ミトコンドリアから予測される哺乳類における雑種の繁殖力

 ミトコンドリアから哺乳類における雑種の繁殖力を予測した研究(Allen et al., 2020)が報道されました。複数の動物種間で雑種が確認されており、クマやイヌ科やネコ科やクジラ目やウシ科といった哺乳類だけではなく、鳥類も同様で、蝶や蚊といった無脊椎動物でも古代および現代の遺伝子流動の広範なパターンが見られます。哺乳類では、種間の障壁はホールデンの規則に従い、F1(雑種第一代)の子の異型配偶子性の性(XYの雄)の単性不妊として現れます。F1間の交配がF2を産むのに失敗する事例では、繁殖力のある子は、繁殖力のあるF1雌と親種との間の戻し交配を通じて生まれることがあります。しかし、密接に関連する哺乳類種間の交雑から生まれたF1同士の間でも、生存可能で繁殖力のあるF2が生まれることもあります。2種間の対での遺伝的距離が、雑種の子がF2を産める能力と相関しているとしたら、その値(遺伝的距離)は雑種を予測するプロキシ(代理)として機能できます。これまでの研究では、この相関について肯定的見解と否定的見解が提示されていますが、近年のイトトンボに関する研究では、強い相関が示されています。

 遺伝的距離と生殖隔離が相関しているのか確認することも、生殖隔離の遺伝的構造の理解に重要です。そのためには、まず2種間で生存可能な子孫を産める能力があるのか、知らねばなりませんが、そのための飼育繁殖実験や野外データは一般的に不足しています。別の手法は、子が繁殖的に特徴づけられてきた種間交雑を利用する、あらゆる2種間のF1雑種の相対的繁殖力を正確に予測できる測定系(metric)の開発です。本論文では、F1の誕生が知られている哺乳類種間のミトコンドリアの遺伝的距離の相関に基づいて、堅牢で定量的な枠組みを開発し、両性のF1雑種に繁殖力があるのかどうか、あるいはホールデンの規則を示すのかどうか、定量的な測定を得ます。本論文は、よく特徴づけられたネコ科雑種体系でプロキシの精度を検証し、それを人類の事例研究に適応して、現生人類(Homo sapiens)とその最近縁な絶滅系統の相対的な潜在的不妊を評価します。

 まず、雑種の適合性にしたがって2区分されました。第1区分は、親種と戻し交配せずに繁殖可能な両性のF1が生まれる組み合わせです。第2区分は、F1は生まれるものの、ホールデンの規則に従うため、F1雌のみが親種との戻し交配により繁殖可能となる組み合わせです。第2区分には、雑種が不妊の組み合わせの種も含まれます。第1区分には7種、第2区分には6種の組み合わせが含まれます。ミトコンドリアのシトクロムb遺伝子(CYTB)1795個体分と制御領域を除く完全なミトコンドリアゲノム30個体分のデータが分析され、遺伝的距離が計測されました。

 この遺伝的距離の値が小さいと第1区分、大きいと第2区分に分かれますが、重複区間もあります。具体的には、第1区分の上限値の8.0%(モルモット種)と、第2区分の上限値の7.2%(ハタネズミ種)です。第2区分の上限値は12.9%(飼育ブタとインドネシアのイノシシ科の野生動物であるバビルサ)で、これを超える17.3%(ユキウサギとヨーロッパウサギ)になると、生存可能な雑種が生まれません。ただ、この繁殖区分は遺伝子流動とは厳密には関連していません。たとえば、遺伝的距離の値が2.3%のハツカネズミの亜種同士(Mus musculus musculusとMus musculus domesticus)や、2.4%のヒグマ(Ursus arctos)とホッキョクグマ(Ursus maritimus)の組み合わせは第1区分となりますが、遺伝子流動は非対称的です。核DNA配列はミトコンドリアと比較して欠如しているため、ミトコンドリアと同じパターンを示すのか、検証する能力は限定的です。それでも、核の4遺伝子座ではおおむね第1区分と第2区分が明確に分かれました。

