『卑弥呼』第42話「拝顔」

 『ビッグコミックオリジナル』2020年7月20日号掲載分の感想です。最近、ついに電子書籍を購入するようになりましたが、当ブログで取り上げるのは『ビッグコミックオリジナル』2020年7月20日号が初めてです。置き場に困るようになったので、近年では本や雑誌の購入を以前より控えていたのですが(古人類学関連の論文を優先するようになったことも大きいわけですが)、電子書籍ならば場所を取らないため、つい安易に購入してしまわないよう厳選していかねばならない、と注意しています。

 前回は、クラトが、恋仲のミマアキを殺さねばならないことに気づき、愕然とする場面で終了しました。今回は、山社(ヤマト)へと向かう暈(クマ)の国の大夫である鞠智彦(ククチヒコ)の一行を、アカメが樹上より見張っている場面から始まります。鞠智彦が予想以上に早く到着しそうだと気付いたアカメは、日見子(ヒミコ)たるヤノハに早く知らせようとしますが、その前に狼と犬が立ちはだかり、囲まれてしまいます。狼と野犬が群を組むはずがない、と不審に思うアカメですが、ともかく窮地を脱せねばならないため、小刀同士を打ち合わせる音で狼と犬を近づけさせまいとします。狼や犬は人の作った音を嫌うからです。とはいえ、この策がいつまで通用するのか、アカメも確信を持てません。アカメは近くに非時香果(タチバナ)の気があるのに気づき、その果汁を体に塗ります。人にとってはかぐわしい香りでも、狼と犬にとっては苦手だからです。狼と犬が一瞬遠ざかった隙をついてアカメは脱出し、再び木から木へとわたって逃げます。ナツハは、狼と犬に指示を出します。

 山社では、悩んでいるミマアキに恋仲のクラトが話しかけていました。ミマアキは、漢(後漢)に使者を派遣した後、漢の帝から倭国に派遣された使者を、どのような道順で山社に招くのか、思案していました。クラトは、那(ナ)国からひたすら南下し、葦北(アシキタ)あたりで南西に向かえばよいではないか、と提案します。するとミマアキは、最短の道が不可の理由を説明します。漢からの使者の目的は、和平と同時に、戦になった場合どう侵攻するかの確認なので、都たる山社への最短の道と倭全体の地形を知らせるわけにはいかない、というわけです。漢からの使者には、倭を漢と並ぶほど広大な島であると思わせたいので、山社が遠方にあるよう見せかけたい、とミマアキはクラトに意図を説明します。まず、末盧(マツラ)に使者団の舟を停泊させ、陸路で伊都(イト)国に案内し、そこから那国と穂波(ホミ)国を経て、何艘かの小舟に分譲させ、河を下り海に出て都萬(トマ)に向かう、とミマアキは構想を打ち明けます。しかし、末盧から穂波までの距離はばれてしまうので、細工すべきは都萬への道程だ、とミマアキは考えます。川や海沿いの邑々に停泊させ、都萬までは水行20日、都萬から山社まではさらに水行10日、陸路で1ヶ月は欲しい、とミマアキは構想していました。クラトは、さすがに無理があるのではないか、と考えます。しかしミマアキは、そのくらい国土は広いという嘘が通れば倭国は安泰だ、と考えていました。お前は日見子(ヤノハ)様にとって最高の副官だな、とクラトに言われたミマアキは笑顔を浮かべます。

 鞠智彦の一行が明日にも山社に到着する、とアカメから報告を受けたヤノハは、自分の予想より3日も早いとは、さすが策士と言われた人だ、と鞠智彦に感心します。ヤノハは、元々は鞠智彦の志能備(シノビ)だったアカメが、自分に仕えていると知られれば、仕えていた志能備の棟梁に殺されるだろう、と案じます。アカメは、志能備の棟梁は今回警固の任に就いておらず、自分の知らない志能備が鞠智彦に同行している、とヤノハに報告します。その志能備は犬や狼を自在に操る、とアカメから聞いたヤノハは、虎でも飼っておけばよかった、と呟きます。ヤノハが育った日向(ヒムカ)の邑の近くでは、漢人が虎を飼っていました。虎ならば、狼も犬もひとたまりもないだろう、というわけです。

 那国の「首都」である那城(ナシロ)では、トメ将軍がウツヒオ王と面会していました。ウツヒオ王はトメ将軍に、山社に放った伺見(ウカガミ)からの報告では、残念ながら日見子(ヤノハ)が明日にも鞠智彦と会うそうだ、と知らせます。那・末盧・伊都・都萬の4人の王が連名で送った和議の申し出は後回しにされたのか、とトメ将軍に問われたウツヒオ王は、トメ将軍も日見子を見誤ったようなので、また戦の準備を進めてくれ、と命じます。しかしトメ将軍は、まだ日見子を信じている、と言います。では、日見子はなぜ鞠智彦と会うのか、とウツヒオ王に問われたトメ将軍は、ただ会ってみたいだけだろう、と答えます。確かなことは一つで、日見子はたとえ我が身に危険が及ぼうとも、誰の傀儡にもならない、とトメ将軍は確信に満ちた表情でウツヒオ王に進言します。

