完新世のアルプス山脈の氷河

 完新世のアルプス山脈の氷河に関する研究(Bohleber et al., 2020)が公表されました。過去の氷河の動態が気候の変化にどのように関係しているの解明することは、今後のアルプス山脈における氷河の減少速度を評価する上で役立つ可能性があります。これまでの研究から、アルプス山脈の標高4000m以上のいくつかの山頂で最も古い氷の年代は、11500年前頃と推定されていました。

 この研究は、オーストリアのエッツタール・アルプスで、ヴァイスゼーシュピッツェ(Weißseespitze)山頂氷河の氷から岩盤までの雪氷コア2本を標高3500mで掘削し、分析しました。この掘削地点は、5300~5100年前頃と推定されているミイラの「アイスマン(愛称エッツィ)」が発見された、イタリアのエッツタール・アルプスの標高3210mの地点から12キロメートル離れています。アイスマンの状態は良好だったので、遺伝学などさまざまな分野の研究が進んでおり、アイスマンの衣服と矢筒に由来する9点の皮革断片のミトコンドリアDNA解析により、どの動物種の皮革断片なのか、明らかになっています(関連記事)。

 この研究は、先史時代の試料の年代を決定するための重要な手法である放射性炭素年代測定法を用いて、深さ11mの岩盤の直上の氷の年代が5900年前頃と明らかにしました。これは、アルプス山脈の中で最も標高4000m以上の地点だけが、完新世を通じて氷に覆われていたことを示唆しています。つまり、アイスマンの視界にはアルプス山脈の氷河が入っていなかったかもしれない、というわけです。岩盤の直上の氷は、氷のない期間を経て初めて形成された氷であるため、その最大年代を決定できれば、過去の氷のない期間を特定できます。

 これらの知見は、完新世に起こったアルプス山脈の標高4000m未満の山頂での氷河減少に前例がなかったわけではないことを示していますが、現在の氷河減少が前例のないハイペースで起こっているのかについては、さらなる情報が必要です。この研究は、現在の融解速度で推移すれば、外界の影響を受けやすい保存記録である岩盤の直上の古い氷は、今後20年以内に失われる可能性がある、と指摘しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


地質学:チロルのアイスマンが見ていたアルプス山脈の山頂に氷はなかったかもしれない

 アルプス山脈の標高3000~4000メートルの山頂は、チロルのアイスマン「エッツィ」が生まれる直前の約5900年前までは氷がなく、この頃から新たな氷河が形成され始めたとする研究報告が、Scientific Reports に掲載される。この知見は、アルプス山脈の中で最も標高の高い山頂(4000メートル以上)だけが、約1万1650年前に始まった現在の地質時代である完新世を通じて氷に覆われていたことを示唆している。

 過去の氷河の動態が気候の変化にどのように関係しているかを解明することは、今後のアルプス山脈における氷河の減少速度を評価する上で役立つ可能性がある。これまでの研究から、アルプス山脈の標高4000メートル以上のいくつかの山頂で最も古い氷の年代は、1万1500年前と決定されていた。

 今回、Pascal Bohleberたちの研究チームは、オーストリアのエッツタール・アルプスで、ヴァイスゼーシュピッツェ山頂氷河の氷から岩盤までの雪氷コア2本を標高3500メートルで掘削し、分析した。この掘削地点は、アイスマン(5100~5300年前と年代決定された)が発見された標高3210メートルの地点から12キロメートル離れたところにある。Bohleberたちは、先史時代の試料の年代を決定するための重要なツールである放射性炭素年代測定法を用いて、深さ11メートルの岩盤の直上の氷が5900年前のものであることを明らかにした。岩盤の直上の氷は、氷のない期間を経て初めて形成された氷であるため、その最大年代を決定できれば、過去の氷のない期間を特定できる。

 以上の知見は、完新世に起こったアルプス山脈の標高4000メートル未満の山頂での氷河減少に前例がなかったわけではないことを示しているが、現在の氷河減少が前例のないハイペースで起こっているのかについては、さらなる情報が必要である。Bohleberたちは、現在の融解速度で推移すれば、外界の影響を受けやすい保存記録である岩盤の直上の古い氷は、今後20年以内に失われる可能性があると述べている。



参考文献:
Bohleber P. et al.(2020): New glacier evidence for ice-free summits during the life of the Tyrolean Iceman. Scientific Reports, 10, 20513.
https://doi.org/10.1038/s41598-020-77518-9

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