オーストラリアにおける6万年以上前の植物性食料の利用

 取り上げるのが遅れてしまいましたが、オーストラリアにおける6万年以上前の植物性食料の利用に関する研究(Florin et al., 2020)が公表されました。早期現生人類の進化と拡散における植物性食料の役割は、肉食が注目されてきたこともあり、過小評価されてきました。植物性資源の広範な利用と処理は、農耕出現直前の後期更新世~早期完新世になって典型的になった、と考えられてきました。しかし、早期現生人類(Homo sapiens)の植物性食料の利用に関する証拠は近年蓄積されつつあり、中期石器時代のアフリカ(関連記事)や49000年前頃までさかのぼるニューギニアの事例(関連記事)などがあります。

 早期現生人類の食資源をめぐる議論は、その拡散経路とも関連しています。早期現生人類のアフリカからの拡散経路としてユーラシア南岸説が有力とされており、沿岸資源の重要性が指摘されていますが、まだ確定したとは言えない状況です。本論文は、オーストラリア北部のマジェドベベ(Madjedbebe)岩陰遺跡で発見された炭化植物化石を検証しています。マジェドベベ遺跡では多数の人工物が発見されており、その年代は65000~53000年前頃と推定されています(関連記事)。これは、サフルランド(更新世の寒冷期にはオーストラリア大陸・ニューギニア島・タスマニア島は陸続きでした)への現生人類の拡散時期がじゅうらいの有力説よりずっとさかのぼることになるため、大きな注目を集めました。

 マジェドベベ遺跡の植物化石は大きく、果物やナッツの種皮・根と根茎・ヤシ科茎組織・他のさまざまな植物断片に4分類されます。これらの分類集団の中で、属もしくは種の水準で5分類群に区分されました。この中には、たとえばカンラン科やタコノキ属などの種が含まれます。早期現生人類の痕跡以前には炭が少ないことから、マジェドベベ遺跡の65000~53000年前頃の早期現生人類は多様な植物を調理して食べていた、と推測されますが、果物には生食されたものもあるかもしれません。

 このように、マジェドベベ遺跡の65000~53000年前頃の早期現生人類は植物から炭水化物・脂肪・タンパク質などさまざまな栄養素を摂取しており、果物やナッツは容易に入手できる高栄養価の植物性食資源です。ただ、ヤシや根茎など他の植物の中には、栄養摂取にさいして処理が必要なものもあります。こうした複雑な処理も含む広範な植物の食資源としての利用は、サフルランドにおける既知の確実な証拠に少なくとも23000年先行します。オーストラリアにおける6万年以上前までさかのぼる植物性食料の利用は、アジア南東部やニューギニアにおける後期更新世の事例と一致しており、これが早期現生人類の食性において基本的だったことを示唆します。ウォレス線を越えた早期現生人類は新たな動植物相に遭遇し、利用していきましたが、それらの一部には複雑な処理の必要なものもあり、それは早期現生人類の認知能力により可能になった、と本論文は指摘します。

 本論文は、このように早期現生人類による6万年以上前までさかのぼるサフルランドへの拡散と、拡散における植物性食料の重要な役割を強調します。ただ、マジェドベベ遺跡の年代に関しては、疑問も呈されています(関連記事)。また、アフリカやユーラシア南部の6万年以上前の石器群との類似性などから、本論文はマジェドベベ遺跡の人工物の製作者が早期現生人類であることを大前提としていますが、これらの遺跡群では人類遺骸がほとんど発見されていないので、その担い手をすべて早期現生人類と判断するのは時期尚早のように思います。もし、オーストラリアあるいはもっと広くサフルランドに6万年以上前に人類が拡散していたとしたら、可能性はかなり低いかもしれませんが、現時点では種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)も想定しておくべきではないか、と思います(関連記事)。


参考文献:
Florin SA. et al.(2020): The first Australian plant foods at Madjedbebe, 65,000–53,000 years ago. Nature Communications, 11, 924.
https://doi.org/10.1038/s41467-020-14723-0

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