ネアンデルタール人およびデニソワ人の共通祖先と未知の人類系統との交雑

 ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)および種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)の共通祖先と遺伝学的に未知の人類系統との交雑の可能性を指摘した研究(Rogers et al., 2020)が報道されました。『サイエンス』のサイトには解説記事が掲載されています。本論文は、すでに昨年(2019年)6月、査読前に公開されていました(関連記事)。その時と内容は基本的に変わっていないようなので、今回は多少の変更点などを中心に簡単に取り上げます。

 本論文の要点は、現生人類(Homo sapiens)系統と分岐した後の、ネアンデルタール人とデニソワ人の共通祖先である「ネアンデルソヴァン(neandersovan)」は、220万~180万年前頃にネアンデルソヴァンおよび現生人類系統の共通祖先系統と分岐した「超古代系統」と分岐した、というものです。ネアンデルソヴァン系統におけるネアンデルタール人系統とデニソワ人系統の推定分岐年代は737000年前頃(査読前の論文では731000年前頃)で、その少し前にネアンデルソヴァン系統と現生人類系統が分岐したと推定されますから、その間にネアンデルソヴァン系統と超古代系統が交雑したことになります。本論文におけるネアンデルタール人系統とデニソワ人系統との推定分岐年代は、たとえば44万~39万年前頃とする他の研究(関連記事)よりもずっと古くなりますが、これはネアンデルソヴァン系統と超古代系統の交雑のように、本論文が複雑な交雑を想定しているからではないか、と推測されています。

 ジョージア(グルジア)のドマニシ(Dmanisi)遺跡では、185万年前頃までさかのぼる人類の痕跡が確認されています(関連記事)。本論文は、人類の出アフリカは大別して3回あり、200万年前頃となる最初に超古代系統がアフリカからユーラシアへと拡散し、その後はアフリカの人類とは交流せず、80万~70万年前頃となる2回目の出アフリカでネアンデルソヴァン系統がユーラシアへと拡散した超古代系統と交雑し、7万~5万年前頃となる3回目に現生人類がユーラシアへと拡散した、と推測しています。もっとも、すでにゲノムが解析されている現生人類やネアンデルタール人やデニソワ人には遺伝的影響を残していない人類系統による、他の出アフリカもあっただろう、と考えられます。たとえば、中国北西部の212万年前頃の人類(関連記事)です。また、出アフリカ系現代人の主要な祖先ではない現生人類系統の出アフリカも20万年以上前から複数回あった、と推測されます(関連記事)。

 人口史については、超古代系統の有効人口規模は2万~5万人と推定されており、ネアンデルタール人やデニソワ人よりも多かった、と推定されています。また、本論文の筆頭著者のロジャース(Alan R. Rogers)氏は、以前の研究(関連記事)では、ネアンデルタール人の人口は他の研究の推定よりかなり大きかった、と推定されていました。ネアンデルソヴァン系統は人口が減少し、ネアンデルタール人系統はデニソワ人系統との分岐後に人口が数万人規模まで増加していき、各地域集団に細分化されていった、というわけです。一方、他の研究では、ネアンデルソヴァン系統が現生人類系統と分岐した後、ネアンデルタール人系統もデニソワ人系統も人口がずっと減少していった、と推測されています(関連記事)。本論文は、クロアチアのネアンデルタール人の高品質なゲノム配列(関連記事)も対象とすることで、他の研究と近いネアンデルタール人の人口史を推定しています。

 本論文の課題の一つとして挙げられているのは、他の研究で提示されている遺伝学的に未知の古代系統の交雑など、人類史における複雑な交雑事象を踏まえて、どう整合的に解釈するのか、ということです。たとえば、現生人類およびネアンデルソヴァンの共通祖先と分岐した超古代系統がアフリカでアフリカ西部集団の祖先と交雑した、という最近の研究(関連記事)や、サハラ砂漠以南のアフリカ集団における未知の人類系統との交雑の可能性を指摘した研究(関連記事)です。ただ、後者の研究では、それが単一もしくは複数のアフリカの現生人類系統である可能性は除外されていません。また、早期現生人類がネアンデルタール人と交雑し、その後でネアンデルタール人と交雑した出アフリカ現生人類集団の一部がアフリカに「戻って来た」ので、現代アフリカ人におけるネアンデルタール人の遺伝的影響は以前の推定よりずっと高い、という研究(関連記事)もあります。

 このように、人類史において異なる系統間の交雑は珍しくなかったようです。超古代系統とネアンデルソヴァン系統は、分岐してから120万年以上経過してから交雑したと推定されており、分岐してから100万年程度では、交雑の大きな障壁にはならないようです。ネアンデルタール人やデニソワ人と現生人類とは、分岐してから70万年ほど経過して交雑していますから、単純に時間経過だけを考えると、交雑はより容易だった、と言えそうです。もちろん、分岐してからの時間が短くとも、生殖隔離をもたらすような変異が蓄積される可能性もありますが。アザラシにおいても、現生人類とネアンデルタール人の場合よりも遺伝距離が2.5倍の種間で交雑が生じており(関連記事)、おそらく哺乳類において一般的に交雑は珍しくなく、それが進化の一因になったのでしょう。


参考文献:
Rogers AR, Harris NS, and Achenbach AA.(2020): Neanderthal-Denisovan ancestors interbred with a distantly related hominin. Science Advances, 6, 8, eaay5483.
https://doi.org/10.1126/sciadv.aay5483

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