ネアンデルタール人から非アフリカ系現代人へと再導入された遺伝子

 ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)から非アフリカ系現代人へと再導入された遺伝子に関する研究(Rinker et al., 2020)が公表されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。この研究はすでに昨年(2019年)査読前に公開されており、非現生人類ホモ属(古代型ホモ属)から現生人類(Homo sapiens)への遺伝子移入の機能的結果と適応度に関する研究で引用されていたので、当ブログでもすでに言及していました(関連記事)。

 現代人でユーラシア集団はアフリカ集団と比較して人口が多いにも関わらず、遺伝的多様性は低い、と明らかになっています。この不均衡は、ユーラシア現代人の祖先である現生人類集団が、5万年前頃の出アフリカのさいに経験した遺伝的ボトルネック(瓶首効果)を反映しています。このユーラシア現代人の祖先集団の有効人口規模は、同時代のアフリカ集団の20% 未満と推定されています。この出アフリカボトルネックとその後の人口動態の結果として、何百万ものアレル(対立遺伝子)がユーラシア現代人集団の祖先で失われました。

 現生人類の出アフリカボトルネックの50万年以上前に、ネアンデルタール人および種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)の祖先を含むアフリカの他の人類集団がユーラシアへと移動しました。ネアンデルタール人とデニソワ人のDNA解析により、そのゲノムの復元が可能となりました。世界中の現代人のゲノムとネアンデルタール人のゲノムを比較すると、ユーラシアの現生人類が5万年前頃にネアンデルタール人と交雑した、と明らかになりました。この古代の遺伝子移入の遺産は、ユーラシア現代人のゲノムに反映されており、1~3%がネアンデルタール人由来と推定されています。

 ネアンデルタール人からの遺伝子移入は、ユーラシア集団にネアンデルタール人系統で派生した新たなアレルを導入しました。これらのアレルのうちいくつかは非アフリカ環境に適応していたので、ユーラシアの現生人類には有益でした。しかし、ネアンデルタール人との交雑は、現生人類と比較して有効人口規模が小さいため、有害なアレルが蓄積されることに起因して、遺伝的コストも伴います(関連記事)。ユーラシア現代人の古代型系統の分布はランダムではなく、ネアンデルタール人系統が一般的な多くのゲノム領域とともに、ネアンデルタール人系統の長い「砂漠(ネアンデルタール人由来のDNAが存在しない領域)」を伴います。これらのパターンは、遺伝子移入されたアレルへの選択と浮動の長期作用を反映しており、交雑直後に負の選択が最も強く作用します(関連記事)。

 ユーラシア現代人集団に残っているネアンデルタール人のハプロタイプの遺伝子移入されたアレルは、肌・免疫・神経疾患のリスクを含む多様な特徴と関連しています。たとえば、OAS1遺伝子座の遺伝子移入されたネアンデルタール人のハプロタイプは自然免疫反応と関連していますが、このハプロタイプは機能に影響を与える可能性のある祖先型アレルも有しています。ほとんどの先行研究は、現生人類におけるネアンデルタール人由来のアレル(NDA)の効果を特定して検証することに焦点を当ててきましたが、古代の交雑は、より古代的で機能的なアレルがユーラシア人のゲノムに再導入された経路として機能したかもしれません。

 本論文は、古代型と現代型とシミュレートされたゲノムの分析により、ネアンデルタール人から現生人類への遺伝子移入が、以前に失われた機能的な祖先型アレルを現生人類ユーラシア人集団に再導入した、という仮説を評価します。本論文の結果は、ネアンデルタール人集団がユーラシア現代人(時として全ての現代人)の祖先で失われた数十万の祖先型アレルの貯蔵庫として機能し、これらのアレルの多くはネアンデルタール人との交雑により再導入された後にユーラシア人で機能的効果を有した、と示します。


