ニシローランドゴリラの縄張り意識

 ニシローランドゴリラ(Gorilla gorilla gorilla)の縄張り意識に関する研究(Morrison et al., 2020)が公表されました。ゴリラは、行動圏(生活し移動する空間)が広く、複数の群れの行動圏が広範囲にわたって重複しており、群れの間での攻撃が少ないため、縄張り意識を持たない、と広く考えられています。この研究は、大規模なカメラトラップ調査により、コンゴ民主共和国の60㎢の領域に生息するニシローランドゴリラの群れ(8群、合計113頭)を監視し、それぞれの群れの行動圏を決定しました。その行動圏には一部重複がありましたが、ニシローランドゴリラは、同じ日に別の群れが訪れた場所における摂食回避の傾向を示し、その場所が別の群れの行動圏の中心部分に近いほど、回避行動をとる可能性が高い、と明らかになりました。

 この研究は、ニシローランドゴリラが他の群れの行動圏の中心部分を避けて、紛争を防止している可能性がある、と考えています。行動圏の中心部分は、物理的攻撃やドラミング(胸を打ち鳴らす仕草)により防御されていると考えられるからです。また、この研究は、大きな群れの方が小さな群れよりも中心部分を防御しやすいと考えられる、と明らかにしています。ゴリラの群れの間の相互作用は、社会的・家族的関係と縄張り意識により影響されるため、ゴリラの社会構造がこれまで考えられていたよりも複雑である、と示唆する証拠が増えてきており、この研究により得られた知見もそうした証拠の一つとなりました。

 チンパンジー(Pan troglodytes)で観察されたきょくたんな縄張りに基づく暴力は、縄張りの防衛が現在の戦争の進化的基盤になった、という証拠として用いられてきました。戦争はチンパンジーとヒト(Homo sapiens)の間で共有される進化的特徴というわけです。しかし、この戦争は、人類史における集団間の相互作用の少数派を表しているかもしれません。相互作用のより一般的なパターンは、じっさいにはゴリラで示唆されたものにより近く、行動圏の中心と相互寛容の大きな重複地域があるかもしれません。じゅうらいの推定よりも複雑なゴリラの社会構造は、所属集団間の相互作用と縄張りの要素がどのように同時発生するのか、調査するための貴重なモデルになるかもしれません。これは、早期人類集団の社会進化を理解するのにとくに重要で、きょくたんな縄張りに基づく暴力と、大規模な協力に必要な集団間の寛容の両方の能力を示しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


動物学:ニシゴリラは縄張り意識を持っているかもしれない

 ニシゴリラの群れは、自らの行動圏の中心部分を近隣の群れから防御していると考えられることが研究によって明らかになった。この知見は、ニシゴリラが縄張り意識を持っていることを示唆していると考えられる。この研究結果を報告する論文が、Scientific Reports に掲載される。

 ゴリラは、行動圏(生活し移動する空間)が広く、複数の群れの行動圏が広範囲にわたって重複しており、群れの間での攻撃が少ないため、縄張り意識を持たないと広く考えられている。

 今回、Robin Morrisonたちの研究チームは、大規模なカメラトラップ調査を行って、コンゴ共和国の60平方キロメートルの領域に生息するニシゴリラの群れ(8群、合計113頭)を監視し、それぞれの群れの行動圏を決定した。その行動圏には一部重複があったが、ゴリラは、同じ日に別の群れが訪れた場所で摂食を回避する傾向を示し、その場所が、別の群れの行動圏の中心部分に近いほど、回避行動をとる可能性が高かった。

 Morrisonたちは、ゴリラが他の群れの行動圏の中心部分を避けて、紛争を防止している可能性があると考えている。行動圏の中心部分は、物理的攻撃やドラミング(胸を打ち鳴らす仕草)によって防御されていると考えられるからだ。また、Morrisonたちは、大きな群れの方が小さな群れよりも中心部分を防御しやすいと考えられることを明らかにしている。

 ゴリラの群れの間の相互作用は、社会的、家族的関係と縄張り意識によって影響されるため、ゴリラの社会構造がこれまで考えられていたよりも複雑であることを示唆する証拠が増えてきており、今回の研究によって得られた知見もそうした証拠の1つとなった。



参考文献:
Morrison RE. et al.(2020): Western gorilla space use suggests territoriality. Scientific Reports, 10, 3692.
https://doi.org/10.1038/s41598-020-60504-6

大規模な生態系崩壊のモデル化

 大規模な生態系崩壊のモデル化に関する研究(Cooper et al., 2020)が公表されました。生態学上のレジームシフトは、安定した生態系が持続的に大きく変化することで、突然起こることが多く、「転換点」に達するとフィードバックループによって駆動される可能性があります。レジームシフトの発生頻度は、気候変動と環境悪化により上昇すると予想されますが、生態系の大きさと崩壊速度の関係は明確に解明されていません。これが明らかになれば、環境破壊を低減するための適応管理戦略を実施する場面の特定で役立つ可能性があります。

 この研究は、4つの陸上生態系、25の海洋生態系、13の淡水生態系の変化に関する報告から得られたデータを解析しました。その結果、大規模生態系のレジームシフトが、小規模な生態系よりもゆっくり起こる傾向が分かりましたが、一方で、生態系の規模が大きくなるにつれて、崩壊に要する時間が長期化するペースは鈍化するため、大規模な生態系の崩壊が不相応に急速だと明らかになりました。

