脊椎動物の手の起源

 脊椎動物の手の起源に関する研究(Cloutier et al., 2020)が公表されました。魚類から四肢類(肢が4本の脊椎動物)への進化は、脊椎動物の進化において最も重要な変化の一つです。四肢類の出現は3億7400万年前頃と推定されていますが、その起源に関する仮説は、中期および後期デボン紀(3億9300万~3億5900万年前頃)の数少ない四肢類様魚類化石の解剖学的構造に大きく依存しており、その出現時期がさらにさかのぼるかもしれいない、と指摘されています。エルピストステゲ類として知られるタクソンには、パンデリクティス(Panderichthys)、エルピストステゲ(Elpistostege)、ティクタアリク(Tiktaalik)が含まれますが、いずれの標本からも胸鰭の完全な骨格構造はまだ明らかにされていません。

 本論文は、カナダの後期デボン紀の地層から出土したエルピストステゲの一種(Elpistostege watsoni)の、関節のつながった全長1.57 mの標本について報告しています。これは既知の化石の中で最も完全なエルピストステゲ類の化石標本です。高エネルギーCT(コンピューター断層撮影)により、胸鰭の骨格には近位から遠位の方向に4列の放射骨(そのうち2列は分岐した手根骨を含みます)が並び、遠位には指および指と推定される要素が2列ある、と明らかになりました。この骨格パターンは、これまで胸鰭に発見されている中で最も四肢類に近い骨の配列ですが、この胸鰭は放射骨の遠位に鱗状鰭条も保持していました。

 本論文は、脊椎動物の手は主として、エルピストステゲ類のごく典型的な遊泳用の胸鰭の内部に埋もれた骨格パターンから生じた、との見解を提示しています。エルピストステゲの胸鰭には、四肢類では失われている、魚類に典型的な鰭条が残っていますが、内部では手首と手の要素が著しく進化しており、これらの魚類が陸上へと進出して四肢類になったさいに、いつでも表面化できる状態にあった、というわけです。エルピストステゲは他の全ての四肢類と姉妹タクソンの関係にある可能性があり、その付属肢の特徴により、魚類と陸生脊椎動物との境界線はさらに曖昧なものとなりました。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


進化:初期の魚類に「指」があったことを示す化石

 このほど胸鰭に指のような付属肢の骨格を持つ化石魚が発見され、脊椎動物の手(前肢)の起源に関する手掛かりが得られた。この化石は、魚類から陸生脊椎動物への進化の1段階を示すと考えられている魚類Elpistostege watsoniの最も完全な標本である。この研究報告が、Nature に掲載される。

 四肢類(4本足の脊椎動物)が出現したのは約3億7400万年前だったことが、骨格化石から示唆されているが、それより古い化石の一部に四肢の痕跡があり、出現時期がさらにさかのぼることを示唆している可能性がある。これまでのところ、脊椎動物が陸上に移動した時の進化の記録は、デボン紀中期から後期(3億9300万年~3億5900万年前)の四肢類様魚類Elpistostegaliaの化石数点に大きく依存している。しかし、これらの化石からは、胸鰭(前鰭)の完全な骨格構造が明らかにならなかった。

 今週掲載されるRichard Cloudier、John Longたちの論文では、これまでに発見された最も完全なElpistostegaliaの化石について説明している。これは、長さ1.57メートルのE. watsoniの化石標本で、カナダのケベック州ミグアシャのエスクミナック層から発見された。この研究で、Cloudierたちは、高エネルギーX線CTスキャンを用いて、胸鰭の完全な骨格構造を明らかにした。E. watsoniの胸鰭骨格には、2本の識別可能な指があり、この他に指と推定されるものがあと3本あったが、胸鰭には鰭条も保持されていた。Cloudierたちは、こうした骨の配置は、胸鰭で見つかった最も四肢類に類似した実例だと結論付け、脊椎動物の手は、Elpistostegaliaの胸鰭内の骨格パターンから生じたという見解を示している。


進化学:エルピストステゲと脊椎動物の手の起源

進化学:脊椎動物の手の起源

 四肢類(肢が4本の脊椎動物)の祖先に近縁な化石魚類であるエルピストステゲ(Elpistostege)の、全長1.57 mに及ぶ既知で最も完全な標本が発見され、陸生脊椎動物への進化について新たな手掛かりがもたらされた。エルピストステゲは、パンデリクティス(Panderichthys)およびティクタアリク(Tiktaalik)と共にエルピストステゲ類を構成する。これらの魚類の一部(特にパンデリクティスとティクタアリク)からは多くの情報が得られているが、いずれの標本からも、後に手へと進化を遂げる胸鰭の完全な骨格構造はこれまで明らかにされていなかった。今回J Longたちは、この新たな標本の胸鰭についてCT(コンピューター断層撮影)スキャンを行い、四肢類の手首や指の骨に似た配置の骨格パターンを明らかにしている。エルピストステゲの胸鰭には魚類に典型的な鰭条が残っているが(四肢類では失われている)、内部では手首と手の要素が著しく進化しており、これらの魚類が陸上へと進出して四肢類になった際に、いつでも表面化できる状態にあったと考えられる。



参考文献:
Cloutier R. et al.(2020): Elpistostege and the origin of the vertebrate hand. Nature, 579, 7800, 549–554.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2100-8

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