DNAメチル化が正確に継承される分子機構

 DNAメチル化が正確に継承される分子機構に関する研究(Nishiyama et al., 2020)が公表されました。日本語の解説記事もあります。DNAメチル化はDNAのシトシンの炭素原子にメチル基 が共有結合で付加される化学反応です。メチル化されたDNAはメチル化DNA結合タンパク質を呼び込み、遺伝子発現の抑制など様々な生命現象に重要な役割を果たします。DNAメチル化はヒストン修飾とともに古くから知られるエピジェネティック修飾です。エピジェネティック修飾とは、DNAおよびその足場として働くヒストンタンパク質に起こる化学修飾で、遺伝子発現のオンとオフを決めたり、特定のタンパク質を呼び寄せたりする目印として働きます。近年、DNAの配列情報への直接的な変異と合わせて、エピジェネティック修飾の制御機構の破綻(エピジェネティック変異)が様々な疾患に関わっている、と明らかになってきました。

 エピジェネティック修飾は、遺伝子発現制御をはじめとして様々な生命現象に重要な役割を果たします。DNAメチル化は遺伝子発現のオンとオフを決めることで、細胞の特性を決める細胞記憶として働きます。したがって、細胞増殖に伴うメチル化パターンの正確な継承は、その細胞の特性を維持するために不可欠で、DNAが複製されるさいには、DNAメチル化パターンも同時に正確に継承される必要があります。この仕組みの破綻は異常な発生・分化に加えて、細胞の癌化や染色体不安定化を引き起こす原因となる、と考えられています。このような背景のもと、DNAメチル化継承の分子機構の全貌を明らかにすることは重要な課題となっています。

 DNAメチル化継承にはDNAメチル化酵素DNMT1(非メチル化DNAをメチル化するDNMT3A/3Bに対して、DNMT1はDNA複製部位に特異的に局在し、DNA複製時に生じる片鎖メチル化DNAを好んでメチル化する活性を有します)とUHRF1 (Ubiquitin-like containing PHD and Ring finger 1) という二つのタンパク質が重要な働きをしています。UHRF1は複製時に一時的に生じる片鎖メチル化DNAに特異的に結合するタンパク質で、DNMT1のDNAメチル化部位局在に不可欠な役割を果たします。これまでにUHRF1を介したヒストンH3(細胞内のDNAを巻き付けているヒストンタンパク質の一つで、UHRF1によりユビキチン化されるとDNMT1との結合能を獲得します)のマルチプルモノユビキチン化が、DNMT1によるDNAメチル化継承に重要である、と分かっていましたが、DNMT1を複製装置に局在させるメカニズムや、UHRF1がそれをどのように制御するのかは明らかでありませんでした。

 ユビキチンは76アミノ酸からなる小型のタンパク質で、基質となるタンパク質のリジン残基に共有結合で付加され、タンパク質のユビキチン化は、タンパク質の安定性や機能を大きく変化させるシグナルとして、重要な役割を果たします。ユビキチン化には、ポリマー化ユビキチンが基質タンパク質に付加されるポリユビキチン化(タンパク質分解・DNA損傷応答・免疫応答におけるシグナルとして働きます)と、1個のユビキチンが付加されるモノユビキチン化の二つの様式が存在します。その中でも、UHRF1によるユビキチン化は、複数のリジン残基を標的としてモノユビキチン化するマルチプルモノユビキチン化と分かってきました。

 この研究は、アフリカツメガエルの未受精卵の抽出液に脱膜処理をした精子の核を加えた、無細胞系を用いました。この実験系は、通常細胞内でしか起こらない染色体の複製を試験管内で再現することが可能なので、生化学的な解析に優れています。この抽出液から得たDNMT1複合体を質量分析で網羅的に解析したところ、DNMT1と特異的に結合する因子としてPAF15(DNA複製因子であるPCNAと相互作用することや、癌細胞で高発現を示すことが分かっていたものの、その機能や制御については不明でしたが、UHRF1によりユビキチン化されることで、DNMT1と相互作用する新たなDNAメチル化制御因子と明らかになりました)を新たに発見しました。

 さらに、無細胞系を用いた詳細な解析の結果、PAF15がDNA複製時にPCNA(DNA複製の中心的因子で、DNAポリメラーゼをはじめ様々なDNA複製因子と相互作用します)を介して染色体に結合すること、UHRF1(DNMT1をメチル化DNA部位に集積するために必要なタンパク質で、片鎖メチル化DNAや特殊なヒストンの化学修飾状態を読み取ることでDNAメチル化部位特異的に結合し、ヒストンH3をユビキチン化する役割を担うと知られていたE3ユビキチン化酵素です)によりPAF15のN末ドメインに保存された二つのリジン残基がモノユビキチン化を受けることが、PAF15とDNMT1の相互作用に不可欠である、と分かりました。ヒストンH3は細胞内のDNAを巻き付けているヒストンタンパク質の一つで、UHRF1によってユビキチン化されると、DNMT1との結合能を獲得します。

 また、通常時は染色体上のDNMT1のほとんどはユビキチン化PAF15と結合していましたが、ヒストンH3のユビキチン化レベルの上昇やDNMT1とユビキチン化H3との相互作用がPAF15の機能阻害に伴い観察されました。これは、PAF15のユビキチン化がDNMT1のDNAメチル化部位への局在を制御する主要経路で、ヒストンH3のユビキチン化はバックアップシステムとして働いている可能性を示唆します。重要なことに、マウスES細胞において、PAF15のユビキチン化部位のアミノ酸に変異を導入したところ、ゲノム全体のDNAメチル化レベルが大きく低下し、PAF15がDNAメチル化維持を保証する因子である、と明らかになりました。

 この研究はさらに、UHRF1によるPAF15のユビキチン化の分子機構を解明するために、大型放射光施設Photon Factoryの強力なX線源を用いて、PAF15とUHRF1の複合体構造をX線結晶構造解析法で決定しました。その結果、PAF15のN末端配列が、UHRF1のもつPHDドメイン(UHRF1中央部に存在する機能ドメイン。UHRF1によるヒストンH3の認識やユビキチン化に必須であり、ヒストンH3のN末配列を読み取ります)により特異的に認識され、この相互作用がPAF15のユビキチン化に重要である、と分かりました。UHRF1のPHDドメインはヒストンH3のN末端配列も認識・結合すると知られており、UHRF1による基質認識に共通性がある、と初めて明らかになりました。

 DNAメチル化酵素は抗癌剤の作用点としても注目を集めており、この研究は、DNAメチル化継承の新たなメカニズムを明らかとした学術的な意義に加えて、DNAメチル化酵素阻害剤の開発推進に大きく寄与する可能性を示しています。今後、PAF15を標的とする脱ユビキチン化酵素の探索、またDNMT1とユビキチン化PAF15/ヒストンH3の結合を阻害する小分子化合物のスクリーニングなどにより、さらなる研究の発展を図る予定とのことです。また、PAF15は様々な癌細胞で高発現していると報告されており、PAF15の高発現がDNAメチル化制御に与える影響を明らかにすることは、今後の重要な課題と考えられます。


参考文献:
Nishiyama A. et al.(2020): Two distinct modes of DNMT1 recruitment ensure stable maintenance DNA methylation. Nature Communications, 11, 1222.
https://doi.org/10.1038/s41467-020-15006-4

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