大相撲春場所千秋楽

 今場所は新型コロナウイルス流行のため無観客での開催となり、本当に味気なかったのですが、力士の息遣いから土俵を踏む音までしっかりと聴こえ、その意味では興味深く見られました。力士たちも戸惑ったでしょうが、何とか無事に開催を終えられたのは何よりでした。優勝争いは、9日目まで全勝で単独首位に立った白鵬関が独走するのかと思ったら、10日目と12日目に負け、12日目が終わった時点で西前頭13枚目の碧山関が1敗で単独首位に立つという、先場所に続いて大波乱を予感させる展開となりました。

 しかし、碧山関は13日目に隆の勝関相手に悪癖が出て安易に引き負けてしまい、14日目には白鵬関に負け、優勝争いから脱落しました。13日目まで2敗の鶴竜関は14日目に3敗の朝乃山関を物言いのつく際どい相撲ながら破り、千秋楽結びの一番で白鵬関との相星決戦に挑むことになりました。鶴竜関は6日目に先場所優勝の徳勝龍関に敗れて2敗となり、今場所も休場に追い込まれるのではないか、と懸念した人は私も含めて少なくなかったでしょうが、よく立て直してきたと思います。白鵬関は、12日目の正代関との一番があまりにも雑で、本当に驚かされました。衰えへの苛立ちもあるのでしょうが、無観客という異常な状況のなか、相星決戦にまで持ち込んだのは、さすがに百戦錬磨といった感じです。結びの一番は、激しい巻き替えの応酬となり、白鵬関が鶴竜関を寄り切って44回目の優勝を決めました。なかなか見ごたえのある内容で、満足しています。鶴竜関としては、自分が上手を引いて白鵬関に上手を与えていない時点で攻めたかったところです。大波乱を予感させた終盤でしたが、横綱同士の相星決戦となったのは、よかったと思います。

 久々の一人大関である貴景勝関は今場所大不振で、どこか状態が悪かったのでしょうが、7勝8敗と負け越しました。今場所大関昇進のかかった朝乃山関は、千秋楽に貴景勝関に勝って11勝4敗としました。朝乃山関はこれで直近3場所の合計が32勝となり、今場所後の大関昇進の可能性が出てきましたが、今場所は大関昇進見送りとなっても、来場所再度挑戦することになり、地力はつけてきていますので、大怪我をしなければ、近いうちに大関に昇進できそうです。押し相撲の貴景勝関が2場所続けて優勝もしくはそれに準ずる成績を残すのはなかなか難しそうなので、現時点で最も横綱に近いのは朝乃山関かもしれません。

 ただ、以前と比較して八百長が激減しているという推測が正しいとしたら、横綱はもちろん、大関への昇進も今後かなり少なくなりそうで、朝乃山関も横綱昇進は容易ではないでしょう。その意味で、朝乃山関がもっと地力をつけるまであと1年くらい、白鵬関と鶴竜関には引退しないでもらいたいものですが、ともに満身創痍だけに、朝乃山関が横綱に昇進する前に引退する可能性は低くなさそうです。さらに、朝乃山関が大怪我などで伸び悩むと、横綱不在が長期化しそうで、今後がたいへん心配ではあります。これは、日本社会における少子高齢化の進展により、以前よりも大相撲に入門してくる若い男性の素質が劣っていることとも関係しているように思います。その意味で、現在上位陣が手薄なのは、若手が「だらしない」からというよりは、少子高齢化の進展という日本社会の根本的問題に起因すると言うべきで、解決は容易ではないでしょう。

チベット高原の人口史

 チベット高原の人口史について、2020年度アメリカ自然人類学会総会(関連記事)で報告されました(Zhang et al., 2020)。この報告の要約はPDFファイルで読めます(P319)。砂漠・熱帯雨林・高地・北極圏といった極限環境への人類の進出は、人類の認知能力にも関わってくる問題なので、注目されてきました。平均標高が海抜4500mを超えるチベット高原は、人類にとってとくに厳しい環境なので、極限環境への人類の進出時期をめぐる議論で重要となります。

 極限環境に進出できた人類は現生人類(Homo sapiens)だけだった、との見解も提示されていましたが(関連記事)、中期更新世に種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)がチベット高原に存在した、と確認されています(関連記事)。チベット高原における現生人類の居住は、人類遺骸こそ発見されていないものの、後期更新世となる4万~3万年前頃の上部旧石器時代の石器群で確認されています(関連記事)。

 本報告は、既存の考古学的および遺伝学的データの批判的再調査に基づいて、二つの包括的なモデルを定式化しています。その一方は、全先住入植者が最新の移民に置換されたという不連続な居住モデルで、もう一方は、更新世の現生人類の到着から始まった継続的居住です。両モデルは、人類の生存と適応に関する見解が大きく異なります。両モデルとも、狩猟採集民集団がチベット高原に早期に移住した可能性を認めていますが、不連続モデルはもちろん、連続モデルでも、現代チベット人の遺伝子プールに早期狩猟採集民集団系統が一定以上の割合で存在するのか、不明とされています。

 また、現代チベット人の祖先集団とデニソワ人との間の交雑が、チベット高原への現生人類の継続的な居住の前に起きた可能性も指摘されています。現代チベット人にはデニソワ人由来と推定される高地適応関連遺伝子が確認されており(関連記事)、デニソワ人のような非現生人類ホモ属(古代型ホモ属)との交雑は、高地に限らず、現生人類の多様な環境への適応を促進したかもしれません。


参考文献:
Zhang P. et al.(2020): Models for Population History of the Tibetan Plateau: Toward an Integration of Archaeology and Genetics. The 89th Annual Meeting of the AAPA.