離島における進化

 離島における進化についての研究(Liu et al., 2020)が公表されました。日本語の解説記事もあります。何百万年もの間、大洋に浮かぶ島々は生物多様性の宝庫であり、固有の種が繁栄してきました。離島で動植物がどのように定着し進化するのか、という疑問に対してさまざまな理論が提示されていますが、長い時間軸で発生する進化過程の考え方を検証することは、長年の課題となっていました。近年はDNA解析や3Dイメージングや計算科学といった最先端技術により、生物相の歴史的な多様化プロセスの分析が可能となりました。

 この研究は、フィジーの南太平洋群島におけるアリの進化的・生態学的変化を調査し、離島で進化がどのように発生するかについて、従来の理論を検証しました。フィジーのように大洋の遠隔にある小さな島々は、生態学的過程と進化的過程の相互作用の研究のためには最適な、「自然の実験場」のような機能を果たしてくれます。しかし最近まで、アリに関する研究はさほど多くありませんでした。そこでこの研究は、フィジーに生息する種数の最も多いウロコアリ属のうち、罠型顎を持つアリのアギトアリに焦点をあて、2007年のフィジーにおける現地調査で収集された多数の標本を分析しました。

 この研究は、アギトアリで観察された、島に侵入してからの時間経過に伴う外部形態の変化と分布の変化が、どのように「タクソン・サイクル」と呼ばれる仮説理論に適合しているのか、分析しました。タクソン・サイクル理論によれば、種は島に定着した後、分布範囲を拡大し、やがて衰退していき、時として絶滅するという、予測可能な「ライフサイクル」をたどります。また、この周期は、別の新たな定着者によって繰り返されます。

 この研究は、フィジー諸島固有のウロコアリ属種のDNAを解析しました。この種はこれまでフィジーの島々でしか見つかっていない固有種です。また、地域的および世界的に分布しているウロコアリ属に近縁なアリの標本も収集対象に含まれました。DNA配列に基づいて系統樹が構築され、それぞれの種がどれほど系統的に近縁かどうか、示されました。その結果、フィジーに固有のアギトアリ種の14種すべてが、複数のコロニーからではなく、単一のコロニーから派生した、と明らかになりました。

 これらの結果は、タクソン・サイクル仮説で想定されることと矛盾します。この仮説においては、後から外来種が到着して定着し、拡散と衰退の新たな分類群周期が始まる、と考えるからです。定着化が繰り返されなかった理由として、最初に到来したアギトアリの定着者らが多様化し、適した生存場所をすべて占領してしまったため、新参の外来種の進入の扉を閉ざした可能性が指摘されています。また、フィジー諸島は地理的にどこからも隔離されているため、新参の外来種自体がやって来なかった可能性も指摘されています。

 タクソン・サイクル仮説に従えば、種は島に定着した後、各生息地で生存に適した場所(ニッチ)に特殊化しながら生息範囲を大幅に拡大させます。フィジーに固有の14種のアギトアリの分布を調べたところ、定着してからまもなく、最初の系統が2つに分かれ、1つの系統は低地に生息地を拡大させ、もう1つの系統は高地で生息地を拡大した、と明らかになりました。さらに、アギトアリの主要な形態的特徴を測定し、適応放散によって生存するためのニッチを確立したのかどうか、検証されました。

 適応放散は、しばしば離島で発生します。最も有名な例は、ダーウィンフィンチというガラパゴス諸島に生息する鳥についての研究です。種数や外部形態が多様になるという現象は、多くの場合、競争相手や捕食者が欠落することで、アリの適応放散を可能にするニッチ空間が多いためです。マイクロCTスキャナーの使用により、フィジーのそれぞれのアリ種の3Dモデルが作成され、アリの体や顎(下顎の骨)や眼のサイズも測定されました。この分析により、各種の生息ニッチに関係したアリの多様性は適応放散の結果である、と明らかになりました。たとえば、高地に分布する系統のアリは、体をより大きく進化させ、大型の獲物を捕獲することが可能になりました。これらのアリはまた、狩りの仕方の決め手となる短い下顎を発達させました。

 タクソン・サイクル仮説では、種が、特殊化した生息場所(ニッチ)に次第に適応するにつれ、個体数および生息地の範囲が減少すると予測していますが、この予測は、高地に住むフィジーのアギトアリにのみ当てはまっていました。また、高地に生息する種の個体群が時間とともに小さくなり、個体群間の遺伝的変異が大きいことも明らかになりました。これは、この種がフィジー諸島全体に分散し繁殖して(遺伝子交流)する能力が低いことを示唆しています。この競争力の喪失は、フィジーにおける現在進行中の大きな環境問題である森林破壊の脅威と相まって、古くから分布するこれらの特殊なアリ個体群の存続をさらに危うくする、と懸念されます。生息地が地理的に限られ、分散する能力も限られているこれらの固有種は、森林破壊によって種の絶滅を早められてしまう可能性があります。

 今後の計画として、集団ゲノミクスと系統進化学および形態学研究を組み合わせた分析アプローチが、フィジーのすべての種のアリに適用されることが予定されています。アギトアリのデータが、タクソン・サイクルの仮説とどの程度密接に一致しているかは、まだ明らかではありませんが、昨年発表されたフィジーのオオズアリ属のアリにおける調査研究と同様に、仮説を「部分的にのみ証明した」、と言えます。フィジーの島々における進化が、仮説により予測可能な段階をたどるのか、または毎回異なるランダムな過程をたどるのかどうか判断するには、より多くのデータが必要です。


参考文献:
Liu C. et al.(2020): Colonize, radiate, decline: Unraveling the dynamics of island community assembly with Fijian trap‐jaw ants. Evolution, 74, 6, 1082–1097.
https://doi.org/10.1111/evo.13983

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