日本人の身長関連遺伝子

 日本人の身長関連遺伝子についての研究(Akiyama et al., 2019)が報道されました。日本語の解説記事もあります。身長や体重など、遺伝的要因と環境的要因が相互に影響して個人の違いを生じる特徴は多因子形質と呼ばれています。身長は多因子形質の中でも遺伝的な影響が強いと知られており、ヨーロッパやアメリカ合衆国の双子を用いた研究では、身長の個人差の8割程度は遺伝的要因によって生じている、と報告されています。こうした多因子形質の原因の特定には、ゲノムワイド関連解析(GWAS)が用いられています。これは、疾患や身長・体重などの量的な形質に影響があるゲノム上のマーカー(遺伝的変異)を、網羅的に検索する手法です。これまで、身長関連の遺伝的要因の研究はヨーロッパとアメリカ合衆国が対象の中心で、日本人を対象とした研究は小規模なものに限られていました。本論文は、日本人約19万人のゲノム規模関連解析により、身長に関わる573の遺伝的変異を同定しました。

 本論文は、全ゲノムインピュテーション(全ゲノム予測)という方法を用いて、この問題に取り組みました。全ゲノム予測とは、験で測定されていない遺伝的変異を推定する遺伝統計学的方法です。GWASのさいに、実験で測定された遺伝子変異だけを用いると、数十万ヶ所の遺伝的変異しか比較できませんが、全ゲノム予測の場合、比較できる遺伝的変異の数を数千万ヶ所にも増やせます。本論文は、まず全ゲノム予測の精度を改善するために、バイオバンク・ジャパンで実施された日本人1037人の全ゲノム配列データと、国際的な1000ゲノムプロジェクトで実施された、さまざまな地域集団を対象とした2504人の公開されている全ゲノム配列データを統合し、日本人の全ゲノム予測用の参照配列を新たに構築しました。本論文は、バイオバンク・ジャパンの参照配列に用いた標本とは別の標本で精度を検証し、既存の参照配列と比較して高精度に遺伝的変異を推定できる、と確認しました。とくに、アレル(対立遺伝子)頻度が低い遺伝的変異においては、精度が著しく向上していました。

 本論文は、作成した予測参照配列を用いて、バイオバンク・ジャパンに参加した159195人を対象に、約2800万ヶ所の遺伝的変異が身長に及ぼす影響についてGWASを実施しました。その結果、363のゲノム領域に存在する609の遺伝的変異がゲノム規模水準を超えており、身長に関わる、と分かりました。さらに本論文は、同定された遺伝的変異の再現性について検証するために、日本の4研究に参加した32692人について同様の解析を行ない、609のうち573の遺伝的変異が日本人の身長に関わる、と明らかになりました。このうち64の遺伝的変異はアレル頻度が5%未満で、これまでの方法では検出が難しいものでした。ただ、発見されたそれぞれの領域には複数の遺伝子が存在しているため、どの遺伝子が身長の違いに影響しているかまでは判定できません。そこで本論文は、タンパク質に影響する遺伝的変異の情報を用いて遺伝子単位で関連を調べる手法により、どの遺伝子が身長へ影響しているかを検証しました。

 その結果、CYP26B1とSLC27A3というニつの遺伝子が身長に影響している、と明らかになりました。これらの遺伝子の多様体はいずれも、身長を高くすることに関わっている、と推定されました。また本論文は、CYP26B1遺伝子とSLC27A3遺伝子が他の形質にどのように影響するのか、バイオバンク・ジャパンのデータを用いて解析して、CYP26B1遺伝子は肥満の指標であるBMIに影響し、SLC27A3遺伝子はコレステロールや中性脂肪に影響する、と明らかになりました。それぞれ別の生物学的機序により身長に影響する可能性が示された、というわけです。さらに本論文は、GWASの結果に基づいた「gene-set enrichment解析(GWASの結果に基づいて遺伝子にスコアをつけ、スコアが高い遺伝子が特定の機能を持った遺伝子に集積しているのか、検討する解析手法)」や、アレル頻度別に遺伝的変異が身長に及ぼす影響について検証し、ヨーロッパやアメリカ合衆国の人々の結果と類似した結果が得られたことから、身長に関わる遺伝的要因の生物学的・遺伝的特徴は地域集団を超えて共通していると確認された、と指摘します。

 また本論文は、アレル頻度が低い遺伝的変異の影響に着目し、日本人の身長に関わる遺伝的要因がどのような影響を受けてきたのか、調べました。本論文は、遺伝的変異をアレル頻度に従って100種に分類し、それぞれの身長へ与える影響の平均値を調べました。その結果、アレル頻度が低い遺伝的変異では身長を高くする傾向にある、と明らかになりました。これは、身長を高くする効果を持った遺伝的変異が日本人集団では自然淘汰を受けていた、と示唆する結果で、高身長が日本人にとって何らかの不利な影響を及ぼしていた可能性を示しています。仮にそうだとして、理由についてはまだ不明ですが、島嶼化により大型動物(現代人も動物の中では大型種です)が小型化することは知られています。ただ、日本列島のような規模でも起き得ることなのかと考えると、別の要因を想定する方がよさそうに思います。この問題に関しては今後の研究の進展が期待されます。


参考文献:
Akiyama M. et al.(2019): Characterizing rare and low-frequency height-associated variants in the Japanese population. Nature Communications, 10, 4393.
https://doi.org/10.1038/s41467-019-12276-5

大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』第38回「長いお別れ」

 嘉納治五郎はカイロで開かれたIOC(国際オリンピック委員会)総会で1940年の東京オリンピック開催を改めて認めさせた後、帰路の船中で亡くなります。田畑は嘉納の遺志を継いでオリンピック開催を訴えますが、イギリスもフランスも日中戦争(当時は事変扱い)を理由に不参加を伝えてきて、ついに副島道正は、開催中止を決断するよう、政府に訴えます。日中戦争終結の目途が立たない政府も、ついに1940年の東京オリンピック中止を発表します。それでも、金栗四三の弟子の小松勝は、1940年の夏季オリンピック大会が他の都市で開催されることを信じて、希望を失いません。しかし、1939年、第二次世界大戦が勃発し、1940年の夏季オリンピック大会は中止となります。今回は一気に時代が進み、太平洋戦争が勃発し、1943年、小松勝は学徒出陣により出征することになります。

 今回は、1940年に東京で開催予定だった夏季オリンピック大会の中止が主題になるのかと思ったら、あっさりとした描写でした。もっとも、前回までにその過程はよく描かれていたので、さほど不満ではありません。その代わりに今回は、小松とりくの結婚と、古今亭志ん生(美濃部孝蔵)をめぐる物語が長く描かれました。五りんの両親が小松勝とりくであることは、ほとんどの視聴者には予想がついていたでしょうから、予定調和的ではありますが、本筋と落語パートが明示的につながったという意味で、感慨深くもあります。今回は全体的に暗い話となり、次回もそうなりそうですが、ここは避けて通れないので、どのように描かれるのか、本注目しています。