●RAとNDA

 現生人類系統とネアンデルタール人系統が分岐した後、現生人類系統において祖先で分離した多くのアレルが失われました。その一部は全ての現生人類で失われましたが、他は、たとえば出アフリカボトルネックのさいにユーラシア集団でのみ失われました。ネアンデルタール人やデニソワ人のような非現生人類ホモ属(古代型ホモ属)では継承された、現生人類の全てや一部集団で失われたアレルは、古代型ホモ属との交雑経由で現生人類ユーラシア集団に再導入された可能性があります。ユーラシア集団内では、そのような古代型ホモ属との交雑により再導入されたアレル(RA)は、まず遺伝子移入されたハプロタイプに限定され、多くは古代型ホモ属の派生的アレルとの高い連鎖不平衡(LD)を保持します。

 以下、現生人類とネアンデルタール人の最終共通祖先に存在したアレルは「祖先型人類アレル」と呼ばれます。遺伝子移入されたネアンデルタール人のハプロタイプに関するユーラシア人でのみ観察された祖先人類アレルは「再導入されたアレル」(図1b)、ネアンデルタール人系統で最初に出現したアレルは「ネアンデルタール人型派生アレル(NDA)」(図1a)と呼ばれます。アフリカ人集団の年代と存在に基づき、RA間のいくつかの異なる進化史も区別されます(図1c)。まず、祖先型アレルが人類とチンパンジーの共通祖先に存在していた場合(RAA)と、人類系統がチンパンジー系統と分岐した後から、ネアンデルタール人系統と現生人類系統とが分岐する前に人類系統で生じた場合(RHA)です。それぞれ、現生人類アフリカ人系統で維持されている場合と、失われた場合が想定され、AFR+とAFR–で表されます。ただ、RHAの特定にはサハラ砂漠以南のアフリカ現代人集団においてアレル頻度が1%以上必要となるので、現代人のゲノムデータだけでは推測できず、本論文では分析対象外となります。本論文の目的は、ユーラシア現代人におけるRAの存在と機能を評価し、それをNDAと対比させることです。以下、本論文の図1です。
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●ユーラシア現代人集団に存在する数十万のRA

 まず、ユーラシア現代人3集団(ヨーロッパとアジア東部および南部)において、ネアンデルタール人の多様体と完全な連鎖不平衡にあるものの、ネアンデルタール人系統の派生型ではなく、祖先型である多様体が特定されました。本論文の手法は、多くのRAがどのNDAとも完全な連鎖不平衡を保持していないと予想されることから、おそらくは保守的なものです。RAは広く見られ、遺伝子移入されたハプロタイプの80%以上はRAsを含んでおり、ハプロタイプあたり平均17のRA となります。

 全体では、209176のRAが特定されました。アジア南部および東部集団は、それぞれヨーロッパ集団よりも多くのRAを有しており、おそらくは人口史の違いと、アジア東部集団で以前に観察されたより多いネアンデルタール人系統を反映しています。各集団で観察されたRA/NDA比は、ヨーロッパが0.46、アジア南部が0.65、アジア東部が0.53で、シミュレーション予測と一致します。RAはNDAよりもクラスタ化されており、ハプロタイプの長さとあまり相関していません。


●RAとNDAで異なる機能効果予測

 RAとNDAはネアンデルタール人のハプロタイプでユーラシア集団に導入されましたが、異なる起源と進化史を有しています。NDAは最初に有効人口規模の小さいネアンデルタール人集団で出現したので、有害な効果を有しており、遺伝子移入されたユーラシア集団では負の選択を受けた可能性が高い、と予測されます。対照的に、RAはより大きな祖先人類集団に起源があり、耐性のある可能性がより高い、と示唆されます。多様体効果はこの予測を支持し、RAはNDAよりも良性の傾向が見られます。これらの結果は、NDAがRAよりも多くの負の選択係数を有する、と予測する進化モデリングと一致します。NDAはRAと比較して、調節要素が枯渇しています。

