井上寿一『論点別昭和史 戦争への道』

 講談社現代新書の一冊として、講談社より2019年11月に刊行されました。本書は、10の視点での敗戦までの昭和史(1926~1945年)です。それぞれ、天皇(なぜ立憲君主が「聖断」を下したのか)、女性(戦争に反対したのか協力したのか)、メディア(新聞・ラジオに戦争責任はなかったのか)、経済(先進国か後進国か)、格差(誰が「贅沢は敵だ」を支持したのか)、政党(なぜ政党内閣は短命に終わったのか)、官僚(なぜ官僚が権力の中枢を占めるようになったのか)、外交(なぜ協調外交が戦争を招いたのか)、日米開戦(なぜ回避できなかったのか)、アジア(侵略か解放か)です。

 本書は敗戦までの昭和史の現代的意義として、現代日本社会の諸問題の歴史的な起源が昭和の始まりにまでさかのぼることを挙げています。確かに、政治と官僚や国民世論に影響を受ける外交やさまざまな格差など、現代日本社会の諸問題の起点として、敗戦までの昭和時代は有益な視点を提供している、とは思います。本書は、上述のさまざまな論点に関して、著者の見解のみを提示するのではなく、論争史に言及しつつ、複数の見解を取り上げています。とはいっても、一般向けであることを意識して、さまざまな見解が比較的分かりやすく紹介されており、参考文献も多数掲載されているので、敗戦までの昭和史の入門書として適していると思います。

 本書で取り上げられている論点の中には、すでに他の新書などでも扱われているものもあり、当ブログで言及したものもありますが、興味深いものが多く、現代日本社会への示唆にもなっています。全体的に本書は、アメリカ合衆国との戦争の回避など、選択されなかった可能性の検証に力点を置いているように思います。たとえば、敗戦前の政党政治は五・一五事件で終わり、敗戦後に復活しましたが、五・一五事件の後もしばらくは、政党政治の復活が有力視されていた、というような見解です。では、なぜ政党政治が敗戦前には復活しなかったのか、という視点から、本書は昭和初期日本の特徴を解明していこうとします。本書は、敗戦前日本の政党政治が大日本帝国憲法下の高度な分権体制を動かせる強力なもので、世界恐慌や対外危機といった対外的要因と、官僚や軍部といった非選出勢力の進出と、政党の腐敗といった自壊的な対内的要因との複合効果により終焉した、との見通しを提示しています。

 本書は日本が最終的にアメリカ合衆国との戦争を選択したことに関して、何度も回避する機会があった、と指摘します。それが最終的に開戦に至った理由として、陸軍は「万一の僥倖」に賭け、海軍は組織利益を守るために避戦よりも開戦を選択した、と本書は指摘します。結果的に、陸軍はジリ貧に陥ることを恐れてドカ貧になってしまった、と言えるでしょう。アメリカ合衆国との関係を悪化させた要因として、よく日独伊三国同盟が挙げられますが、当時の日本の支配層には、これにより日本の外交的立場が強化され、アメリカ合衆国との交渉で有利になる、との思惑があったようです。しかし、独ソ戦が始まり、日本にとっての日独伊三国同盟の外交効果は低下した、と本書は指摘します。本書は、日本がアメリカ合衆国との戦争を回避できなくなった時点として、1941年6月を挙げています。同月22日に独ソ戦が始まり、25日に南部仏印進駐が決定されたからです。

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