現代のそりイヌの祖先(追記有)

 現代のそりイヌの祖先に関する研究(Sinding et al., 2020)が公表されました。日本語の解説記事もあります。グリーンランド・ドッグ、アラスカン・マラミュート、ハスキーといった、北極圏に適応した犬種である現代のそり犬は、共通して古代シベリアに起源を有し、1万年前頃に最終氷期の最後の残留氷河が消滅した時に登場したと考えられ、特徴的な遺伝系統を代表する犬です。シベリア東部の考古学的証拠からは、北極圏に適応したイヌたちは少なくとも過去15000年間、北極圏の人々の暮らしに不可欠だったと考えられる、と示されています。現在のこれらの地域における犬たちの役割と同様に、古代の北極圏の犬たちもそり引きに使われ、氷に覆われた厳しい地勢を横断する長距離移動や資源の輸送に役立っていました。

 そり犬は極めて独特な犬系統の一つですが、その遺伝子および進化の古い歴史についてはほとんど知られていません。この研究は、現代のグリーンランド・ドッグ10頭、9500年前頃のシベリアのそり犬、33000年前頃のシベリアのオオカミのゲノム配列を決定し、それらを多数の他の現代のイヌのゲノムと比較して、北極圏のそり犬の遺伝的起源を調べまた。その結果、古代シベリアのイヌが現代のそりイヌたちの共通祖先である、と明らかになりました。とくにグリーンランド・ドッグについては、それらが隔離された個体群であることから、より直接的にさかのぼって、その遺伝的祖先が古代そりイヌである、と明らかになります。

 これらの知見では、他の多くの犬種とは異なり、そりイヌにはシベリアの更新世のオオカミからの遺伝子流動があった、と示唆された一方で、現代および古代のそり犬にはいずれも、アメリカ大陸北極圏オオカミとの間の重大な混合の痕跡は見つかりませんでした。これは北極圏の犬種における約9500年間におよぶ遺伝的連続性を示しています。この研究はまた、北極圏のイヌにおける収束適応についても調べ、そりイヌが、飼い主であるヒトのための高脂肪低デンプン質食を食べられるようになったことも明らかにしています。以下、本論文が調べたイヌの場所と、系統関係を示した本論文の図1です。
画像

 現代と古代の北極圏のイヌについてのゲノム解析から得られたこれらの知見により、そりイヌがどれほど前から存在するのか、明らかになったとともに、完新世の始まり以降、北極圏ではそりイヌが人間の生存にとって重要であった、と強調されます。後期更新世から完新世にかけてシベリア北極圏に拡散した人々にとって、これら北極圏のイヌと革新的なそり技術が生存にたいへん役立ったことは間違いないでしょう。こうした技術革新と家畜化(動物の利用)は、北極圏に限らず、現生人類(Homo sapiens)が世界中に拡散できた要因と言えるでしょう。


参考文献:
Sinding MHS. et al.(2020): Arctic-adapted dogs emerged at the Pleistocene–Holocene transition. Science, 368, 6498, 1495–1499.
https://doi.org/10.1126/science.aaz8599


追記(2020年7月2日)
 ナショナルジオグラフィックでも報道されました。

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