 RAの中にはいくつかの異なる進化史が存在したかもしれず(図1c)、それぞれは異なる機能的予測を示唆します。より古い年代だと、再導入された祖先型アレル(RAA)は、再導入された人類型アレル(RHA)よりも有害性が低い、と予測されます。RAA の約70%では、対応するアレルは依然としてアフリカ集団で存続していますが(RAA・AFR+型)、アジア東部集団の22%、アジア南部集団の28%、ヨーロッパ集団の30%程は、アフリカ現代人では存在しません(RAA・AFR−型)。これらのRAA・AFR−型多様体は、派生的アレルがネアンデルタール人から遺伝子移入される前の現生人類において高頻度で、現生人類特有の正の選択に起因したかもしれない可能性が高い事例を表しています。これらのRAA・AFR−型多様体は、現在では遺伝子移入のみに由来して現生人類集団に存在します。アフリカ集団におけるこれらの多様体の喪失と一致して、RAA・AFR−型多様体は、ユーラシア集団においてRAA・AFR+型多様体よりも低頻度で存在します。


●遺伝子移入ハプロタイプと計測的な人類の特徴および疾患リスクとの関連

 以前のゲノム規模関連研究(GWAS)では、遺伝子移入されたハプロタイプの多様体と人類の表現型とが関連づけられました。RAの中にはこれら以前の分析で考慮されたものもありますが(ただ、以前の分析ではRAと認識されていませんでしたが)、アフリカ現代人に存在するアレルは、これらの研究がNDAに焦点を当てていたため、考慮されませんでした。ユーラシア人のRAは2197の有意で顕著な関連をGWASカタログとタグづけし、NDAでは2547となります。このパターンは、ヨーロッパ人の遺伝子移入されたハプロタイプと関連に分析を限定しても類似していました。全体的に、NDAと関連した表現型の70%以上は、少なくとも1つのRAと等しく強い関連性を有します。

 NDAとRAによりタグ付けされた表現型の多くは、頭蓋底幅や身長などのように形態計測可能で、他のいくつかは男性脱毛症や皮膚の色素沈着などのような外部特徴に影響を及ぼします。RAは、癌やアルツハイマー病や双極性障害のような神経疾患を含む多くの病気と関連しています。ネアンデルタール人系統から分岐した後、これらの遺伝子座において派生的アレルが現生人類集団で固定されるようになり、これらの祖先型アレルは遺伝子移入によってのみ現代人に存在するので、RAA・AFR−型は興味深い現象です。

 たとえば、微生物群集との相互作用に潜在的な役割を果たす上皮組織で発現するゲル形成ムチンであるMUC19遺伝子近くのRAA・AFR−型(rs11564258)は、クローン病と炎症性腸疾患の両方と強く関連しています。この遺伝子座は、潜在的な適応的遺伝子移入の走査で特定されました。また、RAA・AFR−型と、顔面形態やBMIや睡眠表現型や喫煙者の代謝水準体重との間の関連も見つかりました。全体的にこれらの結果は、遺伝子移入されたハプロタイプと関連する特徴の数を拡大し、これらのハプロタイプの原因となる遺伝子移入された多様体候補を解釈する進化的背景を提供します。


●RAとNDAで異なる表現型との関連パターン

 RAとNDAとの間の高い連鎖不平衡は、あらゆる関連の原因としてのいずれかの遺伝子移入された多様体クラスの直接的な識別を防ぎます。しかし、ヨーロッパ人における有意なGWAS特性関連を有する遺伝子移入されたハプロタイプは、関連のない遺伝子移入されたハプロタイプと比較して、RAのより高い割合を含みます。NDAと比較してのRAの濃縮は、機能的なNDAに対する選択、および/あるいはRAを含む機能的ハプロタイプのより大きな耐性を反映しているかもしれません。RHAとRAA・AFR−型ではなく、RAAとRAA・AFR+型を考慮すると、この濃縮は維持されます。RAA・AFR−型の違いの欠如は、これらの箇所の数の少なさと、ヨーロッパ人におけるより低いアレル頻度の結果に起因するかもしれません。

