多様な地域の現代人の高品質なゲノム配列から推測される人口史

 取り上げるのが遅れてしまいましたが、多様な地域の現代人の高品質なゲノム配列から人口史を推測した研究(Bergström et al., 2020)が報道されました。本論文は査読前に公表されており、当ブログでも言及したことがあります(関連記事)。現生人類(Homo sapiens)の進化史に関する広く認められた見解では、現生人類系統は70万~50万年前頃にネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)および種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)の共通祖先系統と分岐した後、現代人的な形態が過去数十万年間にアフリカで出現し、7万~5万年前頃にアフリカから近東へと拡大した一部の現生人類集団では遺伝的多様性が減少して、その直後にこの出アフリカ現生人類集団がユーラシアで非現生人類ホモ属(古代型ホモ属)と交雑した後に、世界各地に拡散していくとともに人口が増加し、過去1万年間に世界の複数地域で狩猟採集から食料生産への意向が起きた、と想定されています。しかし、大陸間・地域間で人口史がどの程度異なっており、現代人の世界規模での遺伝的多様性の分布と構造がどのように形成されてきたのか、理解すべきことが多く残っています。これまでの大規模なゲノム配列は、都市部や大きな集団に限られ、低網羅率の配列が利用されてきましたが、ほぼ1集団あたり1~3人のゲノムに限定されていました。

 本論文は、地理・言語・文化的に多様な54集団から929人の高網羅率配列(平均35倍、最低25倍)を提示し、そのうち142人は以前に配列されていました。これにより、6730万個の一塩基多型、880万ヶ所の小挿入もしくは挿入欠失、40736個のコピー数多様体(CNV)が特定されました。古代型ホモ属3個体のゲノム間で多型として確認された130万個の一塩基多型は、おもに共有された祖先的多様性を反映しており、そのうち69%はアフリカ集団にも存在します。遺伝子型配列にほとんど存在しない稀な多様体は、最近の変異に由来する可能性が高く、個体群間で最近共有された祖先を知ることができます。

 稀な多様体のパターンは、オセアニアやアメリカ大陸の集団とは対照的に、ユーラシア集団におけるより大きな集団間の稀なアレル(対立遺伝子)共有の一般的パターンを明らかにします。アフリカ西部のヨルバ(Yoruba)集団は、高いアレル頻度においてアフリカのムブティ(Mbuti)集団よりも非アフリカ人の方と密接な関係を有しますが、低いアレル頻度ではその逆の関係となり、非アフリカ系との分岐以降のムブティ集団とヨルバ集団間の最近の遺伝子流動が示唆されます。低いアレル頻度でのムブティ集団へのサン(San)集団とマンデンカ(Mandenka)集団の過剰な共有は、サン集団へのアフリカ西部関連系統の少量の混合を反映しているかもしれません。

 オセアニア集団における既知のデニソワ人混合は、オセアニア集団よりもユーラシア集団の方とのアフリカ集団のより大きな類似性、とくにアフリカ集団で固定されている多様体において、古代型ゲノム配列の利用なしに証明されます。類似した方法で、固定された多様体では、アフリカ中央部のビアカ(Biaka)集団は、アフリカ西部のマンデンカ集団よりもヨルバ集団の方とずっと多くの類似性を有しており、他のアフリカ系統の基底部であるいくつかの系統をマンデンカ集団が有していることと一致します。Y染色体DNA配列では、既知の系統構造とともに、稀な系統も含まれています。ほとんどの非アフリカ系現代人男性の有するY染色体ハプログループ(YHg)FT系統で最も深い分岐を示すF*系統は、本論文が分析対象とした中国南部の雲南(Yunnan)省のラフ(Lahu)集団の7人のうち5人で見つかり、非アフリカ系現代人のYHgの早期拡散の理解におけるアジア東部の重要性が示されます。ラフ集団では、固有の稀な常染色体アレルが高頻度で見られます。

