『卑弥呼』第46話「現在と未来」

 『ビッグコミックオリジナル』2020年9月20日号掲載分の感想です。前回は、イサオ王を毒殺した鞠智彦(ククチヒコ)が、イサオ王の遺体を前に、自分が新たな暈(クマ)の王である、と言い放つところで終了しました。今回は、山社(ヤマト)の楼観で日見子(ヒミコ)たるヤノハが側近たちに、九州の諸国へ和議と同盟締結のための使者となるよう、指示する場面から始まります。その文面は木簡に書かれていますが、弥生時代の木簡はまだ出土しておらず、現時点で最古の木簡は7世紀のものだと思います。イクメは末盧(マツロ)、ミマアキは伊都(イト)、ヌカデは那(ナ)、クラトは穂波(ホミ)、テヅチ将軍は都萬(トマ)に使者として派遣されることになります。何か言いたそうだな、とヤノハに問われたミマアキは、和議は暈(クマ)への脅威を回避できる現在の安心ではあるものの、同盟を結ぶにはこれだけでは不充分だと指摘します。ではどうすればよいのか、とヤノハに問われたミマアキは、5ヶ国それぞれに未来を送るべきだ、と答えます。未来とは何か、ヤノハに問われたミマアキは、5ヶ国それぞれに恩恵や利益をもたらすという夢だ、と答えます。するとヤノハは、やはりミマアキは昼の王になるべき男だ、と感心したように言います。

 末盧では、イクメがミルカシ女王と面会していました。ミルカシ王は、海岸から見える島がイカツ王の伊岐(イキ、現在の壱岐でしょう)の国で、その先にはアビル王の津島(ツシマ、現在の対馬でしょう)の国がある、とイクメに説明します。そこから大海を渡れば韓(カラ、朝鮮半島)ですね、と言うイクメに対して、末盧は草むした小国ではあるものの、倭の中では漢に最も近く、小国故に山社との和議を喜んで受ける、と笑顔で言います。するとイクメは、日見子(ヤノハ)からの提案をミルカシ王に伝えます。それは、韓より来る船団すべては今後、末盧に一旦停泊するよう配慮する、というものでした。なぜ伊都や那ではなく小国の末盧にそんな利益があるのか、驚くミルカシ王に、末盧にも未来が必要だ、とイクメは力説します。

 伊都では、ミマアキがイトデ王と面会していました。暈のイサオ王が没したという噂が流れているが、山社の女王(ヤノハ)はなかなかの強運の持ち主だな、とイトデ王はミマアキに語り掛けます。ミマアキが、伊都との和議が成立しなければ元も子もない、と言うと、暈の王が鞠智彦(ククチヒコ)となれば、筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)の戦乱はさらに激しさを増す、と考えたイトデ王は、山社との和議を決断します。するとミマアキは、韓からの船すべてが末盧に停泊することを認めていただきたい、とイトデ王に要請します。那との長い戦いの末にやっと手に入れた利権を手放すことにイトデ王は反発しますが、その代わりにイトデ王には一大率(イチダイソツ)に就いていただきたい、とミマアキは提案します。これは、倭の国々はもちろん、韓からの積み荷すべてを見聞する役目で、そのような大役を自国に任されることにイトデ王は驚きます。

 那では、トメ将軍と面識のあるヌカデが、トメ将軍とともにウツヒオ王と面会していました。ウツヒオ王は和議を快諾します。日見子(ヤノハ)殿のことだから、何か特別な話があるのではないか、とトメ将軍に問われたヌカデは、大陸からの全ての船を一旦末盧に停泊させることと、伊都のイトデ王を倭の一大率に任命することを認めてもらいたい、と要請します。では那国には何をくれるのか、とトメ将軍に問われたヌカデは、倭を代表して唯一遣漢使を送ることのできる国とする、と提案します。大陸に行って漢(後漢)の進んだ文明を一目見たい、と考えているトメ将軍が喜び、イトデ王に判断を伺うと、漢への使者派遣は那の昔からの夢だと言って快諾します。

 穂波では、クラトがヲカ王と面会していました。ヲカ王は、暈のイサオ王は病死したと伝えられているが、鞠智彦の謀反だろう、とクラトに伝えます。穂波と暈の和議は、元来イサオ王と自分との間に交わされた個人的なものなので、山社との和議を受け入れない理由はない、とクラトに言います。しかし、暈との絶縁は穂波にとって存亡の危機になる、とヲカ王は言います。これは交易利権のことで、那と交戦中の暈は韓との通商の未知を閉ざされているので、鉄(カネ)を含む韓からの品々は全て、穂波がまとめて購入し、それに利ざやを載せて暈に売っている、というわけです。そこでクラトは、ヤノハからの提案をヲカ王に伝えます。それは、暈に代わって韓より山社への品々も全て穂波を経由させる、というものでした。するとヲカ王は、不審に思います。韓の船は伊都か那か末盧に到着するので、山社へは暈の領土を避けつつ南下するのが最短経路ではないか、というわけです。するとクラトは、山社は倭国の聖地なので、遠方にあるべきだ、と説明します。つまり、韓よりの使者は末盧から伊都と那を通過し、穂波に向かわせ、そこから河を下って内海(ウチウミ、瀬戸内海でしょうか)に出て都萬へ向かう、というわけです。するとヲカ王は、見事な着想だ、と感心します。

