ハヤブサの飛行の形成要因

 ハヤブサの飛行の形成要因に関する研究(Gu et al., 2021)が公表されました。北極圏の季節的に好条件となる繁殖地を利用する渡り鳥は数百万羽おり、冬はユーラシア各地で過ごしますが、こうした北極圏に生息する鳥類の渡り経路の形成・維持・未来・渡りの距離の遺伝的決定要因については、ほとんど知られていません。この研究は、ユーラシア大陸の北極圏で繁殖したハヤブサ(Falco peregrinus)の6個体群に属する56羽に関して、人工衛星での追跡により大陸規模の渡りのマップを構築し、このうち4個体群に属する35羽のゲノム塩基配列の再解読を行ないました。

 その結果、これらの繁殖個体群はユーラシ大陸全域にわたる5つの異なる渡り経路を用いていることが明らかになり、これの経路はおそらく、23000~19000年前頃の最終氷期極大期(Last Glacial Maximum、略してLGM)から11700年前頃に始まる完新世への移行期に繁殖地の経緯度の変化により形成された、と考えられました。これらの渡り経路は現在、環境的に互いに異なっており、各経路の固有性はこうした相違により維持されているようです。

 また、個体群水準の渡りの距離の差異には、ADCY8遺伝子が関連する、と示されました。この遺伝子の調節機構を調べたところ、ハヤブサの個体群間に見られるADCY8の相違に対する選択因子は、長期記憶である可能性が極めて高い、と明らかになりました。全球の温暖化は、ユーラシア大陸の北極圏に生息するハヤブサ個体群の渡り戦略に影響を及ぼし、繁殖域を縮小させる、と予測されています。生態学的相互作用と進化的過程を利用して気候に駆動される渡りの変化を調べることは、渡り鳥の保全に役立つ可能性があります。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


生態学:ハヤブサの渡りを解読する

 ハヤブサが渡りに使う経路は、最終氷期以降の環境の変化によって形成されてきたことを報告する論文が、Nature に掲載される。この論文では、渡りの距離が遺伝的要因の影響を受けたことの証拠も示されている。

 多くの渡り鳥は、北極に、季節的に有利な繁殖地を持っているが、冬はユーラシア各地で過ごす。一方、渡りの経路の形成、維持、将来の見通し、あるいは渡りの距離の遺伝的決定因子については、ほとんど分かっていない。

 今回、Xiangjiang Zhanたちの研究チームは、ユーラシア北極圏の個体群に属する56羽のハヤブサの衛星追跡データと35羽のハヤブサのゲノムデータを組み合わせて、ハヤブサの渡りを調べた。その結果、ユーラシア大陸では5つの経路が渡りに使われており、これらの経路は、最終氷期極大期(約2万~3万年前)以降の環境の変化によって形成されたことが分かった。また、渡りの距離の長いハヤブサは、ADCY8遺伝子の優性(顕性)の遺伝型を有することも明らかになり、Zhanたちは、これが長期記憶の発達と関連している可能性があるという見解を示している。

 Zhanたちは、全球の気候が変化している中で、ユーラシア西部のハヤブサは、個体数減少の確率が最も高く、新しい越冬地に渡るか、あるいは渡りを完全にやめる可能性があると提起し、生態学的相互作用と進化過程を用いて、気候を駆動要因とする渡りの変化を研究することが、渡り鳥の保全を促進するために役立つ可能性があると結論付ている。


動物行動学:気候に駆動される渡りルートの変化と記憶に基づく長距離の渡り

Cover Story:ハヤブサの飛行:環境の変化、記憶、遺伝子が鳥類の渡りを形成する

 北極圏に生息する鳥類の渡りルートを何が決めているのかについては、ほとんど分かっていない。今回X Zhanたちは、ハヤブサ(Falco peregrinus)が北極圏の繁殖地から移動してユーラシア全体のさまざまな場所で越冬する際の渡りルートを調べている。彼らは、56羽のハヤブサの人工衛星追跡データと35例のゲノム塩基配列再解読データを組み合わせ、古気候データを用いてこの鳥類の過去の繁殖地と越冬地の分布を再構築した。その結果、ハヤブサの渡りのパターンが主に最終氷期極大期末(2万2000年前)以降の環境の変化によって形成されたことが分かった。また、ハヤブサのより長い距離の渡りに役立っている可能性のある遺伝的要素として、ADCY8の優性(顕性)の遺伝子型が特定された。これは長期記憶の発達と関連付けられることから、渡りルートの維持に寄与していると考えられる。表紙は、追跡用のGPS発信機を装着したハヤブサである。



参考文献:
Gu Z. et al.(2021): Climate-driven flyway changes and memory-based long-distance migration. Nature, 591, 7849, 259–264.
https://doi.org/10.1038/s41586-021-03265-0

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