村井良太『佐藤栄作 戦後日本の政治指導者』

 中公新書の一冊として、中央公論新社から2019年12月に刊行されました。本書は、日本の首相として連続在職日数の最長記録を有する佐藤栄作(2020年8月には佐藤栄作の姪孫である安倍晋三首相がこの記録を抜くかもしれませんが)の伝記で、誕生から政治家になる前までに1章、政治家になってから首相に就任する前までに2章、首相時代に3章、首相退任後に1章が割かれています。佐藤栄作の人生のうち、政治家になる前の期間の方が長いのですが、首相時代を中心に政治家としての側面に焦点を当てた構成になっています。

 本書は佐藤栄作を、軽武装・経済中心・対米防衛依存という吉田茂路線を政権の長期化により新たな意味づけとともに固定化した政治家として位置づけています。吉田路線は敗戦後間もない時期の選択であり、日本が経済成長後も吉田路線を踏襲することは必然ではなかった、と言えるかもしれません。その意味で、長期の佐藤政権は戦後日本において重要な役割を果たした、と言えるでしょう。じっさい、戦後の政界において、自主路線と軍備の強化、それを可能とするための日本国憲法改正への動きは決して無視できるほど弱くはなかった、と思います。また第二次世界大戦後において、日本の軍備強化と軍国主義復活の可能性には世界の国々から厳しい視線が注がれており、それは日本の経済成長とともにより現実的な脅威として受け止められた、という側面もあるとは思います。

 経済大国が軍事大国化しないことはあり得るのか、という疑念は高度経済成長後の日本に対して多くの人々が抱いた疑念でしょうが、佐藤は対米防衛依存という形で軍事大国化を志向しようとはせず、日本国憲法改正に消極的で、佐藤の兄の岸信介はこうした佐藤政権の姿勢に不満だったようです。これは、安全保障・外交をアメリカ合衆国に丸投げしている、との批判になりますし、じっさい、アメリカ合衆国の動揺や政策方針の転換により、危うい立場に陥ることもあり得ます。佐藤内閣以後の政権はこの問題に苦慮し続けている、とも言えるでしょうが、戦争の惨禍を痛感していた佐藤栄作の方針は、当時の日本の状況を考慮すれば、少なくとも大間違いではなかった、と思います。

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