 ネアンデルタール人のハプロタイプと表現型との間の関連に関する以前の分析では、遺伝子発現への影響の役割が強調されました。そこで、遺伝子型組織発現(GTEx)計画で取り上げられた48組織における、発現量的形質遺伝子座(eQTL)間のRAとNDAの出現率が評価されました。遺伝子移入されたeQTLはGTExの組織全てで見つかり、ヨーロッパのRA(16318)の18%とヨーロッパのNDA(31822)の16%が少なくとも1組織でeQTLです。各RAが少なくとも1つのNDAと関連している一方で、遺伝子移入されたハプロタイプのRAとNDAの数はある程度相関しています。

 GWAS遺伝子座の分析のように、eQTL を有さない遺伝子移入されたハプロタイプと比較して、少なくとも1つの遺伝子移入されたeQTL を有する遺伝子移入されたヨーロッパ人のハプロタイプでは、RAの有意に高い割合とNDAのより低い割合が示されます。RAA・AFR−型を除く全てのRA区分は、有意に濃縮されました。活性組織により遺伝子移入されたハプロタイプを含むeQTLを階層化しても、この結果は当てはまります。

 遺伝子移入されたeQTLの中で、NDAに対するRAの比率は組織により異なります。13組織では、RA/NDA比が全体的にゲノムよりも有意に高くなります。たとえば、遺伝子移入された前頭前皮質eQTLの間では、RA/NDA比は0.83ですが、全ての遺伝子移入された領域で観察された全体的な比率は0.47です。遺伝子移入されたハプロタイプは、とくに脳において、遺伝子調節を制御する、と以前の研究では示されてきました。脳組織は、RAのeQTLで強化された13組織のうち8組織で構成されており、おそらくは脳全体の共有された調節構造に起因します。RAのeQTLはまた、腎臓・副腎・精巣・坐骨神経でも豊富です。RAのeQTLは、粘膜組織と唾液腺からの遺伝子移入されたeQTLでは予想よりも少なくなっています。まとめると、eQTLを含む遺伝子移入されたハプロタイプは、RAのより高い割合を含み、対称的にNDAの割合は低く、RAのeQTLは組織間で均一に分布していません。


●ヨーロッパとアフリカ集団におけるRAの遺伝子調節関連

 上述のように、形質および遺伝子発現と関連するほとんどの遺伝子移入されたハプロタイプは、RAを含みます。しかし、連鎖不平衡が高いと、特定のRAもしくはNDAが原因なのかどうか、判断困難となります。そこで、関連するNDAとは無関係に、RA調節活性が評価されました。まず、ヨーロッパ人とアフリカのヨルバ人のリンパ芽球様細胞株(LCL)の集団間eQTLデータが分析されました。ネアンデルタール人型ではない遺伝子移入されたハプロタイプで、ヨーロッパではRAであり、ヨルバ人に存在するeQTLが特定されました。もしユーラシア人に再導入された全てのアレルが、ヨーロッパ人とヨルバ人の両方で遺伝子発現に類似の影響を及ぼす場合、ヨルバ人には存在しない関連したNDAよりもむしろ、RAが発現に影響を及ぼし、遺伝子移入は遺伝子調節効果を有する祖先的アレルを再導入した、と示唆されます。

 LCLのeQTLデータでは、2564のRAがヨーロッパ人ではeQTL、180のRAがヨルバ人ではeQTLで、42のRAが両集団でeQTL効果を示しました。これらRAのeQTLは、9遺伝子の発現に影響を及ぼします。ヨーロッパ人のRAは、ヨルバ人の対応するアレルで観察されたものと同様に、効果の同じ方向性と類似した程度を有します。たとえば、SDSLおよびHDHD5の両遺伝子はそれぞれ、4つの集団間のRAのeQTLを有しており、これはヨーロッパ人とヨルバ人の両方で遺伝子発現に類似した影響を及ぼします。これらの結果は、RAがNDAとは無関係にユーラシア人の遺伝子調節に影響を及ぼす、と示唆します。


