渡辺信一郎『シリーズ中国の歴史1 中華の成立 唐代まで』第2刷

 岩波新書(赤版)の一冊として、岩波書店より2019年11月に刊行されました。第1刷の刊行は2019年11月です。『シリーズ中国の歴史』の特色は、単純な時代区分による通史になっていないことです。本書は新石器時代から安史の乱までを扱っていますが、主要な対象は中原で、江南への言及は少なくなっています。江南は第2巻で扱われるそうですが、こちらも新石器時代からが対象となっています。『シリーズ中国の歴史』は、中国を地理的に草原・中原・興南・海域に区分し、各巻で時代を重複させつつ、現代中国へと至る歴史を総合的に浮き彫りする、という意図で編纂されているようです。今後の中国通史の一つの在り様を示すことになるかもしれません。

 本書は、社会の基層構造の変容と、それに対応していった政治・国家制度の変遷、さらには両者の相互関係を叙述しており、通俗的な中国史本のような英雄物語はほぼ皆無です。新石器時代には、仰韶文化期の単独聚落構造が、龍山文化期には2層~3層の階層構造へと変わります。この社会構造は長く続き、これを前提として、まず殷(商)王朝までの貢献制と、それよりも複合化した西周王朝期の封建制が成立します。春秋時代を経て戦国時代になると、郡県制へと移行していき、秦・漢の大帝国が出現します。長期にわたった漢帝国のもとで階層分化が進んでいき、華北では魏晋南北朝期に大農法が成立するに至ります。本書は、漢王朝、とくに後漢期に成立した国制が後世には模範とされたという意味で、これを古典国制と呼んでいますが、その成立にさいしては、単なる時代錯誤の短命政権と通俗的に言われてきた王莽の役割が大きかったことも指摘します。

 本書は情報量が多く、近いうちに再読しなければなりませんが、問題点もあります。すでにTwitterで以前から情報を得ていましたが、本書はミトコンドリアDNA(mtDNA)に基づく臨淄住民の遺伝的近縁性について、2500年前頃にはヨーロッパ集団に近く、2000年前頃にはアジア中央部集団に近い、という(本書刊行時点で)20年近く前(2000年)の研究を肯定的に引用しています。私も以前この情報を肯定的に引用してしまったのですが、その後の研究により、2500年前頃の臨淄住民が遺伝的にはヨーロッパ集団に近い、という研究は否定されています(関連記事)。古代臨淄住民は、mtDNAではヨーロッパ集団よりも現代中国南部集団に近い、と明らかになっています。

 また本書は、このすでに否定された研究に基づく、2500年前頃にユーラシア大陸全域に広がる人類集団(パン・ユーラシアン)が存在した、との見解を肯定的に引用していますが、もちろん間違いです。ユーラシアにおいて東西系統が分岐したのは43100年前頃で(関連記事)、その後もユーラシア東部やオセアニアとの遺伝的類似性を示す個体はヨーロッパに存在していましたが、最終氷期極大期(LGM)後の末期更新世には消滅していました(関連記事)。古代DNA研究の進展は目覚ましく、今後は歴史学においても古代DNA研究を活用することが多くなり、その成果は新書など一般向けの本でも引用されるでしょうが、その信憑性については、執筆者である研究者以上に、編集者がしっかり調べないとならないだろう、と思います。


参考文献:
渡辺信一郎(2019)『シリーズ中国の歴史1 中華の成立 唐代まで』(岩波書店)

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