川戸貴史『戦国大名の経済学』

 講談社現代新書の一冊として、講談社より2020年6月に刊行されました。電子書籍での購入です。本書は、大名領国の収入と支出の分析から、戦国時代の日本経済の構造、さらにはアジア東部および南東部とのつながりまでを対象としており、戦国大名の領国経営という一見すると細かい主題ながら、広い視野を提示しているように思います。こうした一般向け書籍では、細かな論証を取り上げつつ(これも具体的な事例が多く、楽しめましたが)、大きな構造も視野に入れて提示する、という構成が理想的だろう、と私は考えています。その意味で、本書は有益であり、楽しめました。

 戦国大名の権益・収入について、各大名の出自に規定されるところがあった、と本書は指摘します。領国に古くから勢力を有して発展してきたような大名では、家臣も含めて領国内の既得権益者への配慮を欠かせない、という側面が多分にあります。その意味で、本書が取り上げている北条(後北条)氏は、領国として関東にほとんど権益を有していなかったことから、検地など権利関係の再編をやり安かった、という側面はあるかもしれません。北条氏の領国統治は、検地や貫高制の整備など、「先進的」と評価されることが多いように思いますが、それもほぼ無縁だった関東で領国を拡大したことに起因するのかもしれません。

 戦国時代の日本とアジア東部および南東部とのつながりは、16世紀半ばになって、日本において効率的な精錬法の導入による銀産出の増大・高品質化したことが促進した、と言えそうです。銀への需要を高めていた明王朝には、アメリカ大陸を支配したイベリア半島勢力からの銀も流入し、日本も世界経済に強く組み込まれていきました。この過程で、明王朝での銅銭供給が停滞したことで、貨幣を宋銭や明銭(およびそれらの模鋳銭)に依存していた日本では銭不足が起きます。その対応策として撰銭令が出され、本書は、織田信長の撰銭令が従来のそれに依拠していないとして、その画期性を評価しつつも、結局は市場の動向を読みきれておらず、銭不足の中、日本が石高制へと向かっていた、と展望しています。戦国時代の権力者は、織田信長や豊臣秀吉や徳川家康といえども、思い付きで経済を動かすことはほとんど不可能だった、と本書は指摘します。

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