脳における言葉と歌の区別

 脳における言葉と歌の区別に関する研究(Albouy et al., 2020)が公表されました。日本語の解説記事もあります。音楽と言葉は多くの場合、互いに切り離せない形で関係し合っているため、ヒトにとって、単一の連続した音波において旋律と言葉を切り離して認識するという能力には、大きな困難が伴います。現在、言葉の知覚は短時間の一時的な時間変調を処理する能力に強く依存しているのに対して、旋律の知覚は周波数変動など音のスペクトル構成の詳細な処理に依存する、と考えられています。これまでの研究では、左および右大脳半球のニューロンが、それぞれ言葉と音楽の処理に特化している、と示唆されています。しかし、脳におけるこのような非対称性が、言葉と音楽における異なる音響的特徴によるのか、それとも脳内領域の特異的なニューロンネットワークによるのかは、依然として不明です。

 この研究は、オリジナルの10の文章をオリジナルの10の旋律と組み合わせて100曲のアカペラ(無伴奏の歌)を作成し、時間(言葉)領域とスペクトル(旋律)領域の聴覚情報を組み込みました。この研究は、歌に操作を加え、それぞれにおいて時間領域とスペクトル領域のいずれかを選択的に減弱させられるような録音方法を用いました。その結果、時間情報を減弱させると言葉の認識が障害されるものの、音楽の認識には影響がない、と明らかになりました。他方、旋律の知覚が障害されるのは、歌においてスペクトル情報を減弱させた場合のみでした。同時に行なわれたfMRI脳スキャニングにより非対称的なニューロン活動が示され、言葉の情報の解読は主として左脳の聴覚皮質で行われていたのに対して、旋律の情報は主として右脳で処理されていました。

 ヒトが用いる音の中でも最も独自のものである言葉と音楽の知覚は、異なる大脳半球において歌の音響的構造に特異的な特徴に反応するよう特化して適応したニューロンシステムにより可能になっている、というわけです。ヒトの重要な特徴である言葉の進化は昔から高い関心を集め続けてきましたが、言葉の進化と歌との関連も指摘されるなど、言葉の起源については現在でも議論が続いています。この研究は、言葉の起源と進化を検証するうえで重要な手がかりを明らかにしており、たいへん注目されます。


参考文献:
Albouy P. et al.(2020): Distinct sensitivity to spectrotemporal modulation supports brain asymmetry for speech and melody. Science, 367, 6481, 1043–1047.
https://doi.org/10.1126/science.aaz3468

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