが、RNA分子は古代の標本では急速に分解するため、配列には使用できません。そのため本論文は、遺伝子活性の標識として、ゲノムの重要な調節機能となるDNAメチル化を使用しました。本論文は、デニソワ人のDNAメチル化パターンを、現生人類・ネアンデルタール人・チンパンジーと比較し、どの遺伝子が各系統で上方制御もしくは下方制御されているのか、推測しました。本論文は次に、機能喪失変異のためと知られており、そのために活性が減少する表現型の分析により、これらの変化を潜在的な表現型変化と関連づけました。本論文はこの方法をネアンデルタール人とチンパンジーに適用し、その精度を定量化しました。その結果、ネアンデルタール人と現生人類を分離する特徴の復元において82.8%、変化の方向性において87.9%の精確性が示されました。チンパンジーでは、それぞれ90.5%と90.9%になります。本論文は、この方法をデニソワ人に適用することで、デニソワ人の形態を推測します。

 ネアンデルタール人とデニソワ人のDNAメチル化地図は、すでに報告されています(関連記事)。本論文は、デニソワ人1人とネアンデルタール人2人と現代人55人チンパンジー5匹のメチル化地図を作成し、比較しました。本論文はまず、年齢や健康状態や性別など個体要因によりメチル化の水準が異なる遺伝子座を除外し、系統固有のメチル化水準の違いを識別しました。それは、現生人類の873ヶ所、ネアンデルタール人とデニソワ人で共通の939ヶ所、ネアンデルタール人固有の570ヶ所、デニソワ人固有の443ヶ所、チンパンジーの2031ヶ所となります。次に本論文は、系統特有のメチル化の変化と遺伝子活性水準の変化の反映を特定し、さらに遺伝子活性の変化と既知の表現型とを関連づけました。最終的に本論文は、597ヶ所のメチル化遺伝子を、1528ヶ所の骨格の表現型と関連づけました。

 本論文はすべての表現型を、方向性と非方向性に二分しました。方向性表現型は、変化が高低や加速と遅延など一次元で表現でき、たとえば骨格成熟の遅延や両頭頂骨間の狭小化などです。非方向性表現型は、顔面異常や歯の不正咬合など、一次元では表せないものです。本論文は、815ヶ所の方向性表現型を分析しました。本論文はメチル化水準の違いによる予測を2区分しています。一方は、特徴の分岐の予測で、たとえば両系統間の指の長さの違いです。もう一方は変化の方向性が分かる分岐の特徴の予測で、たとえばどちらの系統の指がより長いのか、ということです。

 本論文はこの方法を用いて、デニソワ人の形態を復元しました。デニソワ人の特徴は、ネアンデルタール人とともに現生人類と異なるものと、ネアンデルタール人と異なるものに二分されます。前者は現生人類系統もしくはデニソワ人とネアンデルタール人の共通祖先系統で進化し、後者はデニソワ人系統で進化したと考えられます。全体として、デニソワ人において現生人類もしくはネアンデルタール人と異なる56ヶ所の特徴が識別され、32ヶ所では変化の方向性が予測できました。32ヶ所の単一指向性特徴から、デニソワ人の骨格の特徴を推測できます。予想通り、デニソワ人の特徴32ヶ所のうち21ヶ所はネアンデルタール人と共有される、と予測されています。共通の特徴は、頑丈な顎や低い頭蓋や厚いエナメル質や広い骨盤や大きな胸郭や突き出た顔などです。