 この遺伝的距離と繁殖力の相関をさらに検証するため、イエネコ(Felis catus)とジャングルキャット(Felis chaus)やベンガルヤマネコ(Prionailurus bengalensis)やサーバル(Leptailurus serval)といった野生ネコ科動物の交配事例が用いられました。全事例でF1雄は不妊です。そのため、上述の遺伝的距離と繁殖力の相関が有効だとすると、これらの組み合わせは遺伝的距離の値が7.2%以上で第2区分の範囲内に収まる、と予測されます。また、遺伝的距離の値が大きい組み合わせでは、雑種雄が繁殖力を回復するには、戻し交配の世代数がより多くなる、と予測されます。

 これらの予測はどちらもデータにより裏づけられます。イエネコと上述の野生ネコ科3種間の組み合わせは全て、遺伝的距離の値が7.5%以上で、遺伝的距離の値の増加と、雑種雄の繁殖力回復に必要な戻し交配世代数の増加が相関しています。具体的には、イエネコとジャングルキャットおよびベンガルヤマネコおよびサーバルとの組み合わせでは、遺伝的距離の値がそれぞれ7.5%と10.9%と11.3%、雑種雄が繁殖力を回復するために必要な戻し交配の世代数が、最小値ではそれぞれ2と3と4、平均値ではそれぞれ3と4と5になります。これは、アマゾンテンジクネズミ(Cavia fulgida)とモルモット(Cavia porcellus)の組み合わせが、遺伝的距離の値は8.0%で、雑種雄が繁殖力を回復するために必要な戻し交配の世代数が3だった、という研究とも一致します。

 動物園での事例も遺伝的距離と繁殖力の相関を確認します。ブタ(Sus domesticus)とバビルサ(Babyrousa celebensis)を同じ囲いに入れると、子は生まれないと予測されていたのに、数ヶ月後に5頭の子が生まれ、そのうち2頭は母親からの外傷で死亡したものの、残りの雄2頭と雌1頭はすべて生存し、不妊でした。ブタとバビルサの遺伝的距離の値は12.9%で、不妊の子が生まれるアカゲザル(Macaca mulatta)とマントヒヒ(Papio hamadryas)の組み合わせの遺伝的距離の値12.5%よりずっと大きかったわけではなく、雑種が生存できました。

 人類系統においても、後期ホモ属の現生人類とネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と種区分未定のデニソワ人(Denisovan)という、異なる分類群間での交配と「雑種」子孫の生存が確認されていますが、核ゲノム研究が進展する前のミトコンドリアの研究では、現生人類とネアンデルタール人の交雑に否定的な見解が提示されていました。これまでの研究からは、現生人類とネアンデルタール人の間には両性ともに繁殖能力のある子が生まれた、という可能性が指摘されています。

 本論文で確立されたプロキシを用いて、現生人類とネアンデルタール人など絶滅人類との相対的繁殖力が定量的に評価されました。まず本論文は、現生人類と絶滅人類3系統の組み合わせでの遺伝的距離を推定しました。この絶滅人類3系統とは、ネアンデルタール人とデニソワ人に加えて、早期ネアンデルタール人と分類してよさそうなスペイン北部の通称「骨の穴(Sima de los Huesos)洞窟」遺跡(以下、SHと省略)で発見された人骨群です(関連記事)。

 現生人類とこれら絶滅人類3系統の間の遺伝的距離の値は、第1区分の範囲では最低クラスとなります。ネアンデルタール人と現代および古代の現生人類の遺伝的距離の値(1.6%)は、ホッキョクグマとヒグマ(2.4%)およびハツカネズミの亜種同士(2.3%)の組み合わせを下回ります。この比較からは、繁殖力のある子孫の誕生に重要な生物学的障害を予測できるほど、古代の人類系統は相互にじゅうぶんには分岐していない、と考えられます。

 じっさい、古代ゲノム研究では、絶滅人類と現生人類との間の遺伝子移入は双方向で複数回起きた、と推測されています(関連記事)。デニソワ人とネアンデルタール人およびデニソワ人と現生人類との組み合わせは、ホモ属間では最大の遺伝的距離の値となり、デニソワ人が未知の起源集団から遺伝子移入を通じて獲得したミトコンドリア系統を有する、と示唆されます。なお、本論文はこのように指摘していますが、むしろ、ネアンデルタール人のミトコンドリア系統は本来デニソワ人に近く、後に現生人類に近い系統からの遺伝子移入により置換された、と想定する見解の方が有力になりつつあるように思います(関連記事)。