 次に本論文は、地域固有の多様体を識別することにより、現代人の遺伝的多様性の両極を調べました。特定の大陸もしくは主要地域で固定されている、そうした固有の多様体は見つかりませんでした。アフリカ大陸とアメリカ大陸とオセアニアでは、固有の多様体のうち最高頻度が70%以上に達するものは数十個、50%以上だと数千個存在しますが、ヨーロッパとアジア東部もしくはアジア中央部および南部では、高頻度の固有の多様体とはいっても、わずか10~30%に達するだけです。これはおそらく、過去1万年の移住と混合に起因するユーラシア内のより大きな遺伝的交流を反映しています。この遺伝的交流では、より孤立したアメリカ大陸とオセアニアの集団が含まれず、そのためアメリカ大陸とオセアニアの集団では固有の多様体が蓄積されていきました。アメリカ大陸中央部および南部の比較でも、他地域では40%以上の頻度には達しない、一方の地域に固有の多様体が見つかりました。アフリカ大陸内では、熱帯雨林狩猟採集民集団であるムブティとビアカに固有の1000個の多様体が30%以上の頻度に達し、アフリカ南部のひじょうに分岐したサン集団では、固有の多様体が、頻度30%以上では10万個、頻度60%以上では1000個に達し、検証対象となった6個体全てで見つかったものも20個ありました。

 これらの地理的に限定された多様体のほとんどは、現代人集団の多様化の後もしくはその直前に起きた新たな変異を反映しており、非アフリカ地域のほとんど(99%以上)の固有アレルは、古代型アレルというよりもむしろ派生的です。しかし、アフリカに固有のアレルは、祖先型アレルのより高い割合を含んでおり、この割合はアレル頻度とともに増加しており、アフリカ外では失われてしまった古い多様体を反映しています。同じ理由で、多くの高頻度のアフリカ固有の多様体は、ネアンデルタール人もしくはデニソワ人のゲノムでも見られます。古代型ゲノムと共有されているアフリカ外のあらゆる特定の地域に固有の多様体の断片はひじょうに少なく、古代型集団(ネアンデルタール人やデニソワ人)からの殆どもしくは全ての遺伝子流動が、非アフリカ系現代人の祖先集団の分岐前に起きたことと一致します。

 この例外はオセアニアで、20%以上の頻度で存在する固有の多様体の35%はデニソワ人のゲノムと共有されています。一般的に、アフリカ外には存在するもののアフリカ内では存在しない、10%以上の頻度となる共通の多様体の20%以上は、ネアンデルタール人やデニソワ人のゲノムと共有されており、おそらくネアンデルタール人やデニソワ人との交雑に由来します。そうした一般的な多様体の残りの80%以下程度は、おそらく新たな変異に由来しており、したがってそうした変異は、現代人集団への新たな多様体の導入において古代型交雑よりも強い力を有しました。地域に固有の挿入欠失多様体は、一塩基多型と類似した頻度分布を示しますが、全体的に10倍程度減少します。同じことはコピー数多様体(CNV)にもほぼ当てはまり、全体的な数は大きく減少していますが、例外は高頻度の固有のCNVのわずかな過剰がオセアニアで見られることです。これらの多様体のいくつかは、利用可能なデニソワ人ゲノムと共有されており、他の多様体や地域と比較して、正の選択がオセアニア集団の歴史において古代型起源のCNVに不釣り合いな強さで作用した、と示唆します。

 有効人口規模の歴史では、ヨーロッパとアジア東部でほとんどの集団が過去1万年に大きく増加した、と推定されていますが、ヨーロッパのサルデーニャ島やバスクやオークニー諸島、中国南部のラフ、シベリアのヤクート(Yakut)といったより孤立した集団では、それほど多く増加していません。アフリカでは、過去1万年に農耕集団の人口は増加しましたが、ビアカやムブティやサンのような狩猟採集民集団は、増加しなかったか減少さえしました。これらの知見は、農耕集団が拡大するにつれての、以前には人口が多く広範に分布していた狩猟採集民集団のより一般的なパターンを反映しているかもしれません。アメリカ大陸では、末期更新世における先住民の祖先集団のアメリカ大陸への進出と一致して一時的な人口増加が見られ、以前には常染色体データで観察されなかった、ミトコンドリアとY染色体の系統の急速な多様化という観察を反映しています。アメリカ大陸におけるこの一時的な人口増加では、過去1万年のヨーロッパおよびアジア東部の人口増加率を上回っています。ただ、これらの有効人口規模推移の分析に関しては、農耕や金属器時代など過去1万年の文化的過程期間におけるより詳細な人口史の解明にはまだ限界があります。そのためには、さらに大きな標本規模と遺伝的多様性の機能を調査する新たな分析方法のどちらか、若しくは両方が必要かもしれません。