 他の11個の単一指向性特徴は3区分されます。第一は、デニソワ人系統で出現した変化した3ヶ所で、現生人類およびネアンデルタール人と異なると予想されます。それは、長い歯列や拡大した下顎頭や広い頭骨の幅です。第二は、ネアンデルタール人特有の変化2ヶ所で、デニソワ人の特徴はネアンデルタール人よりも現生人類の方と類似している、と予想されます。それは、下顎前部と比較しての広い側頭骨と、永久歯の早期の喪失です。なお、今月(2019年9月)公表されたばかりの検証なので本論文では言及されていませんが、デニソワ人の指はネアンデルタール人よりも現生人類の方と類似している、と指摘されています(関連記事)。第三は、現生人類もしくはネアンデルタール人およびデニソワ人の祖先系統とネアンデルタール人系統で出現した6ヶ所で、3系統でそれぞれ特徴が異なると予測されます。これらの特性は、骨密度・顔面の広さ・骨幹端と骨幹の幅・顔面突出(下顎前突)・肩甲骨のサイズ・骨格の成熟時期です。

 これらの特徴は、化石記録の豊富なネアンデルタール人では照合できますが、デニソワ人で照合できるのは歯と今年(2019年)新たに報告されたチベット高原東部の下顎(関連記事)だけです。本論文はデニソワ人の特徴8ヶ所の予測を化石記録と検証し、長い歯列など7ヶ所でじっさいの形態と一致する、と明らかになりました。一方で、ネアンデルタール人と似ていると予測されたデニソワ人の下顎前部は、じっさいの形態ではネアンデルタール人よりもかなり長いと報告されています。これは、アルタイ地域とチベット高原東部ではデニソワ人の系統が異なる可能性を反映しているのかもしれません。以下、本論文の結果に基づくデニソワ人の復元画像を上記報道から引用します。
画像

 本論文で復元されたデニソワ人の特徴の多くは、中国の中期~後期更新世の古代型(非現生人類)ホモ属遺骸で確認されました。これら古代型ホモ属化石はネアンデルタール人のよう特徴を示しますが、その系統分類は未定のままです。おそらくネアンデルタール人に最も類似しているのは、中華人民共和国河南省許昌市(Xuchang)霊井(Lingjing)遺跡で発見された、125000~105000年前頃の頭蓋です(関連記事)。これら中国の中期~後期更新世の古代型ホモ属の頭蓋はネアンデルタール人と類似しているため、デニソワ人に分類できる可能性が高まっています。許昌頭蓋には頭蓋冠と頭蓋底が含まれ、側頭骨の横方向の拡大など10ヶ所の方向性形態のうち7ヶ所が、復元されたデニソワ人の特徴として確認されました。

 中国の中期~後期更新世の古代型ホモ属化石すべてがデニソワ人系統に分類できるとは限りませんが、デニソワ人がアジア東部に広く拡大していた可能性は低くなさそうです。そうすると、デニソワ人はどのようにアジア東部にまで拡大してきたのかが問題となります。仮に、デニソワ人がユーラシア南部を東進してきたのだとしたら、アジア南部および南東部にもデニソワ人系統が存在したことになります。そうすると、アルタイ地域のデニソワ人は、アジア東部から北上してきた集団だったのかもしれません。デニソワ人に関しては、今後の課題として、より保存状態の良好なデニソワ人遺骸の発見が挙げられます。それにより、本論文の予測がどの程度妥当なのか、総合的に確認できます。

 本論文はDNAメチル化パターンから、系統間の特性を80%以上の精度で復元し、この方法の有効性を示しました。本論文の提示した方法は、断片的な遺骸からも形態をかなりの精度で推測できるようになったという意味で、たいへん意義が大きいと思います。デニソワ人もネアンデルタール人も、DNAメチル化地図は断片的な遺骸から高品質なゲノム配列の得られた個体で作成されています。古代DNA研究が新たな方法で飛躍的に発展する可能性を秘めている現在(関連記事)、化石記録の残存性に依拠せず形態を推測できる本論文の方法は、今後重要な役割を果たしていくだろう、と期待されます。


参考文献:
Gokhman GS. et al.(2019): Reconstructing Denisovan Anatomy Using DNA Methylation Maps. Cell, 179, 4, 180–192.E10.
https://doi.org/10.1016/j.cell.2019.08.035


追記(2019年9月25日)
 ナショナルジオグラフィックでも報道されました。

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