 この研究は、コンピューターモデルにより裏づけられた統計的関係を用いて、アマゾン川流域(約550万平方キロメートル)の規模の生態系の崩壊過程が約49年で完了するかもしれない、と推定しました。また、カリブ海のサンゴ礁(約2万平方キロメートル)の規模の生態系が崩壊するまでの時間は、崩壊が始まってからわずか15年ほどである可能性も明らかになりました。

 アマゾン川流域の熱帯雨林やカリブ海のサンゴ礁のような脆弱な大規模生態系は、崩壊の開始によりわずか数十年で崩壊が完結するかもしれない、というわけです。この研究は、生態系の変化がこれまで考えられていたよりも急速に起こる可能性があり、人類がそうした変化に備える必要性を指摘します。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


生態学:大規模な生態系の崩壊をモデル化する

 脆弱な大規模生態系(例えば、アマゾン川流域の熱帯雨林やカリブ海のサンゴ礁)で崩壊が起こり始めると、わずか数十年で崩壊が完結する可能性のあることを示唆するモデル研究について報告する論文が、Nature Communications に掲載される。

 生態学上のレジームシフトは、安定した生態系が持続的に大きく変化することであり、突然起こることが多く、「転換点」に達するとフィードバックループによって駆動される可能性がある。レジームシフトの発生頻度は、気候変動と環境悪化によって上昇すると予想されるが、生態系の大きさと崩壊速度の関係は明確に解明されていない。このことが明らかになれば、環境破壊を低減するための適応管理戦略を実施する場面を特定する上で役立つ可能性がある。

 今回、John Dearingたちの研究チームは、4つの陸上生態系、25の海洋生態系、13の淡水生態系の変化に関する報告から得られたデータを解析した。その結果、大規模生態系のレジームシフトが、小規模な生態系よりもゆっくり起こる傾向が分かったが、一方で、生態系の規模が大きくなるにつれて、崩壊に要する時間が長期化するペースが鈍化するため、大規模な生態系の崩壊が不相応に急速なことが明らかになった。Dearingたちは、コンピューターモデルによって裏付けられた統計的関係を用いて、アマゾン川流域(約550万平方キロメートル)の規模の生態系の崩壊過程が約49年で完了する可能性があると推定した。また、カリブ海のサンゴ礁(約2万平方キロメートル)の規模の生態系が崩壊するまでの時間は、崩壊が始まってからわずか15年ほどである可能性も明らかになった。

 Dearingたちは、生態系の変化がこれまで考えられていたよりも急速に起こる可能性があり、人類がそうした変化に備える必要があるという結論を示している。



参考文献:
Cooper GS, Willcock S, and Dearing JA.(2020): Regime shifts occur disproportionately faster in larger ecosystems. Nature Communications, 11, 1175.
https://doi.org/10.1038/s41467-020-15029-x

益尾知佐子『中国の行動原理 国内潮流が決める国際関係』

 中公新書の一冊として、中央公論新社から2019年11月に刊行されました。本書は、中国の対外行動(国際関係)が、国内の政治潮流、さらに根本的には中国の社会構造に規定される、と論じます。その社会構造とは外婚制共同体家族で、家父長が家族に対して強い権威を有します。息子たちは家父長に服従し、家父長の地位を継承すべく兄弟たちと激しく競争します。兄弟の関係は比較的平等ですが、激しい競合があります。また、息子たちが常に家父長に従順とは限らず、「父殺し」も起き得るため、家父長と息子たちの間には潜在的に緊張した関係が存在します。これが中国社会全体を貫いており、中国全体の「家父長」は中国共産党政治局常務委員である「党中央」、その「息子」たちは共産党の下部機関や国家機関や軍部になる、というのが本書の基本的な認識です。一方日本社会では兄弟間の格差が明確で、権限が家父長1人に集約されているのではなく分散しており、組織全体としては時期を問わず安定しているものの、責任の所在が明確ではない、と本書は指摘します。

 本書はこの認識に基づき、中国の内政と外交の行動原理を説明していきます。正直なところ、通俗的な比較文化論ではないか、多民族の中国社会を単純化しているのではないか、などといった疑問が残りますが、専門家ではない私の的外れな疑問かもしれません。家父長の権威のもと息子たちは家父長の意向を忖度して競合的に動き、息子同士の連携は弱い、という構造が中国全体にも当てはまる、と本書は指摘します。共産党の下部機関も国家機関も軍部も、中国全体の「家父長」たる「党中央」の意向を忖度し、むしろ先取りして「家父長」から高い評価を得ようとして、他の組織と連携せずに競合していく、というわけです。

 ただ、家父長の権威が強いとはいっても個人差があり、それにより中国の行動も変わってくる、と本書は指摘します。強力な最高指導者であれば、その意向に基づいて一定以上統制された行動となりますが、弱い最高指導者とみなされれば、各組織が表面上は最高指導者に敬意を払いつつも、自らの利害のために比較的自由に行動する、というわけです。そのため、外国からは中国が強硬路線と穏健路線のどちらを採用しているのか、分かりにくくなることがある、というわけです。本書は、強力な最高指導者の具体例として毛沢東元主席や習近平主席、弱い指導者の具体例として胡錦濤前主席を挙げています。中国の行動原理をすっきりと説明してくれる本書ですが、鵜呑みにするのではなく、自分でも少しずつ調べていくつもりです。