 1世代29年と仮定しての推定集団分離年代は、アフリカ中央部の熱帯雨林狩猟採集民のムブティとビアカが62000年前頃、ムブティとアフリカ西部のヨルバが69000年前頃、ヨルバとアフリカ南部のサンが126000年前頃、サンとビアカおよびムブティが11万年前頃です。非アフリカ系集団は、ヨルバと76000年前頃、ビアカ96000年前頃、ムブティと123000年前頃、サンと162000年前頃に分離した、と推定されます。しかし、これらの分岐の進行中にも遺伝子流動は続いており、単純な分離ではありません。遺伝的分離年代の中には、30万もしくは50万年前頃までさかのぼるものもあり、集団間の合着率は集団内のそれとは異なります。これは、いくつかの現代人系統に他集団よりも寄与した集団がその時点で存在した、ということです。総合的に見ると、現代人集団で観察される遺伝的構造はおもに過去25万年間に形成され、この間の大半で全集団間の遺伝的接触は継続していたものの、現代人集団にわずかに残る25万年以上前の構造も存在します。現代人系統とネアンデルタール人およびデニソワ人系統との分離は70万~55万年前頃と推定されます。mtDNAの分析では、50万年前頃以降の、現生人類とネアンデルタール人の間の遺伝子流動が推測されていますが(関連記事)、本論文は、そうした遺伝子流動が起きたのはユーラシアだけだっただろう、と推測しています。アフリカ外では、集団分岐の推定年代は以前の研究と一致しており、非アフリカ系現代人集団はすべて、過去7万年以内の系統のほとんどを共有しています。

 非アフリカ系現代人のゲノムにおけるネアンデルタール人由来の領域の割合は、西方(ユーラシア西部)で2.1%、東方(ユーラシア東部・オセアニア・アメリカ大陸)で2.4%と推定されます。パプア高地集団のゲノムにおけるデニソワ人由来の領域の割合は2.8%(信頼区間95%で2.1~3.6%)で、4~6%という当初の推定(関連記事)よりはかなり低いものの、2~4%程度というその後の推定(関連記事)に近くなっています。オセアニア集団におけるデニソワ人の遺伝的影響は、非アフリカ系現代人全員におけるネアンデルタール人のそれと比較して、さほど高くないかもしれない、というわけです。

 次に本論文は、非アフリカ系現代人の祖先集団と交雑したネアンデルタール人やデニソワ人の集団が複数存在したのか、検証しました。非アフリカ系現代人集団に見られるネアンデルタール人由来の領域の地理的分布もしくは推定交雑年代から、非アフリカ系現代人のゲノムに見られるネアンデルタール人由来の領域は単一の起源に由来し、追加の交雑の明らかな証拠はない、と推測されました。非アフリカ系現代人集団でも東方より西方でネアンデルタール人の遺伝的影響が低い理由としては、ネアンデルタール人の遺伝的影響を殆ど若しくは全く受けていない集団からの遺伝子流動が想定されています(関連記事)。ただ、系統的復元ではネアンデルタール人からの遺伝子移入ハプロタイプは10以上あり、単一のネアンデルタール人個体からの遺伝子移入は除外されます。しかし、ネアンデルタール人由来の領域の遺伝的多様性は限定的で、せいぜい2~4の創始者ハプロタイプを想定すれば説明できるので、非アフリカ系現代人の祖先集団とネアンデルタール人との主要な交雑は1回のみだった可能性が高い、と本論文は推測しています。