●RAがNDAとは無関係に発現に影響を及ぼす可能性

 RAが関連するNDAとは無関係にヨーロッパ人の発現に直接的に影響を及ぼすのかどうか、決定するために、集団間eQTLの1つにおいて、遺伝子移入されたアレルの組み合わせの調節活性が機能的に分析されました。HDHD5遺伝子座は、4つの集団間のRAeQTLと、ヨルバ人には欠けておりヨーロッパ人では1つの遺伝子移入されたNDAを有する、2000塩基対領域を含んでいるので、対外実験の標的として適しています。HDHD5は22番染色体に位置し、猫目症候群領と関連する染色体異常と関連するタンパク質を含む加水分解酵素領域です。

 NDAとRAの4通りの組み合わせを用いて、LCLのルシフェラーゼ受容体分析が行われました。遺伝子移入されていないヨーロッパ人の配列を有する受容体構成は、基準を超える有意なルシフェラーゼ発現を引き起こしました。この活性は、関連するNDAを有する場合と有さない場合のRA(NDA–RAおよびEUR–RA)と、RAを有さないNDA(NDA–EUR)を有するよう合成された構成と比較されました。両方のRAを有する配列は、有意により低いルシフェラーゼ活性を有し、NDA–RAとEUR–RA配列の活性に有意な違いはありませんでした。

 これらの結果は、集団間のeQTLデータと一致し、活性の変化がNDAとは無関係と示します。ヨーロッパ人とヨルバ人のLCLからの超並列レポーターアッセイ(MPRA)データは、1つの特有の集団間RAeQTLと関係しています。まとめると、これらの集団間eQTLとルシフェラーゼ受容体とMPRAの結果は、HDHD5遺伝子座における調節効果の再導入にRAが関与している証拠を提供します。ルシフェラーゼ分析とMPRAデータは、ヨーロッパ人のゲノム内のこれらRAの機能的寄与が、遺伝子移入されたハプロタイプに存在するNDAとは無関係だった、と示します。


●RAがNDAよりも遺伝子調節活性を有している可能性

 MPRAは最近、K562およびHepG2細胞の隣接配列400塩基対における、590万の多様体の遺伝子調節効果を定量化しました。本論文では、調節活性で検証された全てのユーラシア人の遺伝子移入されたアレルが特定されました。互いに400塩基対内のものを除外することで、42016のRAと26063のNDAの独立した調節効果を特徴づけることができました。合計で、検証されたRAのうち527はNDAとは独立して異なる調節活性を有し、252のNDAは、RAとは独立して異なる活性を有します。各ユーラシア集団では、RAはNDAよりも独立した調節活性を有する可能性が有意に高い、と示されます。NDAと比較してRA間の活性の強化は、最小限の活性閾値とRA区分の範囲全域で保持されます。

 活性のあるRAの割合は、遺伝子移入されていない多様体の場合の割合と類似していますが、NDAは一貫して、遺伝子移入されていない多様体よりも活発である可能性が低くなっています。少ないアレルの頻度と、遺伝子移入された多様体への遺伝子移入されていない多様体の連鎖不平衡分布とを一致させても、この結果は変わりませんでした。したがって、NDAはRAと比較して有意により低い独立した調節活性を有していますが、RAは遺伝子移入されていない多様体と調節活性の類似した水準を有します。


●議論

 本論文は、ネアンデルタール人と現生人類の間の交雑経由での再導入にのみ起因する、ユーラシア現代人における何十万ものアレルの存在を示しました。ほんどのNDAはRAと高い連鎖不平衡にあり、シミュレーションと計算の結果、RAは現生人類においてNDAよりも耐性がある、と示唆されました。じっさい、ゲノム規模関連とeQTL を有する遺伝子移入されたハプロタイプでは、RAはNDAよりも高頻度です。本論文では、遺伝子移入されたハプロタイプのRAが、関連するNDAと独立した遺伝子調節効果を有する、と示す複数の証拠が提示されました。