 翌日、鞠智彦は山社に到着します。クラトは、鞠智彦の到着が速く、少数であることに驚きます。ミマアキは、鞠智彦が聞きしに勝る策士だと、楽しんでいるかのように感心し、クラトは呆れます。ヤノハ(日見子)は、ミマト将軍・テヅチ将軍・イクメ・ヌカデが案じるなか、鞠智彦と二人だけで面会しようとします。ヤノハとの面会に臨んだ鞠智彦はまず、噂には聞いていたが実に美しい、と笑顔で言います。しかし、自分が何にも早く参上したことに対して、ヤノハがさしたる動揺も見せないことから、度胸が据わっているのか、未来が見えるのか、と鞠智彦は感心したように言い、威圧的な表情になり、暈からの和議の申し出を受けるのか、答えをもらいたい、とヤノハに要求します。和議を受け入れれば、ヤノハを新たな日見子に任ずる、と言う鞠智彦は、答えは聞くまでもない、断ればヤノハは一日たりとも生きていられない、と確信したように言います。するとヤノハは、どれほど剛毅で頭が切れるのかと、鞠智彦と会うことを楽しみにしていたが、未来も読めないし豪胆さもなく、今は失望している、と答えます。自分が鞠智彦を山社に呼んだのは、暈との戦を布告したかったからだ、とヤノハが鞠智彦に言い放つところで、今回は終了です。


 今回は、ついにヤノハと鞠智彦との面会が描かれました。ヤノハの目的は倭国の平和ですが、その過程で戦は避けられない、とも覚悟しているように思います。その意味で、まず暈との戦を考えていたとしても不思議ではありませんが、あるいは、鞠智彦に迎合して見せて時間を稼ぐのかな、とも予想していたので、いきなりの宣戦布告はやや意外でした。ただ、策士のヤノハですから、この宣戦布告にも重要な意図が隠されているのでしょう。ヤノハの真意が何なのか、次回以降に明かされていくのではないか、と期待されます。暈国はおそらく『三国志』の狗奴国でしょうから、けっきょく山社(邪馬台国)連合と暈とは和議を結ばず戦い続けるのでしょうが、その過程がどう描かれるのか、楽しみです。『三国志』からは、けっきょくヤノハ(卑弥呼)が暈(狗奴)を従属させられなかった、と推測されるので、倭国の平和を目的とするヤノハにとって何らかの誤算があった、という展開になりそうです。それは、ヤノハもまだよく知らないだろう、イサオ王の優れた器量なのかもしれません。

 また、鞠智彦からは、ヤノハが暈への従属を断った場合は殺すよう命じられ、ヒルメからはヤノハを殺害以上の惨い目に遭わせるよう命じられているナツハが、どう動くのかも注目されます。ナツハはヒルメを慕っているので、ヒルメの命に従うのでしょうが、ナツハがヤノハの弟であるチカラオだとすると、ナツハがヤノハと再会してどのような反応を示すのか、見どころとなりそうです。ただ、ナツハはヒルメからヤノハの名を聞かされても動揺した様子を見せませんでしたから、ヤノハの弟ではない可能性も、生き別れになった過程でヤノハを深く恨んでいる可能性もあるように思います。ヤノハとナツハの再会が今からたいへん楽しみです。トメ将軍は一度ヤノハと会っただけですが、ヤノハの人間性をある程度以上見抜いているようで、相変わらず大物感があります。トメ将軍は『三国志』に見える倭国から魏に派遣された大夫の難升米でしょうから、今後もよき理解者としてヤノハを支持し続けるのだと予想しています。日下の国(後の令制の大和でしょうか)にいるだろうサヌ王(記紀の神武天皇と思われます)の子孫や漢、後には魏も絡んできて、壮大な物語が展開されそうなので、今後も大いに期待されます。

 史実との整合性の観点からは、ミマアキが倭を大国に見せかけようとして、正確な地理を漢(じっさいに訪れたのは後漢から禅譲を受けた魏)からの使者に把握させないように画策しているところが注目されます。本作の邪馬台国は山社で、宮崎県の内陸部に位置する、という設定になりそうですが、『三国志』の記述との矛盾は、この倭国側の意図によるもの、との設定なのでしょう。この点も歴史ものの創作として工夫されており、楽しめる一因になっています。最終的に倭国は纏向遺跡一帯に「遷都」するのではないか、と予想しているのですが、サヌ王の子孫がどう関わってくるのか、注目されます。

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