 都萬では、テヅチ将軍がタケツヌ王と面会していました。韓からの通称施設の最後の停泊地を都萬とする、というヤノハからの提案に、なぜそれほど自分を評価するのか、とタケツヌ王は戸惑っていました。するとテヅチ将軍は、タケツヌ王が何より義を重んずる人と日見子(ヤノハ)様は考えているからだ、と説明します。タケツヌ王は山社からの申し出を受け入れます。テヅチ将軍から、日見子に好意的なウツヒオ王に反旗を翻して那より亡命したウラ殿が都萬にいると聞いている、と指摘されたタケツヌ王は、まさか客人を差し出せとは言わないだろうな、とテヅチ将軍に確認します。テヅチ将軍はそれを否定しつつも、ウラ殿が何も起こさないよう、注意してもらいたい、と要請し、タケツヌ王もしぶしぶ認めます。

 穂波でヲカ王との面会を終えたクラトは、穂波の重臣であるトモと船上で面会していました。日見子誅殺失敗の言い訳に来たのか、とトモに問われたクラトは否定し、たとえトモ様が古の五支族の頭だろうと、聞けないものは聞けないと伝えに来たのだ、と答えます。その理由を問われたクラトは、日見子(ヤノハ)様が日向(ヒムカ)を山社に併合したのはサヌ王(記紀の神武天皇と思われます)の血族とのことだからだ、と答えます。トモは、その話が本当だと思うのか、とクラトに問い質しますが、クラトは沈黙します。その様子を見て、クラトにも確証はないと判断したトモは、自分が旅より戻るのを待つよう、伝えます。トモは数日後、日下(ヒノモト)に向かい、サヌ王の末裔に指示を仰ぐつもりでした。するとクラトは、問題は日見子様ではない、とトモに言います。サヌ王が恐れたのは新しい日見子ではなく、政治を司る昼の王の出現なので、その逸材を今のうちに処理しておかねばならない、とクラトはトモに説明します。クラトが苦しげな表情を浮かべていることをトモは不審に思い、昼の王になるべき男は、自分の最愛の友(ミマアキ)なのだ、とクラトは説明します。自分の手で友を殺せない、と打ち明けるクラトは、明日ヲカ王からの献上品をいただいて帰路に着く、とトモに説明します。その荷を運ぶ奴婢の中に友を暗殺する凶手を紛れ込ませろということか、というトモからの問いかけをクラトが肯定するところで、今回は終了です。


 今回は、山社と九州の諸国との交渉が描かれました。『三国志』の記述を取り入れた、山社から各国への提案は上手く設定されているように思います。問題となるのは、まず、クラト以外の山社指導層が、ヤノハ暗殺計画の首謀者と考えているウラの存在です。ウラは那から亡命して現在都萬にいますが、ヤノハとしては、ウラを消したいところでしょう。しかし、タケツヌ王は義理堅い人物のようで、自分を頼って亡命してきたウラを見放したくない、と考えているようです。ウラはヤノハを日見子と認めることにもトメ将軍にも否定的ですから、那と山社が同盟を結び、トメ将軍が遣漢使を率いるような事態は何としても避けたいでしょうから、色々と画策するかもしれません。ウラが、山社と都萬の間の不穏要因になるかもしれません。

 次に問題となるのは、クラトがミマアキを殺そうとしていることです。クラトが恋仲のミマアキ殺害の決断をくだせるのか、注目していましたが、クラトはトモに殺害を依頼しました。これが血族と恋仲との間で苦悩したクラトの選択でしたが、『三国志』から、当分ミマアキは死なないと考えられるので、おそらくこのミマアキ殺害計画は失敗するのでしょう。そうすると、山社と穂波の関係がどうなるのかも気になりますが、クラトの運命も注目されます。あるいは、クラトの信念を変えるような説得が、ミマアキもしくはヤノハにより行なわれるのでしょうか。トモが日下に向かってサヌ王の末裔と面会して事態がどう動くのか、今回登場しなかったナツハは今後どのような役割を果たすのか、ということも気になりますから、今後の展開もたいへん楽しみです。