 遺伝子移入されたアレルの異なる組み合わせの体外実験分析は、連鎖不平衡を解きほぐす詳細な実験的手法を提供します。eQTLとMPRAのデータを用いて、少なくとも500のRAがNDAとは独立して調節活性を有する、と示されました。これらの分析からさらに、NDAはRAと比較して調節活性が低下しており、RAは遺伝子移入されなかった多様体と似た水準の活性を有する、と示されました。これは、調節効果を有するNDAに対する選択と一致します。これらの結果に照らすと、遺伝子移入されたアレルの異なる進化史が古代の交雑の分析では考慮されねばならない、と結論づけられます。

 RAは一部の組織、とくに脳の遺伝子移入されたeQTLで濃縮されていますが、他はそうではなく、逆にNDAは枯渇しています。これらのパターンは、脳と精巣におけるネアンデルタール人のアレルのアレル特有の下方制御、および脳組織におけるネアンデルタール人のeQTLの濃縮と定量的に一致します。これらを踏まえて、RAとNDAの調節効果は、遺伝的多様性と調節環境への制約の強さに基づいて組織間で異なっている、と結論づけられます。これを支持するのは、神経組織と精巣は遺伝子発現の選択水準が極端で(神経組織は高く、精巣は低い、とされます)、有意なRA/NDA比の違いを示す、ということです。ネアンデルタール人のアレルに対する選択の証拠のない追加の組織全体のRAeQTL濃縮の範囲を考慮すると、RA/NDA比の違いは、各組織の調節制約内で作用する選択圧の混合の結果と提案されます。

 とくに、二つの排他的な進化のシナリオは、観察されたRAとNDAとの間の違いを説明できるかもしれません。まず、遺伝子調節機能を有する遺伝子移入されたハプロタイプのRAと比較してのNDAの枯渇は、一般的に(関連記事)、およびある組織で(関連記事)、および調節領域全体で、以前に示されたNDA選択を反映しているかもしれません。この選択により、NDAの豊富なハプロタイプの調節領域は枯渇します。じっさい、ネアンデルタール人アレルと脳と精巣の既知のアレル特有の下方制御を有する2つの組織は、遺伝子移入されたeQTL 間のNDAで有意に枯渇した組織の中にあります。このシナリオは、MPRA分析でRAと他のヒト多様体両方と比較しての調節活性のNDAの枯渇により、さらに支持されます。

 第二に、遺伝子移入されたRAは、関連するNDAへの負の選択を緩和するか、自身へと選択さえされるかもしれません。このシナリオでは、OAS1遺伝子座で示唆されているように、古代の交雑は有益なもしくは少なくとも有害ではない調節機能を有するアレルを回復し、これらのRAはいくつかの遺伝子移入されたハプロタイプの維持に寄与しました。このシナリオの証拠を評価するため、最近の正の選択の証拠を伴う領域2セットの遺伝子移入が分析されました。強い最近の正の選択を受けた可能性の高い遺伝子移入されたハプロタイプ(関連記事)は、有意により低いRA水準を有しており、RAが遺伝子移入後の正の選択のほとんどの事例の動因ではなかった、と示唆されます。

 また、現生人類と古代型ホモ属との分岐後に現生人類系統で正の選択を受けたと予測される、ゲノム領域のRA構成が分析されました。これらの領域における遺伝子移入されたハプロタイプは、ユーラシアの各集団でRAへ有意に濃縮されていました。これは、高いRA/NDA比を有する遺伝子移入されたハプロタイプが、現生人類特有の重要な領域に保持された可能性が高い、と示唆します。それにも関わらず、本論文の結果は、NDAは全体的に耐性が低く、機能的背景においてRAと比較して枯渇が促進された、と示します。

