上田信『人口の中国史 先史時代から19世紀まで』

 岩波新書(赤版)の一冊として、岩波書店より2020年8月に刊行されました。電子書籍での購入です。本書は先史時代から19世紀までを対象とした人口の観点からの中国通史ですが、おもに取り上げられているのは明清期で、とくに18世紀の人口爆発が詳しく検証されています。確かに、現代中国を理解するうえでこの人口爆発は重要でしょうから、妥当な配分だと思います。本書が対象とする空間的範囲は、「中国文明が包摂した」人口です。

 当然、人口の手がかりとなるような同時代の文献のない時代の推定人口は、信頼性が低くなります。本書は、中国で刊行された人口に関する書籍には、史書の記載を無批判に用いたものが少なくない、と注意を喚起します。現在に伝わる漢字文化圏最初の人口統計は、前漢末期の紀元後2年のものです。本書も指摘していますが、重要なのは、この人口統計はあくまでも王朝が把握できた範囲にすぎない、ということです。これを踏まえないと、三国時代の前後における「中国人」もしくは「漢民族」の絶滅、といった現代日本社会の「愛国者」が好む的はずれな言説に引っかかってしまいます。

 中世以降の中国人口史の特徴の一つは、南方の比重増加です。すでに唐代中期に人口は南方が北方を上回っていましたが、宋代にはその差が拡大し、人口は12世紀には1億人を突破していたと推測されています。ダイチン・グルン(大清帝国)支配下の18世紀に、人口爆発が起きます。明代に進んだ人頭税と土地税の銀納化を前提として、18世紀前半までに地丁銀と呼ばれる新たな税制が成立し、長く続いてきた人頭税が廃止されて土地税の中に繰り入れられます。これにより、それまで隠れていた人口が表に出た、と以前から説明されています。人口統計の基礎的データはこの改革を境に戸口から民数に変わり、人口史研究では画期となります。

 しかし本書は、18世紀を通じて人口は増加し、18世紀半ばには2億人程度だったのが、19世紀半ばには4億人にまで増加する理由は別にあった、と指摘します。別の理由として以前から指摘されているのは、トウモロコシやサツマイモやジャガイモといったアメリカ大陸原産作物が16世紀後半にもたらされたことです。しかし本書は、これら新たな作物が人口急増の要因に直結した、と断定することには慎重です。本書は、族譜に基づく歴史人口学の成果を参照して、18世紀における溺女(女児の間引き)の抑制を1要因として挙げ、その背景に貨幣経済の浸透による貧富の格差拡大に伴う、貧しい男性の地域社会からの脱出がある、と指摘します。また本書はこれと関連して、死亡の季節的変動が18世紀には平準化し、平均寿命が低下し、男性の未婚率が上昇したことを挙げ、18世紀には農業に依存しない生き方が広がったと推測します。

 この18世紀の人口急増とそれによる地縁・血縁に頼れない男性の増加が、19世紀後半に集中的に発生した、太平天国の乱に代表される叛乱をもたらした、と本書は指摘します。人口急増が社会不安につながった、というわけです。この社会状況の不安定化のなかで、19世紀半ばから後半にかけて死亡の季節的変動が17世紀の水準にまで戻ります。本書は最後に、現代の人口統計から過去の人口史を読み取れることも指摘します。2015年の人口では55~69歳以上で人口が急減しており、これは大躍進政策の影響と指摘されています。

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