 人類にとって最近縁の現生分類群であるチンパンジー(Pan troglodytes)およびボノボ(Pan paniscus)との組み合わせの繁殖力も評価されました。1920年代にソ連では、ヒトの精子をチンパンジーの雌に受精させる実験が行なわれましたが、子は生まれず、その逆パターンの実験は計画段階に留まったそうです。現生人類系統とチンパンジー属系統(チンパンジーおよびボノボ)の分岐は、600万年前頃(関連記事)とも1345万~678万年前頃(関連記事)とも推定されていますが、いずれにしても、雑種における繁殖力の上限とされる200万年前頃という系統分岐年代を大きく超えています。本論文の分析では、遺伝的距離の値は、現生人類とチンパンジーの組み合わせで11.0%、現生人類とボノボで10.8%となり、第2区分の範囲内に収まります。これは、仮にこれらの組み合わせで雑種が生まれても、雑種はホールデンの規則に従うだろう、と示唆します。

 本論文は、CYTB分岐と相対的な雑種不妊との間に相関があると示し、CYTB分岐による遺伝的距離の値が、正確かつ迅速に雑種の相対的な不妊性を予測するプロキシとして使える、と示唆されます。具体的には、CYTB距離の値が7.2%を超える哺乳類種間の組み合わせの中には、F1がF2を産めない場合もあり、8.0%を超えると、全ての組み合わせで繁殖力のある子が生まれるには親種との戻し交配が必要となります。さらに、雑種雄の繁殖力回復に戻し交配が必要になると、追加の戻し交配の数は、遺伝的距離の値が大きくなるにつれて増加します。

 本論文はミトコンドリアDNAに基づいており、最近の研究では、ミトコンドリアと核の相互作用により種分化はもたらされる、と指摘されていますが、本論文の結果は、CYTBが雑種不妊の原因になる、と主張しているわけではありません。プロキシとしての遺伝的距離の値の使用は、完全に予測できるわけではありません。たとえば、ドブジャンスキー・ミュラー(Dobzhansky–Müller)モデルでは、不適合は分岐以降の時間とは無関係に、孤立集団のわずか2変異から生じる可能性が指摘されています。これは、密接に関連した集団同士で繁殖力のある雑種が生まれない可能性を意味しますが、そうした例はまだ報告されていません。

 プロキシの価値は、その予測力とプロキシデータの生成のしやすさの両方により決まります。数千の哺乳類分類群で公開されているミトコンドリアDNA配列では、組み合わせ間の遺伝的距離の値の計算は安価で単純で迅速です。ゲノム全体が同じセットで利用可能になると、この分析は、核ゲノムのどの領域が予測により適しているのか、もしくはより適していないのか、決定できるまでに拡張できます。近年におけるこの分野の進展の速さを考えると、核ゲノムでもプロキシとして適している領域が特定されるのは、さほど先のことではないかもしれません。このプロキシは、任意の哺乳類2種が雑種を産めるのか、という予測にも使用できます。これまで、動物保護において、飼育下での雑種を防ぐことが重視されてきましたが、これは野生種、とくに絶滅危惧種において交雑の果たしてきた重要な役割を考慮していません。この研究は、将来の動物保全活動にも使用できます。

 ホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)やホモ・ナレディ(Homo naledi)といった過去25万年に生存した追加の絶滅人類集団の発見は、絶滅および現存ホモ属種間の繁殖力と交雑の限界の理解に関心を向けてきました。これら絶滅人類標本からミトコンドリアゲノムを得られれば、核ゲノムデータが得られずとも、本論文の手法でこの問題に対する回答が得られるかもしれません。本論文はこのように今後の展望を述べますが、ともに更新世人類で、フロレシエンシスはアジア南東部に、ナレディはアフリカ南部に存在していたので、ミトコンドリアでもDNA解析は難しそうです。


参考文献:
Allen R. et al.(2020): A mitochondrial genetic divergence proxy predicts the reproductive compatibility of mammalian hybrids. Proceedings of the Royal Society B, 287, 1928, 20200690.
https://doi.org/10.1098/rspb.2020.0690

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