 さらに、RA間の異なる進化史は、現生人類におけるRAの効果に影響を与えるかもしれません。アフリカ現代人(RAA・AFR+型とRAA・AFR−型)およびヒトとチンパンジーの祖先(RAAとRHA)に基づいて分類されたRAの分析から、RAの区分におけるいくつかの違いが明らかになりました。たとえば、アフリカ現代人に存在するRAAはユーラシア人において高頻度で、アフリカ現代人に存在しないRAA と比較して、GWASもしくはeQTLでハプロタイプが豊富です。これは、再導入時に、RAA・AFR+型がRAA・AFR−型よりも耐性があることを示唆します。しかし、ユーラシア人におけるRAA・AFR−型は少なく、違いを検出する能力が低下します。同様に、多様体効果予測アルゴリズムからは、より古いRAAはより新しいRHAよりもわずかに良性と示唆されます。またRAAは、GWAS形質関連では濃縮されますが、RHAは違います。

 一部の分析で見られるRA区分間の違いにも関わらず、全てのRAはNDAと異なります。RAは現生人類の祖先に遺伝的背景があり、選択がより効率的に作用する、相対的により大きな人口で維持されてきたからです。以前の研究では、遺伝子移入経由での現生人類への弱い有害性のNDAの伝播における要因として、ネアンデルタール人集団の小さな有効人口規模が示唆されました(関連記事)。対照的に、相対的に有効人口規模の大きい祖先人類集団におけるより効率的な選択をRAはより長く受けているので、全てのRA区分がほとんどの分析でNDAと異なる理由を説明できます。

 また本論文の結果は、同じような年代の遺伝子移入されていない多様体と比較して、RAの機能的効果の異なる予測をすべきなのか、という問題を提起します。RAの中で、異なる進化史はいくつかの分析で異なる機能的特性を示します。上述のように、RAは何十万年もネアンデルタール人系統で隔離されていました。結果として、RAは遺伝子移入されていないアレルと比較して、現生人類においてはより有害な効果を有する、と予測できるかもしれません。しかし、本論文の分析では、とくにNDAと比較した場合、RAは一般的に遺伝子移入されていない多様体と同様に作用します。したがって将来の研究では、ネアンデルタール人と現生人類との交雑を解釈するさいには、遺伝子移入された多様体の間の異なる進化史が考慮されねばなりません。

 RAのさらなる分析は、古代人類集団の遺伝学の研究にも関連します。たとえば、ユーラシア人に存在する何万ものRAがアフリカ現代人集団には存在しません。これら古代の多様体は、アフリカ人とユーラシア人との間の自然選択の効率における違いに関する継続中の議論に情報を提供するとともに、50万年以上前にアフリカに存在した古代の遺伝的多様性への解明の手がかりを提起します。最後に、本論文はネアンデルタール人に焦点を当てましたが、おそらくデニソワ人から現生人類への遺伝子移入も、とくにデニソワ人系統を高水準で有するアジア人集団で、失われたアレルを再導入しました。

 結論として、本論文が示したのは、ネアンデルタール人から現生人類への遺伝子移入は、現生人類ユーラシア人集団の祖先で失われたアレルを再導入し、これら何百ものRAが機能している、ということです。これは、人類集団間の共有された祖先の多様性を説明する重要性と、交雑事象がアレル多様性のボトルネックの効果を調整するかもしれない方法を示します。RAとその異なる進化史は、ハプロタイプとゲノムの両方の規模におけるネアンデルタール人から現生人類への遺伝子移入の分析において、考慮されねばなりません。


参考文献:
Rinker DC. et al.(2020): Neanderthal introgression reintroduced functional ancestral alleles lost in Eurasian populations. Nature Ecology & Evolution.
https://doi.org/10.1038/s41559-020-1261-z

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