 一方、デニソワ人の場合はネアンデルタール人とは対照的に、非アフリカ系現代人の祖先集団の一部との複雑な交雑の証拠が示されます。非アフリカ系現代人集団の一部に見られるデニソワ人由来のオセアニア集団の領域は、アジア東部・南部およびアメリカ大陸の集団とは異なっており、現生人類と交雑した複数のデニソワ人系統の深い分岐が示されます。アジア東部集団のデニソワ人由来の領域は、南シベリアのアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)で発見された個体のゲノムとひじように近く、それはオセアニア集団のゲノムでは欠けています。これは、デニソワ人と現生人類との複数回の交雑を推測した研究(関連記事)と一致します。本論文では、オセアニア祖先集団における複数のデニソワ人集団との交雑の明確な証拠は見つけられませんでした。アジア東部集団のデニソワ人由来の領域の構造はさらに複雑で、1回もしくは2回の交雑では説明できず、それ以上だったかもしれません。これは、おそらくアメリカ大陸とアジア南部の集団にも当てはまります。カンボジア人に見られるいくつかのデニソワ人由来のハプロタイプは、他のアジア東部集団のそれとはやや異なり、オセアニア集団のそれと関連しているかもしれません。全体的に現生人類にとって、デニソワ人との交雑はネアンデルタール人との交雑よりもかなり複雑だったようです。

 非アフリカ系現代人の祖先集団とネアンデルタール人との交雑は10万年前頃以降で、オセアニア祖先集団とデニソワ人との交雑は、ネアンデルタール人との交雑よりも後と推定されます。アフリカ西部のヨルバ集団では、非アフリカ系集団よりもずっと少ないものの、ネアンデルタール人の遺伝的影響が検出されます。他のアフリカ集団では、そうした痕跡は明確ではありません。本論文は、ヨルバ集団のゲノムにおけるネアンデルタール人由来の領域の割合を0.18±0.06%と推定しています。これは、ネアンデルタール人の遺伝的影響を受けたユーラシア西部集団の一部がアフリカに「逆流」したことによりもたらされ、ヨルバ集団のゲノムにおけるユーラシア系統の割合は8.6±3%と推定されています。

 非アフリカ系集団には古代型ホモ属由来のハプロタイプが存在しますが、古代型ホモ属の多くの単一多様体はアフリカ集団にも存在します。それは、古代型ホモ属系統と現代人系統との分離後、これら古代型ハプロタイプの多くが非アフリカ系集団では増加する遺伝的浮動によりかなり失われたことに起因します。ネアンデルタール人のハプロタイプは、アフリカ系よりも非アフリカ系集団で多く見られますが、デニソワ人では逆になります。これらの数値は、オセアニア集団の調査数が増えると変わるかもしれませんが、アフリカ系集団の遺伝的多様性の高水準のため、わずか若しくは全くネアンデルタール人やデニソワ人からの遺伝子移入がないにも関わらず、部分的に古代型ホモ属集団の多様体とかなり重なっていることを意味します。

 本論文は、高網羅率の多様な現代人のゲノムデータ数を大きく拡大し、現代人の遺伝的多様性の理解の深化に大きく貢献しました。これは、古代型ホモ属との交雑も含めた現代人各地域集団の形成過程はもちろん、医療にも貢献すると期待されます。今後、さらに規模を拡大しての研究も進められるでしょう。近年のゲノム研究の進展は目覚ましく、正直なところ、追いついていくのは難しく、異なる研究をどう整合的に解釈するのか、という問題もあります。たとえば、本論文ではアフリカ西部のヨルバ集団のゲノムにおけるネアンデルタール人由来の領域の割合は、非アフリカ系現代人集団の1/10以下と推定されていますが、最近公表された新たな手法を用いた研究は、アフリカ系集団ではおおむね1/3程度と推定しています(関連記事)。今後、相互検証によりさらに妥当な推論が提示されていくのでしょうが、追いかけるのは大変です。それでも、少しでも最新の知見に取り入れて自分なりに整理していきたいものです。


参考文献:
Bergström A. et al.(2020): Insights into human genetic variation and population history from 929 diverse genomes. Science, 367, 6484, eaay5012.
https://doi.org/10.1126/science.aay5012

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