ヴァイキング時代のヨーロッパ北部で拡散していた天然痘

 ヴァイキング時代のヨーロッパ北部における天然痘の拡散を報告した研究(Mühlemann et al., 2020)が公表されました。日本語の解説記事もあります。天然痘ウイルス(VARV)により引き起こされる天然痘は、毒性がひじょうに強く、壊滅的な影響を及ぼすヒト疾患で、20世紀だけでも5億人もの死亡原因となっている可能性があり、人類においてこの数世紀で多くの死者をもたらした疾患の一つです。天然痘は40年前に根絶宣言が出され、これは人類と深く関わっていたウイルスとしては初めてのことで、また現時点では唯一の事例です。天然痘の根絶は、公衆衛生上の最大の勝利の一つですが、再興の可能性や、天然痘に類似するウイルスの意図的な放出をめぐる懸念が依然として存在します。

 人類史における天然痘の起源および進化については、大部分が未解明です。現在の有力説では、天然痘に類似したアフリカ由来のウイルスの祖先が数千年前に齧歯類からヒトに伝播し、病原性の高い現代の天然痘ウイルスへと進化した、と示唆されています。しかし、天然痘ウイルスの最初期の存在の証拠は、せいぜい17世紀半ばにさかのぼるだけです。可能性のある感染症を記述している曖昧な文書記録や、古代エジプトの王ラムセス5世のミイラに認められる感染を示唆する皮膚病変を別にすれば、古代における天然痘の具体例は見つかっていません。

 この研究は、ハイスループットショットガン法を用いて、31000年前頃から150年前頃の間に生存していた1867人の復元された考古学的遺骸の中に古代の天然痘の証拠を探索したところ、13人の遺骸からウイルス配列が再現され、そのうち11人は全てヴァイキング時代(紀元後600~1050年頃)のヨーロッパ北部由来でした。この研究は、天然痘の最初期の証拠の存在を約1000年早めたことに加えて、新たに発見されたヴァイキング時代の天然痘ウイルス株が、現代の天然痘ウイルスに対して多様で新しい明確な姉妹クレード(単系統群)であることを発見しました。この株は現代の病原性が高く致死的なウイルス株へと進化する前の数世紀にわたって、ヨーロッパ北部で拡散していた可能性があります。


参考文献:
Mühlemann B. et al.(2020): Diverse variola virus (smallpox) strains were widespread in northern Europe in the Viking Age. Science, 369, 6502, eaaw8977.
https://doi.org/10.1126/science.aaw8977

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